表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
魔女と襲撃者編
4/221

4『異世界の食事』

 部屋を出ると、美味しそうな香りが鼻腔をくすぐり、それに答えるようにお腹は大合唱している。キッチンにはアーニーおばさんとイーナが立っており、忙しなく動いている。

 キッチン横の水瓶からやかんのような入れ物に水を移し換えている少女がいた。どことなくアーニーおばさんに似ている。この少女も見覚えがある。アーニーおばさんの娘のデイジーだ。横顔しか見えないが、赤みが混じった茶色の髪の毛を耳にかけ、口を尖らせながらも細い腕で、水の入ったやかんを軽々と持ち上げている。なかなか力の強い娘のようだ。



「あっ! フィーナ、おはよー! ん? もうお昼だからこんにちはかな?まあ、いっか! とりあえず席座って!」



 高くて早口な言葉を発するのはやかんを手にしたデイジーだ。やかんを持ったまま手を振ろうとしたので、バシャバシャとやかんの中の水が音を立てている。溢れそうで不安になるから少し落ち着いて欲しい。



 正面から見てわかったが、デイジーもなかなかに可愛い顔をしている。日によく焼けた小麦色の肌に耳が隠れるくらいのサラサラ髪のショートヘアー。笑顔は太陽のように眩しく、見ているだけで元気が湧いてくる。声は高く、はきはきと喋るので早口でも聞き取りやすい。身長はフィーナと同じくらいか、少し低いくらいの幼女である。自分の精神年齢はアーニーおばさんの次に高いので、まるで姪っ子を見ているかのような気分になってくる。



 席に座るとすぐに料理が運ばれてくる。パンを入れたバスケット、スープを入れた鍋、ベーコンを炒めたところに卵を落とした目玉焼き、色とりどりの野菜が入ったサラダ。どれも美味しそうだ。



「では、大地と始祖レファネンの恵みに感謝を!」



 アーニーおばさんが手を組み、祈りを捧げている。イーナ、デイジーもそれに習う。記憶によれば、要は『いただきます』の事のようだ。フィーナも遅れてアーニーおばさんの真似をする。



「「「大地と始祖レファネンの恵みに感謝を!!!」」」



 祈りを終えると、すぐに料理に手を伸ばす。



「フィーナちゃん、お腹減ってるだろう!? たーんとお食べ!」



 フィーナの器やお椀に次々と料理が注がれていく。ひとまずお椀に入ったスープから頂くことにする。前世でも、まずは味噌汁を一口飲んでから食事をスタートさせるのがヒカリ流だった。



 スープは塩をベースにベーコンや玉ねぎ、人参などが入っている。素朴だが温かいスープが空きっ腹に染み渡り、ほうっ、と息を吐く。

 次にパンをとり、一口サイズに千切り、口へ放り込む。フランスパンのように固いパンだがスープに浸しながら食べるというのが一般的なようだ。目玉焼きには塩かけて食べるようだ。目玉焼きにはなにをかける?で、一時間は会話が弾む日本とは違い、ここには塩以外置いてない。



 サラダを口に入れて、思わず顔をしかめてしまう。



「あら? フィーナちゃんお野菜嫌いだった?」



「フィーナは好き嫌い無かったと思うけど……」



 アーニーおばさんの心配そうな顔にイーナが慌てて答えた。



 フィーナ自身、サラダは嫌いではない。むしろ好きな部類に入る。女たるもの、時には野菜と果物で数日を過ごし、少しでも体重の減少に努めるのだ。そこに好き嫌いはあってはならない。

 今回、顔をしかめてしまったのは、その味だ。今までの料理の味付けが、塩に継ぐ塩だったため、あらかじめ予想を立てていたが、やはり塩、そこにレモンのような柑橘系の果汁が混ざって香り高く仕上がっている。しかし味は塩、しょっぱいだけである。ゴマドレや和風ドレッシングをフィーナは欲していた。それが顔に出てしまっていたのだ。



 「ごめんなさい! ちょっと急いで食べ過ぎて、喉に引っかかっちゃって」



「アハハ! フィーナは慌てん坊だね! デイジーが早く食べるコツ教えて上げよっか!? こうねぇ‥‥もふぁふぁうふぉふぉふぇ‥‥‥‥ゲホォ!」



 食卓にデイジーの唾液にまみれた食材が散る。



「デイジィー!! あんた口に入れて喋るなっていつも言ってるだろう!? 聞き分けないなら夕飯抜きにするからね!」



「あうぅ……ごめん…かーさん……それだけは許して……」



 効果は抜群のようだ。



 そんなこんなありつつも、満腹になって満足したフィーナは昼食後のお茶を頂きながら、あることを考えていた。



(夕飯の調味料も塩のみなのかな……)



 この世界の文化レベルはそれほど高くないことは部屋を見渡せばわかる。水瓶やキッチンの炉、テーブルにはガラス製が並ぶことはなく、ほとんど木や石で出来た食器。火は点いていないが蝋燭立てに短くなった蝋燭が立っている。部屋は全体的に埃っぽく、暖炉は今は使われていないのか、黒い煤がびっしりと付着し、年季を感じさせる。



(お風呂もなさそうだよねぇ……)



 日本人にとって風呂の有無は死活問題である。特にこの衛生環境では身体が汚れるのは必至で、すでにフィーナの身体から生前嗅いだことのない臭いが発せられている。記憶では水浴びや湯で濡らした布で体を拭くくらいしかしていない。



(これは無視出来ない状況だよね……)



「アーニーおばさん、水浴びしたいんだけど……出来るかな?」



「水浴びねぇ……ちょいと季節的に難しいけど、出来ないことはないね! 折角だから子どもたち全員で行ってらっしゃい!!」



 修学旅行みたいなワクワク感を胸に抱きながら、三人で水浴びに向かうのであった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ