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42『宴会会場』

 

 フィーナ達が商隊の野営地に戻ると、商隊の魔女達はギョッとした顔でフィーナ達を見た。

 デイジーの肩にはガッシリとした頑丈そうな木の枝に、ぐるぐる巻きにされた鳥の魔物のがぶら下がっていて、だらりと舌を出して気絶していた。

 さらに、フィーナとイーナはそれぞれ一羽ずつビッグフットラビットを重そうに担いでいる。


「食事の用意、まだ終わってないですよね」


 イーナが気にする素振りも見せず、ビッグフットラビットを地面に寝かせると、器用に捌き始めた。水魔法で綺麗に血抜きされた哀れな兎は、イーナによって次々と肉塊に切り分けられている。

 イーナの調理スキルは日に日に磨かれていた。愛用のナイフで捌く姿は惚れ惚れするほどだ。イーナはナイフの手入れに余念がなく、特に採集や依頼で外に行く時は念入りに手入れしている。イーナのナイフの数はフィーナでさえ把握してない。最近は魔道具分野と新しいナイフを開発したらしく、一匹捌くのに十分もかからないという、驚異的なスピードを身につけていた。


 デイジーはそんなイーナの側で待機している。力のいる作業等はデイジーがテキパキと手伝ってくれる。そうした方が早く食事にありつけるからだ。

 そんな中、フィーナもサボっているわけではない。フィーナは火の準備をしたり、水を汲んできたりと下準備をするのだ。決して雑用ではない。長く三人でやってきて、これが一番早いのだ。


「ヤロウの若葉もあるし、スープにしようか」


 ヤロウは日本でいう、ほうれん草のように茹でて食べることができる。大きな葉は胡椒のような辛味を持つので、スープとの相性も良い。

 イーナはビッグフットラビットの一匹をスープに、一匹を網焼きにするようだ。商隊の魔女達もご相伴に預かろうと、イーナの指示通りに手伝っている。


 (食の場でも指揮官だね……)


 成人魔女をくるくると使い回すイーナはどことなくイキイキとしていた。


 食事の用意が終わり、商隊が円になるようにぐるりと囲んで座る。少ないながらも果実酒も振る舞われるようで、野営地はちょっとした宴会会場になっていた。見習い魔女達は酒を飲まなかったが、キャスリーンが間違えて飲んでしまったらしく、目を潤ませて縋ってくるキャスリーンを引き離すのが大変だった。


「あ〜フィーナさ〜ん、貴女に助けられてから、わたくし、世界が輝いて見えますわ〜」


 キャスリーンが頬を紅潮させ、唇を突き出してフィーナに迫る。フィーナはキャスリーンの顎に手を当て、これ以上近づかないように力を入れる。しかしキャスリーンの力は凄まじく、段々と唇が迫ってくるので、フィーナは思わず雷魔法を使ってしまった。


「あぶん!」


 踏み潰されたカエルのような声を上げたキャスリーンはそのまま崩れ落ち、すうすうと寝息をたて始めた。雷魔法でキャスリーンの髪の毛が逆だっていたが、大したことはないだろう。


「ごめんなさいね、フィーナさん。でもこんなに幸せそうなキャシーは初めて見ますの。母親なら止められませんわ」


「あ、あはは……」


 (母親だから止めるでしょ! 実の娘が危ないことになってるのに!)


 フィーナは心の中でそう思いつつも、マリエッタの満更でもない顔を見て、口から出そうになった言葉を飲み込んだ。やはり親子である。


「そういえば、デイジーさんが担いでらっしゃった鳥の魔物……あれはなんですの?」


「どうやら新種の魔物のようです。トレントに話を聴いたところ、複数新種が発見できそうなので、デメトリアさんに報告しようかと」


 フィーナの言葉にマリエッタだけでなく、周囲の魔女も驚いていた。


「トレントとお話ししたのですか? 一体どうやって……それに新種の魔物の出現ですか……」


「姉さんの使い魔はフェアリーなんです。フェアリーはトレントと話ができるそうですよ」


「まあ! 素晴らしいわ! フェアリーといばアルテミシアの片腕、ミルドレッドの使い魔で有名ですわ! 森の調停者と呼ばれるほどですから、森に囲まれたレンツではとても神聖視されておりますの。さすがフェアリーですわね……森の恵みをもたらす者と語らうことが出来るなんて……」


 フィーナはそこまで知らなかったので驚いた。見た目デメトリアに少し似ている、ちっちゃなフェアリーがそれほど信望を集めていたとは思わなかった。


 イーナもその話を聞いて嬉しそうだ。早速エリーを影から出し、皆にお披露目すると同時にさっき採った木苺を与えている。エリーは木苺を頬張って、酸っぱそうに口をすぼめた後、一気に口に入れた。その顔はとても嬉しそうだ。

 それを見ていた魔女達は癒やされたように顔を綻ばせ、果実酒を片手に乾杯をしていた。まるで良い物を見たなあ、と言わんばかりの表情だ。



「けれど、新種の魔物というのは気がかりですわ」


 マリエッタが声のトーンを落とした。


「デメトリアさんにはこちらから使いを出しますわ。わたくしの使い魔は伝令に特化した使い魔ですの。 商人は情報の鮮度が命なものですの」


 マリエッタが影から燕のような使い魔を出した。燕の使い魔の足に文を結ぶと、デメトリアのところへ飛ばした。伝令に特化したことだけあって、あっという間に姿が見えなくなった。


「この距離なら、明日の朝には届きますわ」


「ありがとうございます」


「構いませんわ。フィーナさん達は休暇を楽しんで来ていらっしゃいませ」


 マリエッタは優雅に微笑んだ。フィーナも優雅に微笑み返そうとしたが、変な顔になったのか、イーナが噴き出していた。悔しい思いをしたので、イーナにその優雅な微笑みを向け、笑いを絶やさないようにし、食事も食べられないほど笑わせてやった。イーナは笑い過ぎてしんどそうな顔をしていた。



 食事が終わると、デイジーは早々に寝てしまった。これはいつもの事で、デイジーは先に寝て、夜中から朝の警戒に当たるのだ。次に朝食の準備のあるイーナが寝て、夜に強いフィーナが最後に寝る。デイジーが起きるまでは使い魔のミミが見張りをしてくれる。夜目が効き、真っ黒な猫なので、闇に溶け込むことができた。ミミの能力も相まって、見張りとしてはかなり優秀だ。

 ミミはフィーナの寝る側で、聞き耳を立てている。夜は夜行性の魔物が徘徊するので、ミミは見張りにも真剣だ。


「今日は静かニャ。気配も感じニャいニャ」


 ミミが独りごちて後ろ足で顎の下を掻く。すると簀巻(すまき)にされた鳥の魔物と目があった。鳥の魔物にはさっきフィーナが鎮静剤を打っていたので、大丈夫だろうとミミは思った。

 鳥の魔物は目をギョロギョロさせて、辺りを見回している。


「気絶から目覚めたのかニャ……気持ち悪いニャ……こっち見ニャいでくれニャ」


 鳥の魔物は煽るようなふざけた顔をミミに向け、体を揺すっている。明らかに馬鹿にしている。


「こいつ! ムカつくニャ! お前なんかご主人が腹の中まで抉り出して調べ上げてやるニャ。そして用がなくなったら焼鳥になるのニャ」


 鳥の魔物は体を揺するのを止めてブルブル震えだした。


「ブルッポー……」


「ニャフフ……恐いのかニャ? 安心するニャ。ご主人は優しいから、なるべく痛くニャいようにしてくれるニャ。ま!焼鳥になるのは避けられニャいニャ〜」


 ミミが鳥の魔物を嘲笑した。鳥の魔物は見るからに恐怖に苛まれている。ミミは意趣返しして満足すると、白み始めた空を仰ぎ見て、起き始めたデイジーに挨拶するのだった。



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