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39『魔女の家』

 

「商隊の護衛?」


 フィーナがデメトリアに聞き返す。最近はデメトリアからの依頼も来るようになり、フィーナ達は多忙を極めていた。使い魔達に依頼の交渉を任せているが、それでも最近は休日すらない。ブラックな会社も真っ青である。


「そうだ。最近は依頼ばかりで忙しいだろう? 護衛といっても森を出るまでだ。そこからは正規の護衛が引き継いでくれる。君達は商隊が取引を終えて帰ってくるまで、森の外にある、『魔女の家』で休暇をとるといい」


 レンツの森の外では、魔女の活動拠点となる『魔女の家』が存在している。たいていは村の外れや街の郊外にあるが、王都では中心街にあるらしい。

 『魔女の家』は魔女がいない間も管理されており、すぐに使えるとのことだ。


「休暇ですか……それはありがたいですけど、暇を持て余しそうですね」


「それが休暇というものだ。私が以前行った『魔女の家』は村の外れにあったのだが、農作業の手伝いをしたり、村人と狩りをしたりと楽しかったぞ?」


 フィーナはデメトリアが農作業をする姿を想像して噴き出しそうになったが、おそらく、まだ若返りする前のことだったのであろう。フィーナは前のデメトリアを知らないので、大人のデメトリアをスージーに置き換えて想像した。違和感はない。


「正直、今の村は君達に頼りすぎていると感じるのだ。そこで、君達に休暇を取らせ、レンツの魔女達に、いかに君達に依存しているか自覚してもらおうと思っている」


 確かに最近はどうでもいいような依頼までされていた気がする。


「だから君達はゆっくり羽を伸ばしてくるといい。本来なら見習い魔女が森の外に長期間滞在するのは安全上禁止されていたが、君達なら問題はあるまい。レリエートとの諍いはまだ終わっておらんが、すぐに事が動き出すということもあるまい」


「ではお言葉に甘えて」


 フィーナは軽くデメトリアに会釈した。イーナとデイジーに休暇の日程を伝えると、両手を上げて喜んだ。

 帰った時の反動が怖いが、そこのところはデメトリアが何とかしてくれるだろう。



 そして、商隊護衛の日。


「わー、すっごいねー」


 デイジーが感嘆の声を上げるその先は、大きな馬車が五台連なる風景だった。馬車と言っても馬は無く、代わりに大きな帆が付いている。まるで陸を行く船のようだ。


「この度はよろしくお願いしますわ、フィーナさん」


 聞き覚えのある声に、フィーナが嫌な顔をして振り返ると、そこには満面の笑みのキャスリーンが立っていた。


「あ、キャス……キャシー。どうしてここに?」


「お母様が今回の商隊のリーダーを務めていますの。わたくしはフィーナさんのお役に立つべく、無理を言って同乗させてもらったのですわ」


 フィーナはがっくりと肩を落とした。どうやら『魔女の家』に着くまでは休まる時はないようだ。


「お母様を紹介致しますわ。もう依頼なんかで会っているとは思いますけど」


 キャスリーンがそう言って紹介してきた女性はキャスリーンをそのまま大人にしたかのような女性だった。縦ロールの髪型はキャスリーンより凄まじく、派手目な化粧にきらびやかなアクセサリーをいくつもしている。見るからに金持ちなマダムという感じだ。


「マリエッタですわ。フィーナさん達のことは娘からよく聴いておりますの。娘を助けて頂きありがとうございました」


 マリエッタは上品に一礼すると、すっと手を上げた。

 マリエッタとキャスリーンの周りにいた取り巻きがいそいそと動き出し、野外だというのにあっという間にお茶会が出来上がった。キャスリーンとマリエッタが当然のようにそこに座り、フィーナ達に席を勧める。


「わたくし、イーナさんがイーナさんのお母様と開発したという石鹸を愛用してますのよ。香り高くて毎日使っておりますの」


 マリエッタがうっとりと自分の手の肌を見つめ、ほうっと息を吐いた。


「あ、喜んでもらえて何よりです……」


 イーナがおずおずと答える。どうやらマリエッタは美容にはとことん突き詰めるようだ。流行や新商品に敏感に反応して試しているのだろう。石鹸の作成方法は金貨八百枚で売れた。始めは五百枚でと乞われたが、イーナもレーナも、それじゃ売れないと言いい続け、あれよあれよという間に、三百枚も上乗せしてしまった。

 作成方法買いに来た魔道具ギルドは涙目になっていたが、数年もすれば元はとれるようだ。イーナはまだ甘いと言っていたが、同じ村の魔女なので特別サービスとも言っていた。恐ろしい娘である。


「フィーナさん達は『魔女の家』で過ごすのですって? 仰ってくださったらメルポリの街の高級宿をとりましたのに」


 メルポリの街とはレンツの村から一番近い街で、今回の商隊の目的地である。そこそこ大きな街で、商隊は魔道具や魔女村製品を売り、食料加工品や衣類を仕入れるようだ。


「いえ、私達は見習い魔女なんで、街まで行くのは……」


「フィーナさん! わたくしも見習い魔女ですが行きますわよ! 見習い魔女だからって村に縛られるのは古いですわ! ですからわたくしと街に行きましょう! そして同じ宿に泊まるのです!」


 フィーナはヒッと息を呑んだ。キャスリーンは度々このように暴走するようになってしまった。フィーナの悪口を聞こうものなら、成人魔女であっても怒りに行く。

 フィーナはキャスリーンに今回は街に行くつもりは無いとキッパリと断った。キャスリーンは肩を落としたが、また今度ねと社交辞令を言うと鼻血を垂らして気絶してしまった。


「まったくこの子ったら……フィーナさん、この子のこと、あんまり嫌わないであげてくださる? 初めて出来たお友達にとても幻想を抱いているんですの」


 フィーナは十年以上生きてきて、初めて友達が出来たというキャスリーンを見た。失神して、取り巻きに鼻血を拭かれながらも、とても幸せそうだ。  

 フィーナには友達というだけで、何故そこまでキャスリーンが嬉しそうなのか理解できなかったが、マリエッタはキャスリーンより、かなりまともに見えたので、対応さえ間違えなければ、キャスリーンも良い友達になれるかも知れないと思った。


「うふふ……フィーナさん、大胆ですわぁ……」


 どうやら前言撤回しなければならないようだ。


 


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