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37『心の休息』


 フィーナ達はゆっくりとした足取りで村へと帰っていた。フィーナ達はリーレンの憐れな最期を見届けた後、遺体を燃やし、埋葬した。フィーナ達の表情は皆暗かったが、デメトリアが「村の様子が気になる」と一言呟いたのをきっかけに、村へと戻ることになったのだ。


 村はいつもと変わらぬ様相を呈していたが、どことなくピリピリとした雰囲気を感じられた。フィーナ達が帰ってきたのを見た魔女たちは次々とフィーナ達を褒め称えたが、フィーナ達は皆苦笑いを浮かべるだけであった。


「村は変わりないか?」


「はい、警戒しておりましたが、襲撃はありませんでした」


 デメトリアが近くの魔女に軽く報告を聞くと、フィーナ達に先に行くよう手で合図した。スージーはデメトリアと一緒に残った。フィーナ達とサナは疲れた身と心とデイジーの腕を癒やすべく、一度フィーナの家に向かった。


 レーナは魔術ギルドでデメトリアの留守を預かっているらしく、不在だった。

 イーナがもはや一流と化した手つきでお茶を淹れる。イーナはフィーナには好みのカモミールティーを、デイジーにはレモングラスティー、サナにはレモンバームティーを淹れた。四人は各々カップを持ち、ぼうっとした表情で静かなティータイムを過ごした。


「デイジー、手、握れる?」


 フィーナの治癒魔術を受けたデイジーは軽く握りこぶしを作り、ゆっくりと開いた。


「だーいじょーぶー」


「デイジーの本気パンチでグローブ壊れちゃったねー。新しいの依頼したら魔道具分野の人たち卒倒するかな?」


 デイジーの本気パンチの衝撃によってグローブは壊れてしまっていたが、グローブのおかげでデイジーの拳は壊れずに済んだので、魔道具分野はすごいものを作り上げたものだと、フィーナは感心した。


「右のグローブだけだから、それほど時間はかからないと思うけど、このところ【レンツの湯】でも忙しそうだからね。ゆっくりでいいよとは伝えるよ」


「キャシー先輩は聞かないと思うけどね……」


 イーナが苦笑いを浮かべながら呟いた。



「話は変わるんだが……」


 サナがぽつりと言った。フィーナ達は「なんだろう?」と思案気にサナを見た。


「君たちは魔法の詠唱をしなくても、強力な魔法が使えるのかい?」


 サナの言葉にフィーナ達はぎくりと顔をこわばらせた。フィーナ達はレリエートの魔女の一件が片付くまで、口外はしないようにしていたが、その件が終わった後のことはまだ決めていなかった。


「正直に言うと使えます……。黙っていてすいませんでした……」


 フィーナが申し訳なさそうに答えて頭を下げた。イーナとデイジーもフィーナに倣って頭を下げる。

 サナは優しそうに微笑んで首を振った。


「別に君たちを咎めるつもりはないよ。君たちのように無詠唱で強力な魔法を使うことができるのは確かに珍しいが、特殊魔法ほどではないんだ。現にスージーさんやデメトリアさん、レーナ先輩だって、詠唱ありより多少威力や精度が落ちるものの、使うことができるよ。私も得意な魔法矢は詠唱をしないからね」


 そういえば、とフィーナ達も思案した。サナはイーナに魔法矢を教えていたが、魔法矢の詠唱は教えていなかった。イーナが魔法矢をうまく発動できないのはイメージしづらいこともあるのだろう。


「普通の魔女は繰り返し何度も詠唱して練習するんだ。そのうち詠唱しなくても魔法を発現できるようになるんだよ。難しい魔法は長い年月がかかるけどね」


 サナはそう言うとレモンバームティーをこくりと飲み干し、お代わりを要求した。サナも洞窟での依頼を通してフィーナ達と長く過ごしたためか、ハーブティーを楽しむこの時間を好んでいるようだった。フィーナはせめてもう少しお菓子類が豊富であったならと悔やんだが、今この時も十分満足できたので、自重した。


「イーナ君なら私よりいい魔女になれるよ。私としては少し悔しいけど、君たちのためなら私の誇りなんて、秤にかけるのにも値しないよ」


 サナは自嘲気味に話していたが、その表情はとても爽やかだった。フィーナはそんなサナを不思議に思ったが、サナの耳が少し赤くなっているのに気づき、なんとなく理解した。


「サナさんはお姉さんみたいですね」


 フィーナにそう言われ、さらに顔を赤くしたサナだったが、イーナは見るからに落ち込んでいた。


「もちろん、私の姉さんが世界一ですけど」


 フィーナがそう付け足すと、今度はイーナが茹蛸のように顔を赤くした。


「私はみんなのお姉さんだからね?」


 サナの言葉に三人が頷いた。特にデイジーは姉妹がいないので一層喜んでいた。ほのぼのとした空気に、先ほどの凄惨な戦闘で疲れた心が癒されるを感じた。



 サナとデイジーが帰るころには日が暮れていた。レーナも報告を受け帰ってきたようで、帰るなりフィーナとイーナを抱きしめ、優しく頭を撫で、よく頑張ったねと褒めてくれた。

 フィーナとイーナはレーナの愛情を一身に受け、あの戦場を生き残ることができたのだと再確認した。


 レーナは疲れている二人に対して一人で夕食の用意をした。イーナが手伝おうとしたが、レーナに今日は任せてと席に座らされていた。フィーナはミミ用にササミ肉のボイルをレーナに頼むと、フィーナの影から甘えるようなミミの声が響いた。


 レーナの料理はどこか懐かしく、とても美味しく感じられた。イーナもレーナに味付けや盛り付けの仕方をあれこれと聞いている。


 フィーナは涎を垂らして招き猫のように懇願するミミに、微笑みながらほぐしたササミ肉をあげた。



 食事が終わると、デイジーとアーニーおばさんがやって来て、【レンツの湯】に行こうと誘ってきた。フィーナ達も二つ返事で了承し、五人で湯につかった。【レンツの湯】ではフィーナはオーナーのような扱いを受けたが、苦笑いを浮かべて受け流した。


「気もちい~。デイジーもフィーナ達と来たかったんだよ~?」


「デイジーったら怪我も治ってないのに、フィーナ達とお風呂入るって騒がしくてねえ……一人の時は嫌がるくせに変な子だよ、まったく」


「ぷ~!」


 デイジーは頬を膨らませてアーニーおばさんを睨んだ。アーニーおばさんはデイジーの膨らんだ頬を両手でつぶすと、ぽひゅっと音を鳴らしてデイジーの息が漏れた。その様子に全員で笑い、帰りには星空の下を並んで歩きながら、果汁ジュースで喉を潤した。


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