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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
魔女と襲撃者編
30/221

30『洞窟内から脱出』

 


 フィーナは驚愕した。デイジーのあんな力は今まで見たことが無かった。イーナも同じようで、首を振るばかりだ。グレンダ達やサナは唖然とした表情で口を開けていた。

 あの瞬間、誰もがデイジーの死を予感しただろう。フィーナは咄嗟に土壁を出した事を後悔し、イーナは何も出来なかったことを悔やみ、サナは守れなかったことを悲しむだろうと思っていた。だがデイジーはとてつもない力を、文字どおり怪力という力で一人でトータスモールを討伐してしまった。


 フィーナはその力がデイジーに聞いていた、アルテミシアの英雄譚のアルテミシアそっくりで、つい「アルテミシアには成れた?」と聞いてしまった。デイジーは満足そうに頷いてそのまま寝てしまったが、その体はかなりボロボロだった。


 急激で強制的な筋力の行使により、デイジーの筋肉はズタズタに裂け、攻撃した二箇所はその反動により骨まで砕けている。幸い、神経には異常はないようだが、しばらくは激しい筋肉痛の完治と、骨の癒着まで体を動かすのも辛いだろうと思った。明らかに体がついていかないその力はフィーナは危険だと思った。

 デイジーの力は受け止めるには体が小さすぎるのだ。フィーナは最初、この力をデイジーに使わすまいと考えたが、デイジーは必ず使うだろうと考えを改めた。


(せめて、デイジーに負荷がかからないようにしないと、毎回入院ってことになっちゃうよ………)


 フィーナはイーナにその事を話すと、呆れたようにデイジーを見た。だがその表情は家族に向けるかのように優しく、慈愛に満ちていた。


「フィーナ君……デイジー君のあの力はいったい……?」


「分かりません………デイジーにあの力は使えると教えたのは私ですが、デイジーは今まで一度も使ったことは無かったですし、私達も使えないものと思ってました。デイジーも今まで使おうとも、使えるとも思ってなかったと思います」


「では何故いきなりあのような力を出せたんだ?」


「それが分かりません」


 フィーナが申し訳なさそうに答える。グレンダはすっきりしないような顔を浮かべたが、押し黙った。


「いや待て、聞いたことがある」


 サナがこめかみに指を当て、記憶を絞り出すように言葉を発した。


「あれは……私が見習い魔女だった時のことだ。祖曽様が仰っていたんだ。『魔女は死に直面すると計り知れない力を発揮することがある』と……」


 サナの言葉に周囲がざわついた。デイジーは死に直面したことで、眠っていた力を呼び覚ましたのだとサナは続けた。


「デイジーは昔からアルテミシアに憧れていたそうです。死に直面することでその願いや夢がデイジーの力を発揮させたのかも……」


「だが、必ずそうなるとは限らないんだ。私も命の危機にあったことはある。私の仲間もそうだった。けど、力が目覚めたことなんてなかったんだ。私はこれが特殊魔法の発現ではないかと思っている」


 フィーナはサナの言葉を聞いて悩んだ。どうして新たな力に目覚める者と、そうではない者がいるのか。単に才能の有無なのか。だがデイジーにもその母アーニーおばさんにもその才能は感じられなかった。腕は細く、力はフィーナ達より少し強かったが、至って普通の少女だったし、アーニーおばさんも普通の魔女だった。


 そんな中、デイジーが特殊魔法に目覚めたなんてらにわかには信じられなかった。デイジーには雷魔法で神経を刺激することしか教えていない。いくら電気的刺激を強めたところで、あのような怪力が備わるとは考えづらかった。

 

 結局答えは出ず、レーナに相談するという事で終着した。




「んあ………は!! 魔物が! 魔物が!」


 グレンダに背負われているキャスリーンが目を覚ましたようで、慌てている。あの爪を受けたのだ。怯えるのも当然だろう。


 その爪の持ち主はフィーナ達によって捌かれ、素材となっていた。目的のジャイアントフレイムトータスの甲羅に、ディグモールの爪を手に入れ、板の上に乗せて、引き摺るように持って帰った。


 キャスリーンは終始ふるふると震えていたが、洞窟の出口が近づくと安堵したかのように、顔を綻ばせた。


 山小屋に着いて、全員で一息つく。サナは背負っていたデイジーを寝かせ、仕事だと言わんばかりに狩りへ出かけた。グレンダは食事を一緒にしたいとフィーナ達に懇願し、フィーナはそれを承諾した。


「フィーナさん」


 キャスリーンがおずおずとフィーナに話しかける。


「この度はわたくしを助けていただきありがとうございました。この御恩は一生忘れませんわ」


「まだ安静にしてなきゃダメですよ。傷痕が残らないように治癒魔法をかけましたが、まだ少し痛むと思います」


「まあ!」


 フィーナの言葉にふるふると震えてキャスリーンが泣き出す。


「命を助けていただいただけでなく、わたくしの傷痕にまで配慮なさってくれたなんて………わたくし、感激ですわぁあああ!」


 キャスリーンが号泣しながらフィーナに抱きついた。取り巻きたちも、その光景に涙ぐんでいる。フィーナは苦笑いを浮かべながら、キャスリーンを慰めた。


「グスグス……昨日はフィーナさんに嫌な思いをさせましたわね…………思えばあの時からフィーナさんは素晴らしいお人でしたわ。ぜひわたくしとお友達になってくださいまし!」


 (うわー、面倒くさそー………でも断るともっと面倒くさそう)


「分かりました。お友達になりましょう。キャスリーン先輩」


「まあ! キャスリーンと呼び捨てで構わないですわよ。わたくしの命の恩人なんですもの!」


 フィーナは引き攣った笑いを浮かべながら、握手するキャスリーンを見ていた。キャスリーンは耳まで赤く真っ赤に染めて、喜んだ。


 

 サナが帰ってくるまで、キャスリーンはフィーナがどれだけ素晴らしい人間かを取り巻きに演説するのを見せられ、辟易とさせられた。イーナがそんな様子を憐れんだ目で見るので、フィーナはさらに泣きそうになった。


 デイジーが目を覚ましたのはイーナがちょうど料理を終えたところだった。デイジーが眠りながらもよだれを垂らしていたので、「そろそろ起きるかも?」と笑い合っていたが、本当に料理が完成した途端に起きたのでフィーナ達はさらに笑った。


「からだいた〜い。イーナー、食べさせて〜」


「はいはい」


 デイジーがイーナに甘える。イーナは嫌な顔一つせずデイジーに食べさせてあげている。今回の功労者はデイジーだ。多少の我儘も笑って許せるくらい、イーナも機嫌がいいのだろう。


「や!! 葉っぱ要らない!! 肉がいい!」


 デイジーはプイッと顔を逸らせて、葉物野菜を避けた。しかし、イーナに頭をがっしりと掴まれ、無理やり食べさせられていた。いくら今回の功労者と言っても、イーナは妥協しなかった。少しくらいの我儘なら許すかと思っていたが、こと食事に関しては妥協しないようだ。フィーナは心の中でデイジーにご愁傷さまと形だけの祈りを捧げた。

 デイジーは涙目でイーナを睨むが、イーナがその後、肉を与えてやると、にこにこと笑った。単純である。


 フィーナはそんな光景に笑いつつ、ジャイアントフレイムトータスの甲羅で浴槽を作るのを心待ちにしていた。


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