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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
魔女と襲撃者編
6/221

6『村を散策』

「靴下はこれを履くといいよ。見習い限定だから成人魔女になると履けないんだよね」


 

 手渡されたのは白のニーソックスである。膝丈のスカートとマッチしていい感じだ。成人するとロングスカートしか履かないので、ニーソは見習いの限定品になるようだ。スカートに布製のベルトが付いていて、ニーソがずり落ちないように布紐で固定出来るようになっている。

 イーナは紐の結び方一つをとっても並々ならぬ拘りがあるようで、フィーナの「適当でいっか」の精神で不格好に結んだ紐を引き千切るように解くと、真剣な表情で結び直した。

 イーナが結び直した紐は左右均等で洗練されていた。



 日本だったらコスプレ衣装のようだが、経験のなかった身としては新鮮な気分だった。フィーナとしての気持ちも入っているのか、新入生のようなワクワクとした心持ちになっていく。

 気分はさながら魔女っ子である。魔法少女でないところがミソだ。



「二人とも着替えたかな?それじゃギルド見学に行こっか!」



 イーナを先頭に水浴び場を出る。村の中心地に向かうに連れて、昼過ぎという時間も相まってチラホラと人が増えていく。服装は普段着だったり、魔女の正装だったりまちまちだ。

 目的があって村をぶらついている人が大半なのだが、中には道半ばで友人と話ふける人もいる。そこに新たな人が加わり、最終的に五、六人で姦しい談議を始めている。まるで診療所に集まる老人達のようだ。

 田舎特有ののんびりとした雰囲気はこの世界でも変わらないようで、共通する空気感にフィーナは少しばかり嬉しくなった。



 一際大きな建物の前の広場では、簡易的な屋台や風呂敷を轢いて商売をしている人がいた。みな女性だが中には普通の魔女では無く、魔女商人として村に住んでいる人もいるようだ。



「ちょっと時間あるから市場をまわってみよっか?」


「わーい!」



 デイジーはイーナの提案を聞くやいなや走り出した。


「ちょっとデイジー!! もう! フィーナはここにいてね、すぐ戻るから!」



 イーナはデイジーを追いかけていった。人混みはまばらだが、同じような格好をした人が多いのですぐ見失ってしまった。待ち合わせをするとしたら、かなり難易度の高い場所だ。もし間違えて見知らぬ人に「姉さん」などと話しかけてしまえば、恥ずかしさを三日は引きずる自信がある。

 小さな村だし、行き交う人も皆顔見知りなので、見知らぬ人というのはありえないのだが。



(ここで待ってればいいとは言ってたけど……)



 あたりを見回して途方に暮れていると見覚えのある人物から話しかけられた。フィーナの記憶では、よく野菜を売りに出している商人魔女のエマという人物らしい。イーナと良くお使いに来てはサービスしてくれる気前の良いおばさんだ。



「こんにちは、フィーナ」


「こんにちは、エマさん」


「今日は一人で買い物?」


「姉さんとデイジーが一緒なんだけど、はぐれちゃって」



 フィーナはペロッと舌を出して子供っぽさアピールする。イーナが戻るまでエマの店で、果物でもご馳走になろうという魂胆が見え隠れしているが、エマはフィーナがそんなことを考えているとは全く気付かなかった。



「あら、大変ね。私のお店で良かったら一緒に待っててあげるわよ?」


「ありがとうございます! エマさん!」



 フィーナは心の中でニヤリと笑みを浮かべながらエマの店に入る。

 店と言っても簡素なもので、商店街の八百屋を古めかしたような佇まいをしている。ここからならさっき居た場所を確認出来るので、イーナが戻って来たらすぐわかるだろう。



「ただ待ってるのも暇でしょ?これ食べていいわよ。私のおやつなんだけど余ってるから」



 店のテーブルに数種類の果物が入った皿が置かれる。日本では見たことない果物ばかりだが、この付近で採れる果物らしく、どれも瑞々しく美味しそうだ。

 エマは自身の畑も持っており、普段はそこで採れた野菜を店頭に並べている。果物が店頭に並ぶことは稀で、大抵はエマのおやつとなっているようだ。

 果物は森の中で採取している為、数が取れない上に利益も小さい。専らエマのささやかな楽しみとなっているのだが、そんな楽しみを分けてくれるエマは市場で最もフィーナを可愛がってくれる魔女と言えるだろう。


 この世界での初めての甘味は自然の中で育ったと言えど、中々に美味だった。

 程よい酸味と甘みを楽しんでいるとイーナがデイジーの手を引き戻ってきた。フィーナはエマにお礼を言い、イーナの元へ小走りで向かった。



「ああ、良かった。フィーナまで居なくなったのかと思っちゃった。時間無くなっちゃったから市場回るのはまた今度にしよ!」



 フィーナは果物を満足するほど食べられてご満悦なのだが、顔には出さず、市場を回れなかったことが残念であるという顔を繕った。エマに果物を馳走してもらったと言うのは簡単だが、言えばイーナもデイジーも羨ましがるに違いない。特にデイジーはエマの店に突っ込んで迷惑に成りかねないので、ここは黙っていることにした。



「フィーナ……何か隠してる……?」



 デイジーがこちらの目をじっと見つめて訝しんでいる。お転婆で元気な娘だと思っていたが意外にも勘が鋭い。一瞬ドキリとしたフィーナを見て、デイジーはますます訝しんだが、イーナが先を急ごうとしたので有耶無耶になった。若干、消化不良のような顔をしたデイジーだったが、ポケットに忍ばせておいたブドウのような果物を口に入れてやると、頬が緩んでニコニコしたいつもの顔に戻った。



「この大っきな建物が魔術ギルドだよ。魔術ギルドは魔法分野と魔道具分野、それから錬金術分野に分かれているの。フィーナとデイジーは見学したら何処に入りたいか決めてね」

 


 見習い魔女は十歳になると一つの分野に所属することが義務付けられている。一つの分野で大体二年ほど学べば魔女の職につけるという。たまに丸っきり魔女の才能がない人が出るそうだが、そういう人は算術や文字、専門的な分野を勉強してエマのような商人になったり、弓を練習して狩人になったりするらしい。彼女達のような人材は村になくてはならないため、才能のない者への風当たりが強い、何てことはないという。

 実際、エマの野菜は美味しいし、人を見下すような風習が無くて良かったと思う。



「それじゃあいくよー」


「ほーい」


「はーい」


 イーナの掛け声に陽気に返事をする。

 周囲の人々が微笑ましそうに見ているので、少し気恥ずかしいが、「子どもだし、まあいいか」とフィーナは恥じる心を放棄した。

 デイジーだけイーナに腕を掴まれているが、デイジーは特に気にする素振りを見せず、目を引くものがあれば駆け出さんとしている。それをイーナは強引に引き連れているのだから、フィーナはただイーナに勤労への感謝を向けるのだった。



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