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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
魔女と襲撃者編
23/221

23『フィーナの魔法』

 

 次の日、秘密特訓と称してフィーナ達だけで魔法の訓練を行うこととなった。スージーに場所を貸して貰えないか頼んだところ、小さめの訓練室とやらを貸してもらった。殺風景な石造りの部屋で、部屋の隅には簡単な休憩スペースがあった。


「今日はフィーナが教えてくれるんだよね? あの変な魔法も教えてくれるの?」


「うーん、あれは難しいかも。使うのが難しいというより、教えるのが難しいんだよ。重要なのはイメージだから、今日はイメージしやすいようにお勉強って感じで!」


「うぇ〜、お勉強〜?」


 魔法のコツはイメージということは昨日の練習で解っていた。問題はこの世界でどうやってそのイメージを伝えるかだった。デイジーはお勉強という言葉に拒否反応を示していたが、イーナが夕飯はステーキにすると言うと、俄然やる気を見せた。ちなみに鶏のステーキである。


「まず火の魔法なんだけど、火は空気がないと燃え続けることが出来ないの」


 この世界に原子論という言葉を聞いたことがない。レーナの研究資料にも酸素や二酸化炭素のことは載っておらず、フィーナはどう伝えるべきか、かなり悩んだ。

 フィーナは出来うる範囲で実験として目の前で見せて、その現象として把握してもらおうと考えた。理屈は解らないけど、結果はわかるという点に的を絞った。


「火は空気を消費して燃え続ける。ここまではいい?」


「空気が無くなったらどうなるの?」


「試してみようか」


 フィーナは空の薬瓶を二つ取り出して、油に着けた綿を中に入れた。


「片方は蓋をして何もしない。もう片方には風魔法で空気を循環させるね」


 フィーナは綿に火をつけて、片方の瓶の口をコルクで栓をした。もう片方の瓶には風魔法で緩やかに空気を流し込んだ。そう待たずにコルクで栓をした方は酸素を消費しつくしたか、二酸化炭素が充満してしまったのかで火が消えた。風魔法を使っている方は燃え続けている。


「ほんとだ。消えたね。不思議〜」


 フィーナは風魔法を止めて薬瓶にコルクで栓をした。火が小さくなっていき、消える。イーナとデイジーはほうほうと頷いた。フィーナは薬瓶を放置して、次の説明に入った。


「これで解ったよね? だから火魔法だけじゃなくて、風魔法を併用すると、強い火を生み出せるの。見てて」


 フィーナは右手に火魔法、左手に風魔法を使って、両手を近づけた。風魔法で火が消えないように、注意しながら両手を合わせる。フィーナの手の平から水平方向に小さな火柱が上がった。


「す、凄い」


「デイジーもやる!」


 イーナとデイジーは競うように練習し始めた。フィーナは火傷しないように言おうとしたが、時すでに遅しで、デイジーが風魔法の向きを誤り、軽い火傷を負ってしまった。

 フィーナは薬箱からアロエの果肉とラベンダーオイルを取り出し治療した。錬金術分野の角部屋は日当たりが良く、風も通しやすいため、現在フィーナ達の薬草園のようになっていて、アロエやラベンダー、ミント、セージなど、様々な鉢植えが並んでいた。今日はそこから必要になりそうなハーブを採ってきたのだ。


「風の向きに注意してね。デイジーは風魔法が得意だから出来るはずだよ」


「ありがと、フィーナ」


 フィーナは理科の実験のように次々と魔法と物理現象を見せて、二人に理解してもらった。イーナとデイジーは真剣に練習に取り組んだ。水魔法は水圧の概念を、土魔法は土の種類を、風魔法は向きと風速を、氷魔法は氷点下の存在を、雷魔法は矢尻に電気を流し、目に見えるようにした。


 二人は自発的にメモを取り、フィーナにあれこれと質問した。フィーナは出来るだけ分かりやすく教えた。


「ふ〜、ちょっと休憩しよー」


 デイジーが息で前髪を浮き上がらせ、よたよたと休憩スペースに向かった。イーナも気怠そうにデイジーの後を追った。


「フィーナに教えてもらった方法だと魔力をかなり節約できるね。昨日より断然規模が大きいのに、全然疲れないもん」


「そうだね〜、おかげで使いすぎたかも〜」


 イーナとデイジーは休憩スペースの椅子に腰掛け、大きく息を吐いた。その表情は疲労感が出ていたがどことなく心地良さそうだった。フィーナは二人にハーブティーを出すと、二人に向かい合って座った。


「今日は呪文を使って無いから、それほど疲れないと思う。今日練習したことをちゃんと覚えていれば、魔力の消費も抑えられて、強い魔法もこなせるようになるよ」


「これで呪文まで使ったらどうなるんだろうね〜」


「ちょっと私、試してみるよ」


 フィーナが立ち上がり、休憩スペースから離れる。休憩スペースからもフィーナの姿は見えた。

 フィーナはレーナの研究資料に載っていた、火魔法の火力増幅を唱えて、火魔法を使ってみた。フィーナの手の平から小さめの火柱が立ち昇る。フィーナは首を傾げ、もう一度同じ呪文を唱えた。変わらず火柱が立ち昇る。

 フィーナは頬に手を当てて、考え込んだ。しばらくそのまま止まっていたが、ふっと顔を上げて、溜息をついた。


「……多分呪文を使っても意味ないかも」


「「ええ!?」」


 イーナとデイジーが同時に驚く。


「火力増幅の呪文を唱えたんだけど、これって火魔法に無理矢理、風魔法を合わせる呪文みたい。イメージを必要としない分、簡単だけど、魔力がすごくとられるよ。呪文を覚えるのも大変だし、私は使わないかな」


 そう言ってフィーナはまた溜息をついた。


 (はあ、カッコいい呪文を唱えて、すっごい魔法をドカーンと使いたかったのに……ガッカリだよ………)


 どうやらレンツの魔女達は魔法の呪文ばかり研究して、物理化学を研究しなかったようだ。物理現象を無理矢理呪文で構築するあたりには頭が下がるが、そんなことをせずとも強い魔法を使えるのだ。

 フィーナはレンツの魔女に優秀な者が少ない理由の一つがこれだと思い至った。このやり方では魔力量の多い魔女しか強い魔法は使えない。


「これってギルドマスターに言ったほうがいいのかな?」


「呪文の研究をしている人には悪いけど、教えてあげたほうが良いかも?」


「うーん、デイジーは教えないほうがいいと思う」


「え? どうして?」


 デイジーは眉に皺を寄せて、うーんと唸った。


「フィーナが使う魔法は、多分初めての発見だよ。 かーさんも知らなそうだもん。レーナさんだって、あんなに興奮してたし、フィーナが発表したら、みんなフィーナに教えて貰おうとして大混乱になるよ」


「た、確かに……」


 フィーナとイーナは昨日のサナとレーナを思い出しながら頷いた。きっとフィーナは逃げ出したくなるだろう。


「それに呪文を使う魔法だって、呪文を変えれば、消費魔力を減らせるはずだと思うし、今はレリエートの魔女が襲撃してくるまでの準備期間だよね? だから余計な面倒事はいらない!」


 デイジーがきっぱりと言い切った。フィーナとイーナは感心して拍手すると、デイジーは鼻を鳴らして腰に手を当て、ふんぞり返った。



「そうだね。今は大事な時期だもん。デメトリアさんだって、対策立ててるだろうし、こっちはこっちで準備しよう」


 フィーナはデイジーが反対するまで、村全員の魔女にどう教えようか考えていた。しかしデイジーが反対したことで、肩の荷が降りた気がした。



 フィーナ達は休憩の後、魔法の練習を続けた。 


 

 その頃レーナは娘達が何か隠し事をしているのを感じて、自分が見習いだったときを思い出し、懐かしく思っていたそうだ。 


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