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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
魔女と襲撃者編
3/221

3『目覚め』

「……ナ! 目…覚まして!」



 遠くから声が聞こえる。その喧しさから逃げるように寝返りをうち、布らしきものに顔を埋める。病院のベッドとは違い、ザラザラとした質感で、ちょっと臭う。



「フィーナ! フィーナ!」



 (フィーナ? いったい誰のこと? テレビ番組の音声かな? 昨日はちゃんとテレビ消したはずなんだけど…そういえば昨日死ぬとかなんとか、誰かと話してた気がするんだけど…)



 うっすらと目を明け、見知らぬ景色に唖然とする。だがどこか心当たりあるような、不思議な気分だ。



「フィーナ! 良かった…目が覚めたんだね! 祖曽様とお母さんが救ってくれたんだよ!」



 傍らで話しかける人物に目を向けると、とてつもない美少女がいた。赤茶色の髪を後ろで束ね、紺色のローブに木の首飾りをしている。瞳は藍色で、泣き腫らしたせいか、目元が赤くなっている。尚も流れる涙を強引に拭うので、痛々しさが増している。



 美少女は私の体を強引に起こすと、力強く抱きついた


(わわわ!? 過剰なスキンシップ禁止!)


 フィーナは内心、美少女にハグされたことでドキマギとしたが、声には出さなかった。


「もう大丈夫だから落ち着いて、姉さん」



 自然とこの美少女が自分の姉であることに気づく。違和感もなければ、嫌悪感もない。その顔を見れば一緒に遊んだ記憶をホロホロと思い出していく。この美少女はまさしく私の、フィーナの姉だ。  

 姉の名はイーナと言うらしい。

 フィーナの一家はみな似通った名前をしている。母親にとって、子どもは自分の分身とも言うし、レーナと似た名前なのもそういう理由があるのだろう。



「フィーナ、もうなんともないの? 無理しないで、どこか悪いとこがあったら私に言って?」



「大丈夫だよ、姉さん。もうすっかり元気だから!」



 私は両手を上げて万歳ポーズをとって微笑むと、イーナも釣られて微笑んだ。とても可愛らしい笑顔だ。



「フィーナちゃん、目が覚めたんかい!?今日はお祝いだねえ!!」



 快活で溌剌とした女性が部屋に入ってくる。この人も茶色の髪を後ろで束ねている。髪自体は肩に掛かる程度の長さのようだ。燃えるような赤い瞳に、少々シワが目立つようになってきた、人の良さそうな顔をしている。



 記憶のなかではどうやらこの人はお隣のアーニーおばさんというらしい。



「アーニーおばさん! いつもありがとうございます!」



「いいんだよ! イーナちゃんとフィーナちゃんはアタシの娘とも仲良くしてくれるからね! 今日はフィーナちゃんの大好物を用意するからね!」



 アーニーおばさんの娘はデイジーと言うらしい。記憶の中では頻繁にフィーナやイーナと一緒に遊んでいたようだ。



「姉さん、母さんはどこ?」



 フィーナの家族は母レーナと姉のイーナ、そしてフィーナの三人家族と記憶している。今フィーナが居るのはフィーナの家だ。木と埃の臭いに包まれた、殺風景な子供部屋がなんだかすごく落ち着く。

 天井のシミが恐ろしい顔の形に見える、とイーナと頭を隠しながら眠ったことが鮮明に思い出される。懐かしい気持ちになって、無性にレーナに会いたくなった。



 イーナはちょっと困ったような顔をして、唇を強く結ぶと諭すようにゆっくりと話始めた。



「母さんは魔力の使い過ぎでまだ寝てる。いつ目を覚ますか解らないんだって」



「そう……なんだ……」



「フィーナが気にすることないよ?母さんは強いから!すぐに目を覚ますよ!」



 正直、魔力と聞いてもいまいちピンとこない。どうやらフィーナを救うために魔力を限界を超えて枯渇するまで使ったらしい。記憶の中の母レーナは非常に優しく、愛情に溢れる心地よい記憶ばかりだ。



「うん……そうだね! 私も、もう少し休むよ」



「わかった! 私はアーニーおばさんのお手伝いしてるから、何かあったら呼んでね!」



「美味しいものたっぷり作るからね! 期待して待っててね!」



 イーナとアーニーおばさんが部屋を後にする。私は現在の状況を染みだらけの天井を見ながら考える。



(これが転生体なのかな?)



 手を伸ばしてヒラヒラと降ってみる。小さくて細い指。フィーナはまだ子どものようだ。



(ザハテ様の話だと、契約によってなんとか言ってた気がするけど…良くわっかんないなあ)



(自意識は完全にヒカリの頃と同じだよね? じゃあフィーナって子は本当に死んじゃったんだ…でも記憶はある)



 姉のイーナやアーニーおばさんの喜びの様を見ていると凄く申し訳ない気持ちになる。私がフィーナの体を奪ったように思えてくるから。

 フィーナの記憶ではどれも暖かい経験で溢れており、家族や友人の愛情が至るところに感じられた。こうやってフィーナ記憶を客観的に判断できるのも、少なからず自分がこの世界の人間ではない事を現しているように思えた。


(少なくともフィーナの記憶も残ってるし、魔女?魔力?魔術?よく分からないファンタジーな記憶もあるけど、なんとかやっていけそう!)



(それに、レーナ母さんはもしかしたら…)



「フィーナちゃん!ご飯だよ!」



 アーニーおばさんの、元気な声が部屋の外から響く。返事をするより先に、ぐぅ~、とお腹が鳴った。私はお腹をポンポンと叩いて部屋を出た。





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