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38『三匹の使い魔』

 三匹の使い魔がレンツの村を歩く。本物の猫のような使い魔のミミ、ぬいぐるみのようにデフォルメされたライオンのガオ、ガオの背中に可愛らしい羽をパタパタと羽ばたかせるエミー。三匹は忙しい主人達の代わりにお使いを頼まれたのだ。

 

 フィーナ達はあの戦闘の後、デメトリアから様々な面倒ごとを持ち込まれ、手伝っていたのだ。デイジーの戦闘力、フィーナの観察眼、イーナの指揮能力をデメトリアは高く評価していた。見習い魔女であるにも関わらず、村以外での活動を許可され、今では森周辺まで活動範囲を拡げている。


 ミミ達は目が回るような忙しさに呑まれている主人達の助けになればと、お使いを申し出た。


 頼まれたお使いは複数の依頼の交渉だった。最近は腕が立ち、仕事も早いフィーナ達に依頼を出す魔女達が多かったのだ。

 依頼を頼まれれば、交渉し合って、受けるか受けないかを決めなければならない。あまりにもしょうもない依頼は魔術ギルドが突っぱねているとはいえ、その数は甚大だ。ミミは腹の横に提げている、専用の猫用ポーチの中の紙束を見つめて、溜息をついた。


「こんな数、ご主人達にこなせるはずないニャ」


「それを減らすように、お願いに行くんでしょ?」


「そうだけどニャ……少しはご主人達に頼らず、自分達でなんとかして欲しいニャ」


 ミミは冷えた目で地面を見下ろし、首を振った。フィーナから貰った首のリボンがふわりと揺れる。


 フィーナがミミにリボンをあげた数日後にはイーナとデイジーも自分達の使い魔を着せ替えた。ガオは白のベストと黒のパンツを履かせられ、エリーはふわふわの薄緑色のドレスを着せられた。

 ミミはそんな二匹を哀れんで、自分の主人がイーナとデイジーのように着せ替えしないことを心底感謝した。


「まずは一軒目ニャ。野菜売りのエマのところニャ」


「わ! エマさんだ! おーい!エマさーん!」


 エミーはガオの背中の上で大きく手を振った。だが、小さいのでエマは気づかないようだ。


 エミーが羽ばたいて、エマの側に行く。エミーはイーナとともに、よくここに野菜を買いに来るので、エマに果物をサービス、もとい餌付けされていた。


「あら、エミーちゃん。いらっしゃい」


 エマはエミーの大好物のチェリーのような果物を二つ、エミーに手渡した。エミーは小さな手で、自分の顔程もあるチェリーを抱え、美味しそうに頬ばった。


「むぐむぐ、ありがと〜。エマさん」


 エマにとっても、フェアリーのエミーがいくら食べても売り上げには響かないので、気にせず食べさせていた。


「おはようニャ。今日も早いのニャ」


「おはようミミちゃん。野菜は新鮮さが命だからね。夜明けと共に収穫したら、そのまま売り出すのさ」


「エマの野菜はガオのご主人だって食べるほど美味しいのニャ。ミミのご主人もいつも美味しいって言ってたニャ」


「ガオ」


 ミミはまるで自分のことのように嬉しそうに話す。ガオも深く頷いている。ミミもガオも、野菜は食べないのだが、使い魔なので、主人の喜怒哀楽を明確に感じ取ることができるのだ。


「うれしいねー。今日は買い物? サービスするよ!」


「いや、今日はご主人達に代わって、依頼の相談に来たのニャ」


 ガオがミミのポーチを開けて、一番上の用紙をくわえ、取り出した。


「えーと、最近畑を荒らす魔物が出ているので退治してほしい、という依頼で間違いニャいニャ?」


「そうなのよ。村のすぐそばの畑なんだけどね。最近夜中に魔物が荒らすのよねー。魔物避けの魔道具でも効果がないみたいで……」


「その魔物の姿は見たのかニャ?」


「見てないわね……」


「そうかニャ……もしかしたら魔物じゃニャくて動物の仕業かもしれニャいニャ。動物なら、魔物避けの魔道具も役に立たニャいのニャ。一度狩人の魔女に相談するニャ。もし、魔物避けの魔道具も効かニャい強力な魔物なら、ご主人に対策立ててもらうニャ」


「ありがとう! そうするわ!」


 ミミは一度依頼書をエマに返した。サービスと言って、野菜を持たせてきたので、ガオの口に全部放り込んでやった。ガオは腹の中に物を収納でき、保存状態もいいので、最近は薬草や素材もたくさん持ち運べるようになった。

 ただ、影に潜るときは腹の物を全部出してからでないと影に潜れない。デイジーの消費魔力と相談して使っていたが、何故かガオはほとんど魔力を消費せずに活動させることが出来ていた。

 そのおかげでデイジーと別行動をとることも多くなった。ガオは寂しそうだったが、滅多に話さないので、ミミはガオの心中の意を知ることができなかった。


「次は錬金術分野長のリリィからの依頼ニャ。これは受けニャいといけニャいニャ。ご主人曰く、上司には愛想良くしとけらしいニャ」


 ガオがすっとリリィの依頼を口に入れて飲み込んだ。後で纏めてフィーナ達に渡すのだろう。


 その後もミミの判断で簡単なものや重要でないものは他の魔女に依頼するように促し、難しい依頼は引き受けていった。他にもフィーナ達の得意分野である依頼も受けた。



「さてと、これで最後ニャ。最後は……フニャ!!」


「どうしたの? ミミ?」


「最悪ニャ! よりによって最後があの女の依頼かニャ!」


「誰のこと?」


 エリーが羽を広げて羽ばたき、依頼書を覗き見る。エリーはその依頼主を見て、「あらら〜」と哀れな目を向けた。


「俺が行くガオ。ミミは俺の口の中に隠れていれば見つからないガオ」


「ガオ……! カッケーニャ! 持つべき者は友使い魔ニャ! ……食べニャいでくれニャ?」


「……」


「な、何か言えニャ……」


 ガオは目を閉じて押し黙った。


(勝手に話を終わらせるのはガオの悪いところニャ!)


「あはは、大丈夫だよミミ。いざとなったら、後ろの方から出れば良いんだから」


「冗談キツイニャ……」


 結局ミミはガオの口に隠れることはせず、あの面倒な魔女、キャスリーンと交渉することにした。


(結局こうなったニャ。そもそも無口なガオがあの女と交渉なんてできるはずないニャ。帰ったらご主人にいっぱい甘えて、ご褒美のササミを頂くニャ〜)


 ミミは大好物のササミを思い出し、不安を消し去ろうとした。特にミミはフィーナがほぐしてくれたササミを殊の外気に入っていた。自分のために食べやすくしてくれる主人に、ミミは敬愛していた。


「いらっしゃいまし! フィーナさん達の使い魔さん達! 歓迎する用意は出来ておりますわよ!」


 どこから聞きつけたのか、ミミたちが主人の代わりに依頼の交渉をしているのを知ったキャスリーンが、ミミたちが到着するやいなや、扉を開け放って迎え入れた。


(出迎えが用意周到すぎるニャ。……まさか最初から監視していたなんてことはニャいのニャ……?)


 そのまさかである。


 キャスリーンは三匹を、特にミミに対してうんざりするほど持て成した。


「ミミさん、今日はあなたの大好物のササミを用意しましたわ。どうか召し上がって下さる?」


「ニャ!?」


 (サ、ササミニャ! しかもちゃんとほぐしてあるニャ! 一体誰にミミの好物を聞いたのニャ! 怖すぎるニャ!)


 しかし、食欲には抗えない。今日は特に歩きっぱなしで疲れていたのだ。ここであのササミを頬張れば、至福の心地になるだろう。


「まあ、残しても勿体ニャいし、食べてやるニャ」


 エリーは白い目で見ていたが、ミミは気にせずササミを頬ばった。しかし、ミミは俯き、ワナワナと震え始めた。


「……やっぱりこのササミはダメニャ! ほぐし方がまるでなっちゃいニャいニャ! ご主人のくれるササミが最高だと今わかったニャ!」


 ミミはプンプンと怒り、キャスリーンの元を後にした。キャスリーンは「さすがフィーナさんですわ!」と、まったく気にしていなかったが、まったく交渉をしていなかったので、魔道具分野の分野長、キャスリーンの母マリエッタに叱られたそうだ。


 ミミの後を追って二匹がついてくる。


「早く帰ってご主人にご褒美をもらうニャ! あんなササミじゃ満足できニャいニャ!」


「待ってよミミ〜。交渉はどうするの?」


「あ………忘れてたニャ…………まあ、今回はご主人に任せるとするニャ!」


 エリーは大丈夫なのかと心配したが、今更ミミを止めることもできず、帰路につくのだった。

 ミミはフィーナからキャスリーンのとこを勝手に逃げ出したことを怒られ、ご褒美を頂けなかったことをこの時はまだ知らなかった。



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