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40『馬車型陸上推進船』

「馬車の護衛ってどのような事をすればいいのでしょう?」


「そうですね……魔物が出たら倒し、野盗が出たら追い払う……それ以外は基本的に特に何もありませんわ」


 フィーナは商隊のリーダーであるマリエッタに、自分達が馬車の護衛が初めてであると伝えた。マリエッタは優雅に微笑んで、大丈夫ですわと応えた。その仕草はキャスリーンより数倍こ慣れている。


「この馬車……もとい『馬車型陸上推進船』、通称『陸船』は風魔法と土魔法を使って進みますの。土魔法で地面に傾斜をつけて動き出し、魔法で風を起こし、魔道具の帆で受けますの。この帆は向かい風であっても、推進力を得ることが出来る、魔道具分野の自慢の一品ですのよ」


 マリエッタが意気揚々と説明する。この陸船とやらは、その物が魔道具らしく、様々な機能が詰まっているらしい。


「帆が壊れたりして、動かなくなったらどうするんです?」


「心配ご無用ですわ。車輪には歯車機構を組んでありますの。成人魔女二人がここを踏み込んで歯車を回すようになってますの。一般用にこの機構を使おうと思ったのですけど、経費がかかり過ぎますの……一般人は馬に引かせるのほうが楽ですわね」


 マリエッタは自嘲気味に説明してくれたが、優雅さは失わない。


「空飛ぶ船も作れるかもしれませんね」


 フィーナが陸船の造形を眺めながら言った。マリエッタは呆けた顔した。


「さすがに飛ばすのは難しいですわ。いくら風魔法を強めても、飛ぶ前に船が壊れますわ。それに魔女は箒がありますもの」


「え? 箒!?」


「え、ええ。そういえばフィーナさんはまだ十歳にでしたわね。十二歳になると王都の箒屋に箒を買いに行くんですの。成人魔女はみんな持っているはずですわ」


 フィーナは頭を抱えた。


 (何てこと! 箒で空を飛ぶなんて、魔女っ娘ならマストアイテムじゃない! こんな簡単なことに気付かないなんて!)


 マリエッタはう〜、と呻くフィーナを心配そうに見つめていた。フィーナは、はっと顔を上げてマリエッタに質問した。


「レンツの村じゃ、箒で空を飛んでる魔女を見た事がありません。何故でしょうか?」


「わざわざ箒で移動するほどでも無いからですわ。箒を持っていれば、邪魔になりますし、低く飛べば人にぶつかったりしますの。そういうことが相次いだので、亡くなった祖曽様が、『村内での箒飛行を禁止』したのですわ」


 そうだったのか、とフィーナは溜息をついた。聞けば箒での飛行はなかなかコツがいるようで、慣れるまで結構時間がかかるらしい。

 フィーナは車の教習所を思い出し、教習所の先生に運転がうまいと褒められたことを思い出した。


「そういえば、家に埃被った箒がありました」


「それはレーナさんのですわね」


 フィーナはあの埃被った箒がレーナの空飛ぶ箒とは知らなかった。知らなかったとはいえ、あの箒で玄関周りを掃いたことはレーナには内緒にしておこうと思うフィーナであった。



 そうやって色々と話をしている内に、出発の時間になった。


 フィーナ達は先頭から二番目の陸船に乗り、出発の様子を見ていた。

 先頭の陸船に乗っている魔女が、身を乗り出して手で合図する。すると陸船の後部が何かに乗り上がったかのよう浮いた。


 陸船は風を受けを順調に進んだ。送る魔力の量によって速度を上げ下げ出来るので、五台にもなる陸船の列は乱れず森を駆けていった。


「わー! 早いのー!」


 デイジーが身を乗り出して外の景色を見るので、イーナが慌ててデイジーの腰を掴んだ。

 ヒュッ!っと音がして、デイジーが席に戻る。


「とったー」


 デイジーの手にはみずみずしい果実が握られていた。あの風切り音はデイジーが果実を採った音かと得心した。デイジーはそのまま果実にかぶりつき、口周りに果汁をつけながら頬ばった。フィーナはデイジーが逞しく育ったことを少しは悲しみながらも実感した。


「ねえ、向こうに着いたら何しようか?」


 イーナがデイジーの口を拭きながらフィーナに尋ねる。デイジーはむうむうと喚きながらも楽しそうだ。


「うーん、向こうに何があるか知らないけど、初めて魔女以外と会うのはちょっと緊張するかな」


「え、フィーナが緊張?」


 イーナが眉を上げ、茶化したように尋ねる。


「私だって緊張くらいするよ」


 フィーナが頬を膨らませ、イーナを睨んだ。イーナはゴメンゴメンと軽く謝って、フィーナの頬をつついた。フィーナの膨らんだ頬がぷよぷよとつつかれる。

 フィーナはつつかれながらも考えていた。この世界に来て、すでに半年は過ぎた。その間、レンツ周辺でしか活動して無かった。初めて行くことになる新しい土地、新しい人々。フィーナは卒業旅行でフランスに行ったとき、こんな気持ちだっだなと思い出した。感慨に浸りながらも、なおも頬をつつくイーナに、仕返ししてやろうと思うフィーナであった。



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