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59『大・口・論』

「はぁ…」


 フィーナは陸船に揺られながら大きく溜息をついた。

 結局、大宴会は夜通し続き、亡くなった三人の警邏隊の葬式にも出席した。マリエッタやキャスリーンの強引な意見もあり、町にはその後一週間滞在するはめになった。

 その間、フィーナは魔女の話をしたり、イーナに治癒魔法をかけてもらったりしながら過ごした。


 フィーナはだいぶ回復したが、それまでキャスリーンの熱烈な看護を受けるはめになった。フィーナが他の人にお願いしても、キャスリーンはそのお願いをぶんどってフィーナに尽くそうとするのだ。

 看護に徹するキャスリーンの荒い鼻息を身近で感じながら、フィーナはどうしてこうなった、と遠い目をして放心していた。

 幸い、キャスリーンが暴走しそうになると、マリエッタやデイジー達が止めてくれたが、フィーナはいつ襲われるか分からない恐怖に心底怯えた。なまじ拒否してしまうと後々ヤンデレ化のような、大変なことになり兼ねないので、フィーナはキャスリーンの扱いに困っていた。



 魔女の家に置いてきた鳥の魔物は留守中、パメラが面倒見てくれたようで、餓死することなく籠の中で呑気に眠っていた。

 目覚めてフィーナ達が帰ってきているのに気づいた時、鳥の魔物は何かを思い出したのか、ブルブルと震えてパメラに甘えだした。パメラの少しふっくらとした胸に顔を埋め、「クケ……クケ……」と愉悦を感じてそうな鳴き声を出したので、火魔法の種火を見せて、「今日は焼き鳥ね………」と脅してやった。鳥の魔物は怯え、首を振って拒否していた。

 鳥の魔物は魔物の癖に、言葉がわかるらしい。

 鎮静剤の量も減ってきているので、経過次第では鎮静剤なしで魔物を使役することが出来るかもしれない。このエロ鳥は使役したくないが。


 村に帰る日にはアルヴィンが礼を言いに来た。まだ辛そうだったので、手早く済ませてレンツへと向かったのだった。



「やっと家に帰れるね」

   

 イーナが感慨深げに呟く。


「色々と大変な休暇になっちゃったねー」


「デイジーは新しい靴が欲しい! 新技で壊れないようなの!」


「それは魔道具分野にお願いしないと………報酬もたくさん貰ったし、奮発して一式全部新しいのにしたら?」

 

「フィーナ頭いい!」


 サーペントの巣を殲滅した報酬は金貨千枚にも及んだ。

 洞窟で採れた鉱物はレンツに帰って検査することを伝え、追って調査書を送る約束をした。アルフは「息子の命を救ってくれた上に、調査までしてくれるとは………!」と感激し涙していたが、フィーナ自身が気になっているのだから、問題ないと伝えた。


「この石綺麗だよねー」


「この色は多分魔法属性を表してると思うんだよね」


「これも魔道具分野に渡すの?」


「調査は錬金術分野でやりたいんだ。どういう物か分かったら、利用方法は魔道具分野に任せてみる」


 イーナとフィーナは色の着いた結晶について話していたが、デイジーはつまらないのか、陸船の外の景色を身を乗り出して眺めていた。デイジーの頭の上ではミミが振動と風で揺さぶられ、落ちそうになっていた。

 フィーナは落ちそうになっていたミミを受け止め、燻製肉をあげた。【黒影】を使って丸一日、洞窟を走ったミミは駐屯地に着いてへばってしまったらしい。フィーナの身が危険だと感じていたようだが、供給される魔力も無く、使い魔としての身を守るため、冬眠のように深い眠りにつくことしか出来なかったらしい。

 眠りこけているミミを影に入れてやり、やっと魔力が回復し、こうして行動をともに出来ているのだ。


「ミミ、頑張ったね………お疲れ様」


「ご主人………帰ったらご主人がほぐしてくれたササミを食べたいニャ………」


 丸くなるミミの頭を撫で、燻製肉で餌付けしながら労う。ミミは気持ち良さそうに目を細めた。


 その光景を見て、頬をふくらませているのはエリーだ。エリーはイーナの影にずっと入っていたので、とても心配していたらしい。プンプンと怒っていたエリーだったが、目の前にチェリーをぶら下げてイーナが謝ると、すぐに機嫌を直して許すあたりエリーらしい。


 途中、行きと同じで野営地に一泊し、一行はレンツへと向かった。


 

「着いたー!」


 フィーナは陸船から降りて大きく伸びをした。体の痛みは引き、万全とまでは行かないが動くこともできるようになっていた。もう看病は必要ないとキャスリーンに言うと、酷く残念そうな顔をされた。


「おかえりなさい、フィーナ」


「ただいま、母さん」


「おかえり、フィーナ君」


「サナさん! ただいま!」


 出迎えにはレーナとサナが来てくれた。サナの後ろに栗色おさげの見慣れない魔女がいた。やたらとフィーナ達を睨んでいたので、フィーナは少したじろいでしまった。


 サナの紹介によると、栗色おさげの魔女はジャクリーンというらしい。


「サナお姉様(・・・)のご紹介に預かりました。ジャクリーンです。よろしくお願いします」


「「「お姉様?」」」


 フィーナ達が声を揃えて聞き返すと、サナは困った顔をした。


「あー、なぜかそういう呼び方をされているんだ。実の妹では無いんだけどね」


 妹ではないと聞いたジャクリーンは酷く狼狽えていたが、ギロリとフィーナ達を睨んで威圧してきた。


 (サナさんかっこいいもんね………。狂信的に慕われる気持ち、ちょっとわかるかも……)


 フィーナは周りを所在無さげにうろうろするキャスリーンを見てそう思った。キャスリーンはフィーナが見ている事に気づき、ビッグフットラビットの突進が如く走ってきた。何となく嫌な予感がする。



「あなた達がサナお姉様のお気に入りの子たちですか。ちんちくりんで愛想もないですね。本当に優秀何ですか? ギルドマスターや分野長に取り入るのが上手いだけじゃないんですか?」


 ジャクリーンが惜しげも無く毒づく。真っ向から批難されたフィーナ達はポカンとしてしまった。あまりの変わり身に、サナも驚いている。

 しかし、そんな中でフィーナをこよなく愛するキャスリーンは、ジャクリーンの無礼な態度に激怒した。


「何ですの貴女! フィーナさんは町から山のような感謝状と、多額の報酬を受け取るぐらい凄い人ですわ! わかったような口を聞かないで頂けますこと!?」


「魔女なら感謝状や報酬を受け取ることはよくあります。その数が多少多かろうが、関係はありません。私でも町の一つや二つの依頼なんて簡単にこなせますよ」


「おほほ! あなたがフィーナさんと同じことを出来ると? 自惚れが過ぎますわね。あなたでは一生かかっても、フィーナさんの功績には及びませんことよ」


「……あなたは何なんですか? 私はあなたと話す気はありません。私はこちらのちんちくりん達と話がしたいんです。あなたは黙っててくれますか?」


「わたくしはフィーナさんの親友(・・)ですから! 親友が悪く言われるなんて黙ってられませんわ! あなたこそさっさと帰って、フィーナさんに追いつけるように魔法の練習でもしたらどうですの?」


「‥‥‥‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥」


 キャスリーンとジャクリーンは互いにギラギラと睨み合いながら罵りあった。フィーナ達とサナは二人の剣幕に口を挟むこともできなかった。

 二人はそれ以降もボルテージを高めて火花をちらし合うので、見兼ねたレーナが風魔法で吹き飛ばしてしまった。心無しかジャクリーンのほうが遠くに飛ばされていたが、杞憂だろう。


「全く! サナ! あのこは貴女がきちんと躾なさい! マリエッタ! 貴女も遠くからニコニコしてないで止めなさい!」


 レーナはいい大人であるサナとマリエッタを叱り飛ばし、フィーナ達の手を引いて帰った。  


 フィーナはレーナのお怒りは恐いな、と思いつつも、キャスリーンがフィーナのために激怒したことを少し喜んでしまった。


 これからサナと合う時はジャクリーンも付いてくるのだろうかと思うと、少し不安になった。そして、水と油なキャスリーンとジャクリーンを近づけてはいけないなとも思うフィーナであった。




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