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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
魔女と襲撃者編
28/221

28『洞窟内にて 3』

 

「キャスリーンの意識はまだ戻らないのか?」


「はい、でも熱もありませんし、問題はないです」


 キャスリーンは未だ意識は無かったが、眠っているように穏やかな顔をしていた。

 フィーナ達は山小屋へ戻ろうと腰を上げる。グレンダ達には軽い食事をとらせたため、多少顔には生気を取り戻していた。だが、まだ辛そうだったので、戦闘はフィーナ達が受け持つことにした。

 グレンダは「何から何まで申し訳ない」と涙ながらに感謝していたが、一向に泣き止む気配がないので、サナが「置いていくぞ」と脅したところ、青い顔をして泣き止んだ。



「魔物はこの臭い袋が本当に嫌いなんだね」


「たしかに独特な臭いがするが、それほど私は嫌じゃないな」


 フィーナとサナが臭い袋を片手に話す。臭い袋は最後尾のイーナにも持たせてあった。

 時おり立ち止まって、風魔法で洞窟の先に臭いを送った。そのおかげか、フィーナ達はまったく魔物と遭遇することはなかった。

 臭い袋は山椒の香りを強めたような物で、間近で嗅ぐと鼻がもげそうに痛むが、少し離しておけばそれ程嫌な臭いではない。


「臭い袋は狩人にとっても必需品なんだ。最近は君達の臭い袋が手に入るから、狩人達の怪我も減っているんだよ。まあ、中には鼻が退化した魔物もいるからね。そういう魔物はこの洞窟内にはいないと思うが、注意だけはしておこう」


 フィーナはごくりと喉を鳴らした。臭い袋を持っていても安全ではないのだ。


 一行が洞窟内を進んでいくと、フィーナ達がフレイムリザードを倒した場所に行き着いた。回収する暇も無いので、仕方なく亡骸を埋めた。

 グレンダ達はこの場所を通って来ていたが、フレイムリザードの亡骸があるとは知らず、またフレイムリザードを倒したフィーナ達を信じられないかのように見ていた。

 フレイムリザードの胃液は酸性度が高く、極めて揮発性と可燃性が高い。取扱いに注意が必要だが、燃料や触媒に使えるので出来れば回収したかった。次に来たとき、またフレイムリザードに遭遇できればいいが、そうなるとは限らない。そのため、余計に悔やまれた。




 一行はフレイムリザードの亡骸を埋めたあと、少し先を進んでいた。出口はまだまだ先というところで、一行は足を止める。


「チッ……」


 突然サナが舌打ちした。フィーナはどうしたのかと尋ねようと思ったが、サウナに入ったかのような暑さが押し寄せたのに気づき、嫌な予感がした。

 このむせ返るような蒸し暑さはジャイアントフレイムトータスの生息環境だ。フィーナの額から冷や汗と通常の汗が同時に溢れ出る。


「例のラ・スパーダだ!」


 サナが叫び、背中の弓を取り出し、注意を呼びかけた。


「総員戦闘準備! グレンダさん達は後方へ! 魔物から挟撃を受けないように注意を!」


 イーナの声で全員がバタバタと動き出す。


「な、なんですの……あれ?……わたくし、生きてますの………?」


 周りの慌ただしさにキャスリーンが目を覚ましたが、ラ・スパーダの姿を見ると小さく「ひっ!」と声をあげて再度失神した。

 正直、説明している暇はないので、気絶していてくれたほうが有り難い。



 フィーナ達はラ・スパーダと対面した。ラ・スパーダは臭い袋を警戒しながらも、攻撃を仕掛けようとしている。鋭い爪をガチャガチャと鳴らし、敵意剥き出しの目つきで睨んでいる。


「予想通り、ジャイアントフレイムトータスとディグモールの合種ですね………。地中を掘り進むディグモールの能力はないようですが、鋭い爪は健在です。あれを急所にもらえば即死でしょう」


 フィーナが冷静に分析する。魔物との戦闘において情報は必須なものだ。みな集中してフィーナの言葉を聴いている。


「ジャイアントフレイムトータスの弱点は脳天、ディグモールの弱点は腹部ですが、甲羅に覆われてるため、腹部への攻撃はいまいちです。ここは脳天を狙いましょう」



「皆聴いた!? 脳天狙いで敵を討ちます! 敵をトータスモールと名付け、これに対します! サナさんは鉄の矢を使ってください! デイジーは雷魔法準備! 作戦『避雷針』でいきます!」


「「「「了解!」」」」


 イーナの指示が飛び、サナがバッグから鉄の矢を取り出す。魔法矢ではない、無骨な鉄の矢を構え、サナが放つ。


 鈍色に光る鉄の矢は正確にトータスモールの頭めがけて飛んで行った。しかし、トータスモールはその鉄の矢を毛むくじゃらの腕でガードした。それでも、重い鉄の矢は深々と腕に突き刺さった。

 トータスモールが唸り声を上げる。痛みからではなく、苛立ちから来る唸り声だった。ほとんどダメージは無いのだろう。しかし、フィーナ達も矢自体にダメージは期待していない。


「デイジーライトニング〜!」


 デイジーの雷魔法が鉄の矢めがけて放たれる。バチバチと激しい音を響かせて、トータスモールが感電する。トータスモールの体がぐらりと傾き、膝をつく。

 フィーナ達は作戦成功に喜ぼうとした瞬間、トータスモールがキッと顔を揚げて、口を開いた。


「ブレスきます!」


 フィーナがハッとして叫ぶ。ジャイアントフレイムトータスにはブレスを放つ特性があった。その特性を目の前のトータスモールが引き継いでいてもおかしくはなかった。


 フィーナは咄嗟に土魔法で壁を作る。フィーナ達の前に土壁がせり出した。直後にゴウゴウという音と共に、土を焼く臭いがあたりに立ち込める。フィーナは一酸化炭素中毒や二酸化炭素中毒に注意して、後方から風魔法で空気を送り込んだ。それでも凄まじい熱気がフィーナの頬を焼き、フィーナは思わずローブで顔を覆った。


 暫くして、ゴウゴウという音がやんだかと思うと、次はゴロゴロと巨石を転がすような音が響き、フィーナの土壁が発泡スチロールのように壊れた。


 土壁の向こうから飛び込んできた巨石を目にした時、フィーナはギョッとして、尻餅をついた。巨石と思っていたのは丸まったトータスモールだったのだ。足を甲羅の中に引っ込ませ、手や頭を使って器用に球体になったトータスモールは土壁を破って、フィーナ達の後方に着地した。フィーナ達の顔が一瞬にして青ざめる。

 



「デイジー!!」


 フィーナは叫んだ。


 トータスモールが爪をガチャガチャと鳴らし、今にもデイジーに襲いかかろうとしていた。





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