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54『三叉首の大蛇』

 洞窟内の深いところまで来ているとフィーナは感じていた。フィーナ達は順調に歩を進めていた。その間、魔物は先程のサーペント以外は現れなかった。

 昨日と同じ様にデイジーのお腹が鳴ると、いつも通りに夕食にした。夕食後はティータイム兼作戦会議を開き、今後のことを雑談混じりに話した。


 昨夜と同じ様に寝る時にはミミに番を任せたが、二日連続で寂しい夜の番を任せられるミミはブツブツと文句を言っていた。それでも帰ったらササミをプレゼントしてあげると約束すると、耳をピコピコさせて反応するのだから、現金な奴である。



「ご主人、おはよーニャ」


 フィーナが朝早く目覚めると、ミミは見回りに行っていたようで、辺りのことを報告してくれた。


「この先に大部屋があるみたいニャ。中は調べてニャいニャ。どうするニャ?」


 ミミは文句を言っていた割に、ちゃんと番をした上で、見回りという命令以上の事をしてくれていたようだ。その甲斐甲斐しさにフィーナは感激してしまった。


「ミミ〜! ミミはほんとに可愛いなあー。うりうりしてやる〜」


「フニャ! あぁ〜ご主人のモフりはやばいニャ〜」


 フィーナがミミを抱いて、存分にモフり、愛でる。イーナはその様子を羨ましそうに見ていたが、フィーナは気づいていない。

 存分にモフられたミミは心底心地良さそうに喉を鳴らしてフィーナに甘えた。

 フィーナは寝起きで覚醒しきってない頭を無理やり働かせ、ミミの報告を吟味した。


 今日で洞窟に入って三日目である。予定では今日中に洞窟から一度出ないといけないのだが、この先の大部屋に何かありそうな気配がプンプンする。ここはイーナに判断を仰いでみることにした。


「姉さん、どうする?」


「うーん………まだ成果らしい成果を見つけてないし、大部屋は気になるよね。とりあえず確認だけして、警邏隊の痕跡もなかったら引き返そう」


「りょーかい」

 

 イーナの考えにフィーナも賛同した。デイジーは未だ涎を垂らして寝ている。



「デイジー起きなよー」


「むぅ〜。もうちょっと寝かせて〜」


 デイジーは寝返りを打つと、また、くうくうと寝息を立て始めた。このところ洞窟内での起床が続いたので、疲れが溜まっているのだろう。ミミが見張り番をしているとは言え、魔物が出ればフィーナ達が対応しなければならない。そんな緊張した中、眠りが浅い状態が続けば、疲れが溜まるのも頷ける。

 よく見ればイーナも少し疲れた顔をしている。フィーナは自分も疲れた顔をしているんだろうとペチペチと頬を叩いた。


「フィーナ、任せて」


 あまりにも起きないデイジーにイーナが痺れを切らした。


「早く起きないと朝ご飯無くなっちゃうよー」


 イーナがデイジーの耳元でボソリと呟くと、デイジーはガバッと起き上がり、「ダメーー!」と大声を上げた。



 眠たい目を擦りながらも朝食を済ませ、デイジーにもこの先の大部屋を確認したら戻ることを伝えた。デイジーは話半分に聞いていたが、ガオが頷いていたので大丈夫だろう。



 大部屋に近付くとエリーが怯えたような声を出した。


「ご主人様〜。この先にでっかい反応があるの〜」


 エリーの怯えようからして、かなりの難敵だろう。フィーナ達は退却時の作戦を確認し、大部屋に入った。


 大部屋はドーム型で、広々としていた。地面や壁、天井など至るところに【散光石】が見受けられ、キラキラと輝いている。まるでプラネタリウムの中にいるようだ。

 どうやらここが終点のようだ。入り口はフィーナ達が入ってきた所にしかなく、出口はない。代わりにかまくらのような穴が壁に無数に開いている。

 フィーナ達が大部屋に足を踏み入れた時、一際大きな穴からそいつは現れた。


 三股に別れた首を持ち、赤い目を光らせている。サーペントの数倍は大きいであろう大蛇だった。蛇皮は深緑色や紺色に艷やかに煌めき、舌をチロチロと動かしている。時折、大きく口を開け、鋭い牙を見せてフィーナ達を威嚇し、シーーー!と殺意の篭った鳴き声を上げた。


 あまりの圧巻たる大蛇の威圧にフィーナ達は動きを止めていたが、大蛇が急接近して攻撃を仕掛けようとしていると見ると、一気に火がついた様に動き出した。


「戦闘開始! 目標は前方の大蛇!」


「新! ひっさーつ!」


 イーナの声を聞くやいなやデイジーが飛び出した。


「デイジーキャノーン!」


 デイジーが大砲の砲弾の様に飛び出し、三叉の真ん中の頭に突っ込んだ。

 デイジーの新必殺技は風魔法と強靭な跳躍力で突っ込み、蹴り飛ばすと同時に雷魔法で電撃をお見舞いする技のようだ。

 ちなみに名付けはデイジー本人である。前にフィーナがデイジーに作り話の英雄譚を聞かせたところ、感銘を受けて思いついたらしい。あまりにもデイジーが得意げだったので、フィーナはその名前を変えさせることは出来なかった。ニコニコ顔のデイジーに、誰がダサいなんて言えようか。


 デイジーの新必殺技によって、三叉の頭の一つは後ろ側にダランと(もた)げ、電撃によって白い煙をあげていた。デイジーの攻撃を受けた頭には動く様子は見られないが、残りの二つの頭は攻撃を受けたことで怒っている。

 三つの頭にはそれぞれ別個の意思が存在するようだ。こういう蛇を倒すには、セオリーとして頭全てを破壊しなければならないはずだ。セオリー通りにいくかわからないが、やってみる価値はあるだろう。

 

 

 大蛇は危険性を感じ取ったのか、先程よりも鋭い殺意をほどぼらせた。

 大口を開け、残った二つの頭が交互にデイジーに喰らいつこうとする。デイジーは先程のふざけた名前の技で足を傷めたのか、動きが鈍い。


「デイジー、下がって!」


「フィーナ!」


「了解!」


 デイジーが退いたのを確認し、フィーナが天井から土魔法で円錐状の岩を無数に降らす。


 大蛇は尻尾でその岩をはたき落としていく。岩の一部が大蛇の胴体に刺さったが、傷は浅く、ほとんど皮の部分で止まっているようだ。

 フィーナは苦々しげに唇を噛んだ。

 デイジーの新必殺技とやらで頭の一つは潰せたものの、大蛇の皮は分厚く頑丈で、並大抵の攻撃では傷つけられなさそうだった。

 更に、デイジーは攻撃の反動で足を痛めている。もう一度、新必殺技を使うのは難しいだろう。

 だが、フィーナ達にも攻撃手段はまだ残っている。


「ガオ! あれ、出して!」


 デイジーが足を引き摺りつつ戻ってきて、ガオに催促した。

 ガオの口から吐き出されたのは対巨大魔物用のバリスタだ。王都納品用の物だったが、城壁のサイズと合わないと言われ返却されたのをフィーナ達が買い取ったものだ。

 その後の調査で、王都側の注文に不備があったとして、今は新しいバリスタを製作中である。


「設置、補強完了! デイジー! 弦を引いて!」


「ふんぬー!」


 バリスタの弦は恐ろしく固く、フィーナやイーナではぴくりとも動かせない。デイジーだけが引き絞ることが出来るのだが、足を痛めている分辛そうだ。


「フィーナ! 矢の製作お願い! あいつの目を眩ませるからこっちを見ないでね!」


 イーナが前に出て、フィーナが下がる。フィーナの角岩落としで多少傷ついた大蛇がイーナに襲いかからんと威嚇する。

 イーナはクロスボウで矢を放った。大蛇は小さな矢を気にも止めずイーナを噛み砕こうと大口を開ける。


 その瞬間、矢が大量の光を生み出し、大部屋を真っ白に染め上げた。目を閉じていても、まぶたの血管が見えるほどの光量だ。暗い穴蔵に身を潜めていた大蛇にはかなりの苦痛だろう。

 目を潰された大蛇が怒りにもがき、暴れた。

 大蛇がのたうち回る事で、大部屋全体が揺れ、壁が抉れる。


「姉さん! 出来たよ!」


 フィーナはよろめきながらも、土魔法で頑健に作り上げた矢をデイジーに手渡した。

 数キロはありそうな岩の矢をデイジーが設置し、イーナがバリスタを操作する。暴れる大蛇の頭の一つを狙い打つつもりのようだ。

 激しく暴れているため、なかなか狙いをつけられずにいたが、イーナは頭の一つが壁に打ち付けられて怯んだ一瞬の隙を見逃さず、トリガーを引いた。


 ガシャン!と音を立てて岩石の矢が飛び出す。唸りをあげて空気を切り裂きながら大蛇の頭めがけて矢が飛んでいく。


 矢は大蛇の右の頭の目元付近に刺さり、そのまま大蛇の頭部を引裂き、ドームの壁に突き刺さった。大蛇の頭がかち割れ、勢い良く鮮血が飛び散る。飛び散った鮮血がドームの天井赤く染めた。


 大蛇は痛みに叫ぶような鳴き声を上げたが、未だ倒れる気配はない。やはり頭全てを破壊しなければならない倒せないようだ。  

 ならばもう一度バリスタで狙い撃つまで、とフィーナが矢を作ろうとすると――――。


「どうしよう! バリスタ壊れちゃった!」


 と、イーナの焦った声が響いた。

 どうやらさっきの一撃の反動でバリスタが壊れてしまったようだ。フィーナは魔道具分野に胃が痛くなるようなクレームを入れてやると心に誓った。

 攻撃手段が一つ減ってしまったが、まだ魔力には余力がある。フィーナは二人を庇うように大蛇の前へと進み出た。


「デイジー、姉さんときたら次は私だね」


「やっちゃえ! フィーナ!」


 デイジーが拳を振り上げてフィーナを応援する。フィーナは精神を集中させ、体内の魔力を澱みなく全身へ行き渡らせる。

 大蛇は痛みを堪えながらも、その大きな尻尾で転がっていた岩を弾き飛ばし、フィーナにぶつけようとした。

 対するフィーナは迫りくる大岩に対して土魔法で壁を作って迎撃した。

 魔力を込めて岩盤のように硬く張られた岩壁は、飛んでくる岩を尽く弾き返した。


 効果がないと判断した大蛇が尻尾を叩きつけるようにしてフィーナに迫る。ヒュン、と風を切り裂く音を響かせながら尻尾が叩きつけられる。


 フィーナはそれをまたも土魔法で受け止めた。今度は岩壁ではなく、巨人の手のように形成し、がっしりと大蛇の尾を掴んだ。フィーナはさらにそこへ魔力を流し込み、巨人の掌にスパイク状の突起を出現させ、大蛇の尾に食いこませた。

 大蛇の尾から大量の血しぶきが舞い、地面を赤く染める。【散光石】の光が大蛇の血溜まりを赫赤と照らし、どす黒く艶めいている。


 大蛇は最早一つしか機能していない頭を振りかざし、巨人の岩手を噛み砕こうと噛み付いた。しかし、巨人の岩手は砕けることなく、さらには噛み付いた大蛇の頭を取り込もうと土石が頭を包み込む。

 フィーナは額に汗を掻きながら、大量の土を操って、大蛇の頭を埋めていく。


 大蛇は激しくのたうち回るが、すでに頭と尻尾を抑えられているため、徐々に動きが鈍くなっていく。

 大蛇の頭が完全に土に埋まり、鼻と口を塞がれ、大蛇は呼吸することが出来なくなった。


 そのまま暴れるも虚しく、大蛇の体がぴくりとも動かなくなった。フィーナは魔力の供給を止め、大きく息を吐いた。


「ぷは〜、きつかった〜」


「まさか窒息死させるとはね………私は考えつかなかったよ」


「ほとんど、いきあたりばったりだよ。上手くいかなかったらヤバかったね」


 フィーナは他にも手は考えていたが、大蛇が巨人の岩手を噛み付いたところで、この方法をとろうと咄嗟に判断していた。どうやらそれが功を奏し、三叉の大蛇の命を刈り取ることに成功したのだ。

 今、フィーナたちの目の前には巨人の手に尻尾と頭を包まれた大蛇が奇妙なオブジェに成り果てている。大量の血痕が大蛇を中心に周囲へ散らばり、凄惨な光景となっている。

 そんな中、デイジーが血を被ったあるものを見つけた。



「イーナ! フィーナ! 目標発見!」


「嘘!?」


 デイジーの元に駆けつけると、警邏隊のメンバーが倒れ伏していた。三人しかいなかったが、生きてはいるようだ。アルヴィンもその中にいた。大蛇の血を浴びておどろおどろしい見た目になっているが、目立った傷痕はないようだ。倒れていた場所が窪みになっていて、運良く暴れる大蛇から免れたようだ。


 フィーナは衰弱した警邏隊を運ぶ、救助を呼ぶべきかと思ったが、大部屋に空いた穴という穴からはサーペントが這い出てきたのを見て、考えを改めた。


 どうやらまだ危機は去ってくれないらしい。

 

 

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