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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
魔女と襲撃者編
21/221

21『レリエートの五人の魔女』

 

 フィーナ達が使い魔に大興奮している時、レイマン王国のレリエートの村では重苦しい雰囲気が流れていた。


「馬鹿が! 油断しやがって!」


 褐色肌で短髪赤髪の魔女が円卓を拳で激しく叩いた。切れ長の目は一人の魔女をこれでもかと睨み、腹立たしげに息を吐く。


「リーレンはまるで情報を持ち帰れなかったようじゃな……ましてやレンツの魔女なんぞに一泡吹かせられ、逃げ帰ってくるとは……」


 口もとをスカーフで隠した魔女がリーレンを非難した。冷徹な瞳は褐色肌の魔女と同じように一人の魔女を睨んでいる。

 二人の魔女から睨まれたリーレンは円卓の一席で歯を食いしばり、後悔に耐えていた。


「キャハハ! 使えないやつなんて切り捨てれば良いじゃない! 私が息の根、止めてあげよっか?」


 不敵な笑みを常時浮かべた魔女が脅す。その目には冷酷さが滲み出ている。


「よさぬか! リーレンをレンツに差し向けたのは我々だろう! ここでレリエートの力が弱まるのは避けるべきだ!」


 青い髪で蒼い瞳の魔女が抗議する。リーレンを責めていた三人の魔女は不服そうな顔を見せ、青髪の魔女をなじる。


「はあ? アンタ『二つ名』持ちのくせに一番弱いじゃない。ねえ? マリン? キャハ! アンタが代わりに死ぬっての?」


「くっ………!」


「キャハハ! 雑魚は黙っててよね!」


 不敵な笑みを浮かべた魔女は腹に手を当て、足をバタつかせて嘲笑った。マリンは俯き、奥歯を噛み締めた。


「そのくらいにしておけ、ベラドンナ。そうじゃな―――リーレンよ、何か言いたいことはあるか? 申し開きの機会をやろう」


 諌められたベラドンナは舌を出してケタケタと壊れた人形のように笑っていた。スカーフで口もとを隠した魔女はリーレンに迫った。リーレンは冷や汗を拭いつつも、力の入った言葉で応えた。


「もう一度私に任せてくれ。次は徹底的にあらゆる可能性を配慮して、万全な態勢で挑む」


「次はないぞ? 費用も全てそちが払うのじゃ。王都にはまだ知らせずにおいてやろう」


「感謝する、アレクサンドラ」


 アレクサンドラはほくそ笑んだ。そもそもリーレンにもう一度レンツに行かせるのは決定事項だった。王国にも、援助を受けておきながら、早速任務に失敗しましたとは報告できなかったのだ。

 リーレンは死にもの狂いで結果を出そうとするだろう。レリエートでは重要任務の失敗者は人体実験の材料になるか、使役魔物のエサになるしかない。それを免れたとしても、村を追放され、奴隷のように泥をすすって生きるしかない。


 

「けどよぉ……レンツには侵入者がウチだってバレてねえんだろ? オレたちで行けば一日もせずに灰に出来るだろ?」


「相変わらずの単細胞じゃな、アマンダ。リーレンに姿を見られずに、こちらを探るように攻撃してくるような魔女がレンツにはいるのじゃ。油断すべきではない。それにわし達が行けば、必ず他国にも勘づかれる。若がえりの秘術を力まかせに奪取した、と知られるのは、王国にとってもレリエートにとっても不味いのじゃ」


 アマンダは単細胞と言われたことに腹をたてたが、その後のアレクサンドラの言い分に半分も理解が追いつかず、首を傾げてしまった。それを見て、ベラドンナが笑った。



「週に一回このような会議を開く。リーレンはその都度、進捗状況を説明するのじゃ。よいな?」


「……ああ」


「では解散」


 リーレンを除いた四人の魔女が席を立つ。リーレンは憎しみに燃える心に、体内を焼かれそうだった。円卓を囲んだ魔女達はみな、比類なき才能と実力を持っていた。リーレンも血を吐くような努力を積み重ねてこの席に座ったのだ。そのプライドを一瞬で踏みにじったレンツの魔女に、リーレンは人並みならぬ憎しみを抱いていた。


「リーレン」


 リーレンはすでに部屋に自分だけだと思っていたので驚いて振り向いた。そこには真剣な表情をしたマリンがいた。マリンはリーレンと同期の魔女だ。リーレンはマリン達の世代では憧れの的であり、マリンもリーレンに近づきたくて、必死に精進した。マリンがやっとの思いでリーレンに追いついたと感じた時、リーレンが重要任務に失敗したと聞いた。

 マリンは絶望した。リーレンのような優秀な魔女が任務に失敗するなど思っていなかった。リーレンより才で劣るマリンは、これ以上努力しなければならないのかと嘆いた。

 しかしレリエートの魔女達がリーレンを非難する様を見て、マリンは気が変わった。


「リーレン、私に手伝えることはない?」


 リーレンは怪訝な目をマリンに向けた。マリンとは同期だったが、それほど仲が良かった訳ではない。マリンがリーレンを手伝う理由が解らなかった。


「なんだ? 私の功を横取りするつもりか? それとも私に恩を売るつもりか?」


 リーレンはマリンの不可解な行動に苛立ち、毒を吐いた。しかしマリンは真剣な表情を崩さず、リーレンの瞳をじっと見つめた。


「違うわリーレン。私はリーレンに憧れているのよ。強くて優秀で凛々しい、私が手を伸ばしても追いつけない所にいるリーレンに。だから今のリーレンは見てられないのよ。これは私の我儘(ワガママ)よ」


 マリンは先程の会議とは口調が変わっていた。これがマリンの普段の口調なのだろう。

 リーレンは真剣な表情のマリンに嘘はないことが解った。マリンが並々ならぬ努力をしていることもリーレンは知っていた。そのマリンがリーレンを見てられないという。リーレンは今の自分の立場が厳しいことを知っていたが、それでもマリンに手を貸してもらうほど、落ちぶれてもいないと思っていた。何より、プライドが許さなかった。


「―――フン。マリンにはそんなに私が落ちぶれて見えるか? お前は何も解っていない。この件は私一人が片付けなければ意味が無いんだ」


「でも一人より二人の方がやれることは多いわ!」


「黙れ! お前には解らんだろう! これ以上戯れ言をぬかすなら八つ裂きにするぞ!」


 リーレンはナイフのように鋭く伸ばした爪をマリンの首元に当て怒鳴った。マリンはゴクリと喉を鳴らし、一歩下がり、何も言わずに部屋を出た。


 リーレンは荒れ狂う感情を押さえつけ、深く息を吐いた。


 (必ず………必ず達成してやる………若がえりの秘術があれば私の力も――――)


 リーレンは鋭く尖った爪を見つめ、ニヤリと笑った。


リーレンを含むレリエートの魔女達が初登場です。悪役は書いてて楽しいですね。そんな中の唯一の良心マリンは難しいです。お気に入りはベラドンナです。次回はフィーナ達の魔法練習です。

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