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53『新しい洞窟 二日目』

 

 洞窟二日目、朝は洞窟内だというのに深い霧に包まれていた。

 普通ならこの深い霧の中、進むのは危険だとされるが、フィーナ達は魔女である。水魔法で霧を集め、大量の水の塊にした。さすがに大量の水を持ち運ぶことは出来ないので、氷魔法で全て凍らした。まるで氷の宮殿のようになってしまった洞窟内は、大量の氷によって、かなり冷え込んでしまった。

 

 あまりにも大量の水を凍らせたため、フィーナ達は魔力の回復を図るべく、昼まで休憩を余儀なくされた。しかし、すでにじめついた嫌な空気は無く、比較的過ごしやすくなっているので、あまり苦労はない。多少肌寒いが、休憩中は火に当たり、移動中は歩くので、自然と温まるだろう。


「あれ? なんか体の怠さがとれた?」


 フィーナ達はいつもの昼食の後のティータイムだ。進行に遅れが出ているとしても、このティータイムだけは外せない。そんな中、イーナが呟いた。

 イーナの言うとおり、魔力の使い過ぎで疲れた体に力が漲るようだ。普段のティータイムではこういう事はなかったはずだ。


「姉さん、このお茶に何か入れた?」


「ううん、いつものお茶だけど……エリー、何かわかる?」


 エリーはイーナの横でおやつのチェリーを頬張っていたので、何か見ているかもしれない。フェアリーは魔分反応に敏感で、魔物が近かったり、濃い魔分の集積地などを感じ取ることができる。


「ご主人様が使った水に大量の魔分が混じっていましたよー」


「え? 水? そっか、この水か……」


 イーナは大量の氷を見上げた。どうやらイーナは元は霧だった水を使ったようだ。汚かったらどうするのと怒ったが、イーナはちゃんと毒や水質を調べたらしい。飲食物の知識に置いて、イーナの右に出るものはいないので、フィーナは何も言えなくなってしまった。


(綺麗なのはわかるよ? けどさ、気分という物があるよね)


「姉さんが安全だって言うなら絶対安全なんだよね……でも何だろう? この気持ち」


「フィーナは気にし過ぎ! いーじゃん、ゴミが混じってるわけでもないしー」


「確かにこれは私の我儘だね……ごめん、デイジー、姉さん」


「わかればいーの」


 デイジーは納得したかの様にうんうんと頷き、レモングラスのハーブティーをくぴりと飲んだ。デイジーはまったく気にしないようだ。


「この水がなんで体の怠さをとるの?」


「多分、水に含まれてる魔分を取り込んだからじゃないかな? そうだとしたら、この氷の水使えるね」


 イーナはなるほどと手を打ち、早速氷のいくつかを溶かし、水袋に入れていった。この氷が天然の魔力回復ポーションになるとは誰も思わないだろう。しかし、魔分を大量に摂取するのは非常に危険であるため、用量を厳密に守らないといけない。今回は運良く一杯のお茶がその用量だったのだろう。今度からはイーナがきちんと管理して提供してくれるだろう。


「運良く早めに回復出来たし、急ごっか?」


「そうだね」


 フィーナ達はティーセットをガオの口に押し込んで、先を急ぐことにした。ガオは文句も言わず、黙々とイーナの後を追っている。


 

 洞窟は上下左右にぐねぐねと続いており、フィーナ達は歩きやすいように何度も土魔法を使う破目になった。それでも整地しないで進むよりは遥かに速かった。警邏隊がどれほどの速さで進んだか分からないが、この調子なら追いつけるのではないかとフィーナは思っていた。


「……んっ、前方から濃い魔分を感じるよ……。多分魔物だと思う」


 ガオの背中で昼寝をしていたエリーがハッと目を覚まし、注意喚起した。フィーナ達は気を引き締め、前方から漂う異様な雰囲気に身震いした。



「うぅサーペントかぁ〜」


 イーナが呻き声を上げる相手は丸太のように太い胴と、大きな口、鋭く、毒液に塗れた牙を持ち、三人の身長を合わせた長さよりも長い体躯の蛇だ。

 サーペントはその種類も多く、ほとんどが毒蛇型の魔物だ。人間が噛まれると、毒によって死ぬ前に失血死するので、血清はほとんど作られていない。


 サーペント自体はレンツの森にも生息しているので、それほど厄介な相手ではない。洞窟内は狭いので、回り込んで攻撃などもできない。真正面からの純粋な速さと攻撃力勝負である。


「はい、姉さん」


「ありがと、フィーナ」


 フィーナが手渡したのは空気中の水を集め、凍らせた氷の矢である。イーナはサナに教えてもらった魔法矢を毎日練習していた。力の弱いイーナは弓を引き絞ることが出来なかったので、クロスボウ型の魔道具を開発してもらった。

 魔道具分野の魔女達は例の如く泣き笑いしながら仕上げてくれた。その様子は少し狂気染みていたが。


 魔道具分野の頑張りによって、ようやく実戦で魔法矢を使えるようになったイーナは最初はかなり苦労していた。

 クロスボウの反動に肩を傷めたり、矢を形成するのに時間がかかり過ぎたり、狙いを外しまくったりと、涙目になりながらもイーナは諦めなかった。その介あって、今ではサナにお墨付きを貰えるほど上達した。


 イーナはフィーナが作った氷の矢を弦にかけた。イーナ専用のクロスボウは通常よりも小さいが、フィーナ考案で狙いが付けやすいようアイアンサイトが付いている。もちろんスコープも魔道具として開発中だ。

 イーナがクロスボウのトリガーを引くと、透明な氷の矢が光の軌跡を描いて飛んでいった。サナが使う魔法矢と同じ光の軌跡である。魔法矢は風を切り裂き、サーペントの頭部に突き刺さった。


 サーペントは小さい悲鳴も上げる暇すら無く倒れた。イーナはクロスボウを背中に背負い直した。


「イーナすごく上手くなった」


「ほんと? フィーナが矢を作ってくれるから、ちょっと楽になったよ」


「私が矢を作ってる間、姉さんはクロスボウを取り出して弦を引いてるし、その方が効率がいいからね」


 本来は矢の形成や弦の引き絞りまで全て一人でやるのだが、イーナはまだ慣れていないので、フィーナが手伝っているのだ。フィーナとイーナの阿吽の呼吸で最適なタイミングで最適な矢を敵に当てることができるので、この方法は誰もが取れるわけではない。現にデイジーが代わったところ、矢が折れてしまったり、タイミングが違っていたりとミスが目立った。



「最初の魔物がサーペントなんて、なんか嫌な感じだね」


「姉さんは蛇が嫌いだもんね」


「だって、気持ち悪いよ!? デイジーはよくあんなのを殴ったり蹴ったり出来るなって思うもん!」


「ん? 呼んだー?」


 デイジーはサーペントの体を捌き、後処理をしていたが、自分の名前が呼ばれると、こちらを振り返った。フィーナは何でもないと言うように手をヒラヒラとデイジーに振った。


「蛇の肉はタンパクで美味しいらしいよ」


「やめてよ! それデイジーには絶対言わないでよね!」


 フィーナがぼそぼそとイーナに教えると、イーナは泣きそうになりながら拒否した。デイジーに聞かれていたら、強制的にサーペント料理を作らされるだろう。イーナとしては、それは難としても避けたかったようだ。



 フィーナはデイジーが捌いたサーペントの毒液を瓶に入れ、劇薬、毒薬の入った箱に仕舞った。魔法矢の矢尻に塗って使う為のものだ。他にも捕獲のための非殺傷用の毒薬なども準備している。




 サーペントをあっさりと撃退したフィーナ達は意気揚揚と先へ進んだ。フィーナ達のこ気味良い声は洞窟内に響くことなく天井や柔らかい壁に吸収されていった。フィーナは多少不安を覚えながらも、この三人が揃っていれば、恐いことは何も無いと自分を励まして先へ進むのだった。



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