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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
魔女と襲撃者編
26/221

26『洞窟内にて』

 

 サナは後悔していた。昨日の晩、レーナの娘、フィーナに説得され、ジャイアントフレイムトータスを一緒に狩ることにしてしまったことについてだ。

 朝目覚めると、とてつもなく美味しそうな香りが漂ってきて、サナの腹の虫をぐうぐうと鳴らせた。朝食を作ってもらうのは久しぶりだった。普段は干し肉などで済ませてしまうため、きちんとした朝食を見た時は、懐かしさや嬉しさなどが混ざって涙が出そうになった。食後に入れてくれるお茶も美味しい。フィーナ達は毎日このお茶の時間を欠かさないと言う。確かに幸福な時間だとサナは感じた。


「私が先頭を歩くから、君達は私の後ろをついて来てね」


 三人は頷いて、ぴったりと私の後についてきた。

 言うこともよく聞くし、疑問を持ったら何度も質問してくるフィーナ達は、サナにとって妹のように可愛かった。フィーナ達に何かあれば命を賭けて守ろうと心に誓った。


 洞窟に入ると、ひんやりとした風が体を包む。洞窟内は暗く、灯りの魔法を唱えて照らしていく。洞窟内は森とは違う魔物が出現するため、サナは少し緊張していた。サナにとっては森はホームであっても、洞窟はアウェーであった。


 サナの耳にキィキィと金切り声のような鳴き声が届く。遠いが、魔物の鳴き声だ。


「ポイズンバット確認! フィーナ! 距離を測って! デイジーは第四級複合魔法『めらめら魔法』を準備!」


「わかった!」


「ほーい」


 イーナが指示をだした。サナは急に動き出したフィーナ達に困惑した。フィーナがバックから鉄棒のようなものを二本取り出し、カーンと打ち鳴らした。するとキィキィという鳴き声がより大きくなった。


「距離約三オットと半分」


 フィーナがぽつりと応える。オットとは距離を表す単位だ。サナは何が三オットと半分なのか判らなかった。


「サナさん、三オットと半分の位置にポイズンバットが複数います。

武器を構えておいてください」


 サナはさらに困惑した。さっきのフィーナが鳴らした鉄の棒で距離を測ったのか、第四級複合魔法とは何なのか、聞きたいことは山程あった。しかし、ここはイーナの言う通り、武器を構えておく。ポイズンバットは普段洞窟にしか生息していないため、サナは狩った経験が少なかった。牙に毒があることと、音に敏感なことしか知らなかった。


 サナの困惑を他所に、ポイズンバットの群れが洞窟の奥から大量に現れた。サナは死を覚悟した。あの数を相手にフィーナ達を守りきれる手段も、自信も持っていなかった。


(ああ、あの子達を死なせてしまったら、レーナ先輩やアーニーさんは悲しむだろう。そして私は優秀な見習い魔女達を死なせた無能な魔女として、村のみんなの怒りを買うに違いない)


 サナが途方に暮れていると、フィーナがトントンと叩いた。


「サナさん、これを耳にはめて下さい」


 サナの手に丸い木の実が置かれる。イーナやデイジー、フィーナもその木の実を耳にはめている。サナはどうにでもなれという気持ちでその木の実を耳にはめた。

 すると背中がぞくりとするようなポイズンバットの金切り声が遠くなり、自分の心臓の鼓動の音が大きく聞こえた。


 サナが早鐘のように打つ鼓動を鎮めていると、フィーナがさっと先頭に立った。サナは止めようとしたが、咄嗟のことに反応が遅れてしまった。


 バーーーン!!と激しい音に、ビリビリとサナの体が震えた。


 こちらに向かってきていたポイズンバットはぼたぼたと地面に落ち、口から泡を吹いている。


 フィーナがくるりと振り向いて、耳をちょんちょんと指差して木の実を取り除いた。

 サナはその意を察して木の実を取り除く。洞窟内の低い風切り音が耳に入ってきた。未だキーンと耳が響いているが、この木の実で音を遮断したのだとわかった。


「サナさん、とどめを刺すのを手伝って下さい」


 イーナのほうを振り向くと、横でデイジーが火炎魔法を操っていた。サナは驚嘆した。火炎魔法はサナも扱うことが難しい魔法だ。その魔法を見習い魔女になったばかりの少女が使っていたからだ。

 デイジーの火炎魔法で、地面で泡を吹いている数十匹のポイズンバットが炎に包まれた。サナは残ったポイズンバットを短剣で確実に息の根を止めた。


 するとフィーナがおもむろにポイズンバットの口に手を突っ込んだ。


「ちょ、フィーナ君!? 何をしているの!?」


 サナは大声を上げてフィーナに迫った。さっきまで死を覚悟するほどの窮地だったので気が狂いでもしたかと焦ったのだ。


「何って、素材収集ですよ? ポイズンバットは死ぬと毒の分泌がされなくなるんです。牙に残った毒は神経麻痺に使えるので回収したいんです」


 サナは唖然として、その行為を見ていた。フィーナはポイズンバットの下顎を切り取って麻袋に入れていた。イーナとデイジーもその行為を手伝っている。サナは黙々と作業するフィーナ達に、これは必要な作業なのだと感じ、手伝った。


「えーと、さっきのは何だったのか教えてくれるかな?」


 サナはポイズンバットの死骸を土魔法で埋めているフィーナに尋ねた。戦闘開始から終了まで、サナは困惑しかしてなかった。フィーナ達の行動の理由を聞くことで頭を整理したかったのだ。


「ポイズンバットの鳴き声が聴こえましたよね? ポイズンバットは群れで生息しているので、急に遭遇すると非常に危険な魔物なんです。そこでこの鉄棒で音を鳴らして、ポイズンバットの鳴き声が大きくなる時間を測って、距離を推測しました。次にポイズンバットは耳が良いので、爆音による気絶を狙いました。後は気絶から覚めないうちに、デイジーに準備させていた『めらめら魔法』と、サナさんの攻撃で終わりです」


「ポイズンバットの対処法はどこから?」


「母さんの研究資料です」  


 フィーナはバッグから紙束を取り出した。どうやらこの洞窟に生息している魔物の習性や特性が書かれているようだ。

 最後の紙にはフィーナによる各魔物についての対処法が書かれていた。サナはその細かさや実用性に感嘆した。これがあれば、護衛や狩り、新人の教育もかなり楽になるだろう。サナは何よりもこれを短時間で作ったフィーナに舌を巻いた。


 魔物の特性を調べ、弱点をつく。指揮系統を明確にして、迅速に行動する。作戦に不備がないか確認しあうなど、フィーナ達は完璧にこなしていた。

 サナはフィーナが実戦を積みたいと願うのも当然だと思った。


 (それに比べて私は……)


 サナは大きく溜息をついた。優秀すぎる天才達についていけるのかだけが不安だった。護衛が守られるなど、笑い話にもならない。せめて、フィーナ達の邪魔にならないよう、魔物の特性と指揮系統を頭に叩き入れて、フィーナ達の実戦訓練に付き合うことにした。



サナさんから見たフィーナ達の初戦闘でした。

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