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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
魔女と襲撃者編
24/221

24『図書室の恐い魔女』

 魔法の訓練をし始めて一ヶ月が経った。基礎魔法や、それを応用した複合魔法まで、フィーナ達は習得していた。

 土魔法で土を起こし、水魔法で泥状に変化させ、相手の足を止める魔法『どろどろ魔法』や水魔法と雷魔法で塩を入れた水を水素と酸素に分解し、爆破させる『ドカドカ魔法』などを開発した。

 あまりに規模が大きかったり、威力が高すぎる魔法は、三人の中で第一級複合魔法として、様々な制約をつけた。


 そんな中、フィーナには一つ悩みがあった。日に日に肌寒くなってきて、水浴びが出来なくなったのだ。今はお湯を沸かして体を拭くだけである。一度、風呂をイメージして水魔法を使ってみたがうまくいかなかった。頭は痒いし、肌が乾燥してカサカサする。


 フィーナはいつもの二人と供に図書室へ向かった。


「ねえ、フィーナ。図書室に何か用があるの?」


「ちょっと調べ物。あ、図書室に着いたから静かに、だよ」


 フィーナは人差し指を口に当て、二人を見ると、くるりと振り返って、図書室の扉を開けた。

 図書室には司書っぽい、眼鏡をかけたきつそうな魔女がいた。フィーナ達はにっこりと微笑み、そそくさと本棚へ向かった。


 フィーナは風呂が作れないのか調べに来たのだ。魔法では失敗するので、何か方法が無いかと図書室へ足を延ばしたのだ。図書室は古書の独特な匂いがこもっており、埃っぽさを感じられた。どの本も年期が入っていた。おそらく、寄贈された歴代魔女達の本なのだろう。

 料理本や教材となりそうな本など、普通の物もあったが、硬い石がたくさんある地域について調べた本や、一番臭い植物について調べた本など、よくわからないものもあった。しかし目当ての本が見つからない。


 フィーナはごくりと喉を鳴らし、きつそうな魔女に尋ねてみることにした。


「あ、あの」


「なにか?」


 きつそうな魔女がくいっと眼鏡を上げて振り返る。妙齢な女性で白髪混じりの暗い茶髪を団子のように纏めているため、クールな印象を受ける。皺の入った口もとはきっと結んでいて、目はフィーナ達を見定めるかのように、爪先から頭までじっくり見ていた。


「浴槽の研究をしていた魔女の本はありますか?」


「浴槽?」


「は、はい!」


 フィーナがびくっと背をただし、イーナとデイジーも緊張しているのが背中から伝わる。きつそうな魔女が手に持った分厚い辞書のような本をバラバラと捲り、ちらりとこちらを見た。何か言われるのかとフィーナ達は震えていたが、きつそうな魔女はふいっと踵を返すと本棚の列に入っていってしまった。


(あ、あれ? 呆れられたのかな?)


 フィーナ達がどうしようかと顔を見合わせていると、きつそうな魔女が何冊かの本を抱えて戻ってきた。

 フィーナ達に無言で本を渡し、ピッと籠が置いてある机を指差した。


「返却受付」


 きつそうな魔女が一言放つと、ゆっくりと本棚の整理を始めた。


「フィーナ。この本、お風呂について書いてあるよ………」


 イーナが小声でフィーナに話す。フィーナは、ハッとして急いで閲覧スペースを確保し、椅子に座って読み始めた。王宮の浴槽や浴槽の歴史、地方の文化などが書かれていて、その中の一冊にフィーナが求めていた本があった。

 風呂の作り方である。フィーナはこの一冊以外の本を返却籠に入れ、筆記具を取り出し、本の内容を写本した。


 だいたいの写本が終わると返却籠に戻して、きつそうな魔女に礼を言った。


(この人はきつそうだけど、多分いい人だと思うんだよね)


「あの、お名前を教えてもらっていいですか?」


「ドナ」


「ドナさん、探していた本が見つかりました! ありがとうございます!」


「ん」


 ドナは軽く頷くと、フィーナの頭を撫でた。イーナとデイジーは揃って唖然としていたが、フィーナはドナを少し理解できた気がして嬉しくなった。


 写本し終わった本を返却籠に入れて、ドナに手を振って図書室を後にした。


「フィーナって、ドナさんと仲良かった?」


「さっき仲良くなったよ」


「……ドナさんは厳しくて、恐いって評判なのに」


「お話しが苦手なだけだよ。優しくて良い人だと思うよ」


 イーナはうんうんと悩んでいたが、フィーナは素知らぬ顔だ。

 上辺だけの言葉に頼らないため、ドナは内面がとても優しく感じられた。ドナがフィーナの頭を撫でた時、フィーナはきつい顔つきのドナの笑顔を見ていたのである。それを見てしまえば、恐い人などとは思えなかった。どうせその評判も偏見か、図書室で騒いだ魔女を注意したドナへの当てつけに、流した噂だろう。


「それで? 捜し物は見つかったんでしょー?」


 デイジーがフィーナの隣に並んで歩き、フィーナの顔を覗く。フィーナはデイジーににやりとした顔を見せ、メモした羊皮紙をぺし、と叩いた。


「お風呂を作るよ! そのためにはサナさんに協力してもらわないと!」


「お風呂? フィーナはお風呂に入りたいのー?」


「ゆっくり体を休めるにはお風呂は最適なの。デイジーも一緒に作る?」


「うーん……」


「浴槽の材料に魔物の素材が必要だから、魔物を倒さなきゃね」


「作る!」


 デイジーは顔を輝かせ、フィーナの提案に乗った。イーナも、二人だけだと騒がしくてサナさんが可哀想と言ってついて行くこととなった。使い魔のミミにサナへの依頼書を括りつけて、届けてもらった。



 サナは了承の返事をミミに持たせたようで、それを受け取ったフィーナはギルドの受付で、依頼申請をした。受付のステラはフィーナが依頼をすることに驚いていたが、依頼内容を見て、小さく頷いた。


「依頼の担当者はサナさんにお願いしたので、募集は入りません。こっちが成功報酬です。許可をお願いします」


 フィーナは革袋をステラに渡した。依頼の内容は『レンツ・ウォールの洞窟での素材採集護衛』である。

 レンツ・ウォールはレンツの森を北に向かって歩くと、高い壁のように山肌が現れることから、そう呼ばれている。レンツ・ウォールにはいくつか洞窟があり、洞窟内では特有の魔物が生息している。そのため、レンツの魔女が素材集めや研究によく向かうのだそうだ。

 イーナとデイジーは魔法の試し打ちが出来ると喜んでいた。


 ステラは承りましたと言って、依頼書と革袋を持って奥に引っ込んだ。しばらくして、依頼受理証明書と書かれた小さな紙を渡された。



 魔術ギルドを後にし、村の入り口でサナと合流し、一行はレンツ・ウォールへ向かった。





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