50『新たな依頼』
短かいです。
盗人のアジトから荷物を取り返したフィーナ達は買い物に戻る気にもなれず、早々と魔女の家に帰った。
フィーナは早速デイジーに買ってもらったティーカップでお茶をを飲む。イーナが買った、新しい紅茶だ。僅かな渋みの中に、深い香りが感じられる、美味しい紅茶だ。
「取り返せてよかったね」
「まったくだよー。はぁ〜美味しい。ありがとね、デイジー」
「えっへへ〜」
デイジーは嬉しそうに、かつ恥ずかしそうに笑った。フィーナは雑貨屋で買ったクッキーを頬張りつつ、紅茶を飲む。このひと時がまさに至福だ。
「アルフさんに報告しなくて大丈夫かな?」
フィーナがイーナに囁く。面倒事を起こしてしまったので、処理する立場のアルフが少し可哀想だ。次に魔女の家に来る魔女達のためにも、あまり大事にはしたくないのだ。
すでに土地売り等をしてしまっていて、他の魔女の負担になっていることをフィーナは考えていない。デメトリアが聞いたら頭を抱えるだろう。
コンコン
「あれ? 誰かな? もしかしてさっきの盗人?」
「かもね。警戒はしとこう」
イーナが玄関に行って、扉を開けずに聞き出す。
「どちら様ですかー?」
「ん? 町長のアルフですが…?」
「噂をすればってやつですね……今開けまーす」
ガチャリと音を立てて小太りな町長が入ってきた。今日はアルフ一人だけのようだ。
「何か用ですか?」
フィーナがアルフに尋ねる。アルフが来る用事など販売会が終わった後、特にないはずなのだ。
「うむ、実はご相談したいことがありましてな………聞いてもらえますかな?」
フィーナ達は内心、盗人のアジトを襲撃したことだろうかと思っていた。しかし、幾らなんでも襲撃からあまり時間も経ってないのに、来るのが早すぎる。別件だとしても、あまり良い予感はしないのだが。
そう思いつつもフィーナ達は頷いて、紅茶を出し、話を聞くことにした。
「実は一昨日、森のそばで洞窟が発見されましてな。町の警邏隊で探索させたのですが、一向に戻る気配がありません。 今まで洞窟など無かったので、何が潜んでいるやもわかりません。貴女がたには警邏隊の救助をお願いしたいのです。そして洞窟の内部の調査も出来ればお願い致したい。どうか力を貸してくださいませんでしょうか?」
「警邏隊の人数を教えてください」
「五名です。一般的な警邏ですが、近郊の魔物なら楽に狩れるほどの実力者達でした」
フィーナはふうむと考え込んだ。帰りの商隊が来るまで後約一週間。受けるとしたらその期間以内に終わらせなければならない。商隊も一日二日は待ってくれるだろうが、載せている荷物によっては早く村に届けなければいけないかもしれない。洞窟内の規模が分からない上、警邏隊を見つけたとしても動けるかどうかも分からない。デイジーが引きずって連れて帰るわけにもいかないだろう。
「すみませんが―――――――」
「そこをなんとか! 頼りに出来るのは貴女がただけなのです!」
フィーナが断ろうとした瞬間、察したのかアルフも食い下がる。
「洞窟に入った警邏隊には息子のアルヴィンもいるのです! お願いします! 息子を助けてください!」
にじり寄るアルフにフィーナはたじろいだ。息子が洞窟内で遭難となると、アルフもかなり参ってしまったのだろう。よく見ると目の下には隈ができていて、憔悴した顔をしている。
フィーナとしても顔見知りが遭難し、死亡して発見されたと聞かされると夢見が悪い。
「わかりました。一週間の期限付きで請け負います。その間に見つけられなければ、別の人に頼んでください」
「あ、ありがとうございます!」
アルフは土下座する勢いで跪き、頭を垂れた。成功報酬と依頼報酬の増額、さらに失敗してもペナルティは無しでいいと言われた。やはり町長もお金持ってたんだなとフィーナは思った。
アルフが散々お礼を言った後、依頼として受理し、本格的にどうするかフィーナ達で話し合った。この町近郊の魔物は弱いが、魔法無しで倒すのは難しい。それをやってのける警邏隊はやはり腕が立つのだろう。しかしそんな警邏隊が戻ってこれないほどの難易度の高い洞窟である。万全の準備が必要だろう。
「洞窟か〜。レンツ・ウォールを思い出すね」
「あの時は事前情報があったから楽だったけど、今回はそれがないから難しいね。それに洞窟は狭いからラ・スパーダも産まれやすいし」
ラ・スパーダは魔物と魔物のかけ合わせで生まれるが、通常魔分の濃い場所でしか発見されない。例外となるのが洞窟だ。洞窟内は魔分が篭もりやすく、魔物達の行動範囲は変わらないため、魔物同士の交配が盛んに行われる。ほぼ産まれることがないのだが、たまに産まれてくることがあるらしい。
「ラ・スパーダ……来るなら来い!」
デイジーは目を輝かせていた。強敵と戦えるのが嬉しいようだ。フィーナとイーナは溜め息をついて、明日洞窟に突入することにした。