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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
魔女と襲撃者編
31/221

31『特殊魔法』

 次の日、フィーナ達は村に帰り着いた。予定していた三日間だったが、フィーナ達はボロボロでドロドロだった。


「きゃあああああ! フィーナ!イーナ!デイジー! いったい何があったの!? こんなにボロボロになって!」


 レーナは村の入り口でそわそわと待っていたようで、ボロボロになっていたフィーナ達に気づくと悲鳴をあげて近寄った。周りの魔女も何事かと集まってきている。


「母さん……」


 フィーナはレーナに抱かれ、レーナの温もりを肌で感じ、やっと一息つけると安堵した。イーナも疲れが一気に押し寄せたのか、眠い目を擦りながら欠伸をかいた。


「レーナ先輩、私とグレンダからお話します。今はこの子たちを休ませてあげてください」


 サナとグレンダは前に出て、レーナと話し始める。デイジーは呼ばれたアーニーおばさんに背負われ、家へと帰った。キャスリーンやその取り巻き達も家族の元へと帰ったようだ。

 フィーナはイーナと共に、家に帰り、ドロドロのローブや帽子、服を脱ぎ散らかすと、お湯で体を拭いて、厚手の下着と寝間着に着替え、泥のように眠った。


 フィーナが起きたのは次の日の昼だった。すでにイーナは起きており、キッチンからは芳ばしい香りが漂ってきている。フィーナがリビングに入ると、洞窟内で獲った素材が置かれていた。どうやらサナとグレンダが置いていってくれたようだ。


「あら、フィーナおはよう」


「ご飯出来てるよ」


 イーナとレーナが振り返り、フィーナに声をかける。その光景がとても懐かしいように思えて、フィーナは思わず顔が綻んだ。

 レーナとイーナの料理に舌鼓を打ちつつ、フィーナは今後のことを考えていた。


(サナさんの前でばんばん魔法使っちゃったな。面倒な事にならなきゃいいけど。あとはジャイアントフレイムトータスの甲羅を浴槽に加工できるような人を探して、デイジーの様子も見に行かなきゃね。素材の管理もして、薬草園も見に行かなきゃ………やることいっぱいだ)


 フィーナがやることを頭の中であれこれと整理していると、玄関をノックする音が聞こえた。


「はーい」


 レーナが玄関を開けて応対する。


「うむ、見舞いに来たぞ! フィーナ!」


 来たのはデメトリアだった。スージーも一緒のようだ。


「ラ・スパーダを打ち倒したそうだな! さすがレンツのアルテミシア達だ!」


「倒したのはデイジーなんですけど……?」


「それは分かっている。デイジーから、フィーナにその力を教わったと聞いてな! 興味津々という訳だ! あ、デイジーもイーナもレンツのアルテミシアを名乗って良いぞ!」


 (デイジー! 私に押し付けたな!)


「教えたのは基礎魔法の応用ですよ? デイジーが夢見ていたアルテミシアの力に似ていたので、教えたんです」


「アルテミシアの力は多義に渡るし、様々な説もある。その中の一つが怪力だ」


 デメトリアがフィーナの前の席に腰をおろし、イーナからお茶を受け取る。スージーはその隣ですでにお茶を飲んでいる。

 デメトリアは床に届かない足をプラプラとさせながら、フィーナに説明した。


「古くからの言い伝えでは、魔女が死に直面した時、それを打開する力に目覚めるという話があってだな………おそらく今回のデイジーがそれだ」


「それはサナさんに聞きました。なんでも祖曽様に聞いたとか」


「うむ、私も今回それを聞いて、古い資料を漁ってみたのだ。すると興味深い資料を見つけてな――――」


 デメトリアが一束の資料を懐から取り出し、テーブルの上に広げた。フィーナはよく見るためにテーブルに乗り出した。


「この資料によると、魔女が死に直面したとき、新たな力を得ることを『魂の覚醒』と云うらしい」


 デメトリアがお茶をごくりと飲んで、わくわくとした表情で続ける。まるで新しい玩具を見つけた子どものようだ。


「だが『魂の覚醒』には条件があるらしいのだ。それが何かわかるか? フィーナ」


 デメトリアがクククと笑いながらフィーナに尋ねる。条件があることはフィーナも気づいていた。サナの話では他の魔女も死ぬような危険な目にあっているが、『魂の覚醒』は起きていないのだから。そこに何か必要な条件があるのだろう。デイジーはその条件を満たしたのだ。


「……その条件がなんなのかは解りかねます。ですが、デイジーがその条件を満たしていて、他の死に直面した魔女が満たしていない条件であれば、比較すればすぐ判明すると思います」



「む………一瞬でそこまで辿り着くで無い。私は半日かかったのだぞ」


 デメトリアは眉間に皺を寄せて、これだから天才はと愚痴を零した。フィーナは問いかけてきたのはそっちだろうと、顔を顰めたが、デメトリアは拗ねたように頬を膨らませた。


「………まあ、良い。それで私は過去に死にかけたスージーから話を聞いてな。デイジーからも話を聞いて比較したのだが、面白いことが解ったぞ!」


 イーナやレーナも興味深く聴いている。デメトリアは鼻息荒く続けた。フィーナとしては、過去に死にかけたというスージーの話に興味が惹かれたが。



「どうやら『魂の覚醒』はその者の夢や願いに大きく左右されるらしい。そして、その者がその夢や願いの実現方法を知っていれば、『魂の覚醒』は成る。今回、デイジーはフィーナに、デイジーの夢であるアルテミシアの怪力を実現可能だと解いて教えたであろう? それが『魂の覚醒』が成る理由だったのだ」


 フィーナはデイジーに見せたイエローフロッグの実験を思い出していた。あの生物の実験がデイジーをあそこまで進化させたのかと思うと、不思議と笑えた。


「『魂の覚醒』については口外しないようにしようと思っている」


「意外ですね。デメトリアさんが一番に試そうとすると思っていました」


 デメトリアは少しムッとしたが、すぐに苦笑いに変えた。


「私の夢である若返りの実験はこの通りだからな……そう思われても仕方あるまい。たが、私はこれで懲りているのだ。さすがに死ぬほどの危険な目に合ってまで、実験をどうこうしようとは思わんよ。それにな…………これを公表すれば力欲しさに危険な行動に出る魔女も増えるだろう。そうなれば多くの魔女が死ぬ。それはあまりにも悲しきことだ」


 デメトリアが空になったカップを置く。フィーナはそうなった時のことを少し考えたが、嬉々として死に向かう魔女を想像して身震いした。フィーナはすぐにその想像をかき消した。


「今から数百年も前のことだ――――」


 デメトリアが重苦しい雰囲気で語りだす。


「とある国で魔女たちを一斉に火炙りにしたらしい。 魔女達は嬉々としてその炎に身を包まれたらしい。中には少なからず悲嘆と苦しみに叫ぶものもいたようだが………歴史書ではその国が魔女を粛清しようとしたとされているが、私は『魂の覚醒』を促す儀式だったのではないかと思っている」


 デメトリアの話にフィーナは背中に冷や汗をかいた。もし公表などすれば、レンツの魔女だけでなく、メルクオール王国の他の魔女村の魔女達も殺されるだろうか。フィーナはその想像に口の中が乾くほど恐れた。


「その国では多くの魔女が炎に焼かれ死んだ。だが中には驚異的な力で死を免れた者もいたのだそうだ。その者たちが『特殊魔法』の始祖達だ」


 フィーナ達がざわりと声をあげる。特殊魔法の始祖が火炙りによる死をを免れた者たちならばフィーナやイーナ、そしてレーナの先祖にあたる。フィーナ達も特殊魔法である治癒魔法が使えるのだから。 

 無論、デイジーのように魔物との戦闘で目覚めた可能性もある。たが、フィーナの家では代々治癒魔法が継がれている。歴史が古くなればなるほど、火炙りになった魔女達の子孫である可能性が高くなる。


「つまり私達の先祖がその王国の魔女だったと……?」


 レーナがデメトリアに尋ねる。デメトリアはゆっくりと頷き、レーナ達を見回した。


「その王国で『魂の覚醒』に至った魔女は多くの魔女達を失った悲しみに後悔し、王国を恨んだという。その王国はその儀式のわずか三日後に滅んでいる」


 デメトリアの言葉にフィーナ達がごくりと喉を鳴らした。


「デメトリアさん………『魂の覚醒』に至るには夢や願いを実現できる知識が必要なんですよね? それなら火炙りになった魔女達の力がある程度予想できませんか?」


 フィーナはある推測を考えついた。これは現状の特殊魔法と呼ばれる魔法の状況からみても、憶測であるとは言い難いものだった。


「予想? 私には出来んが」


「火炙りにあった魔女達はその熱さの中、なにを思ったのでしょう。おそらく、ある者はこの熱さから逃げたい、逃げ出すための力が欲しいと願い(・・)、またある者は家族や友人が焼かれるのを目の当たりにして、この人達を救いたい、治してあげたいと願った(・・・)はずです……そしてある者は火炙りにかけられたことを恨み、復讐できるほどの力を願った(・・・)――――」


 フィーナの言葉にデメトリアが目を見開く。スージーは悲痛な面持ちでぶるぶると震えている。


「そんな人達の一部にそれを実現できる知識があったとしたら? その人達が『魂の覚醒』に至ったのではないでしょうか? そして私達がその子孫、治癒の活性魔法に目覚めた者の子孫なんでしょう。現在、特殊魔法のなかで、最も数が多いのが活性魔法です。おそらく、治癒や身体の強化等の活性魔法が、昔から代々継がれている家は、火炙りにあった魔女達の子孫である可能性が高いです」


 デメトリアはうぅむと深く唸った。レーナは自分の祖先の悲しき過去に涙を浮かべていた。


「確かにフィーナの説は一理……いや、大方正しいのだろう。だがもう数百年も前のことだ。この事はレンツのギルドマスターで代々管理していくとしよう。凄惨な過去とは言えど、特殊魔法のルーツには変わらん。失われてはならぬ。君達は他言はしないようにな」


 デメトリアは話を終えると、長くなったなと詫びを入れ、スージーと伴に帰っていった。フィーナ達には重苦しい雰囲気が流れていた。


「でもさ、私達のご先祖様が恨みや復讐で覚醒してなくて良かったね! どんな危ない魔法かわかんないもん」


 イーナは場を盛り上げる様に明るく言ったが、フィーナはそのことだけが気になっていた。


 (もしレリエートの魔女に復讐への願いで『魂の覚醒』に至った魔女の子孫がいたら………)


 フィーナは嫌な考えを払拭し、冷めたハーブティーをごくり一気飲みをした。


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