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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
魔女と襲撃者編
19/221

19『使い魔とレーナの弱点』

 

「フィーナよ、当たり障りのない情報と言ったが、どの様な情報を流すべきだと思う? あまり荒唐無稽な情報では策に感づかれるぞ? ……ん? 何だこのお茶は! 旨いな!」


 デメトリアはイーナが入れたハーブティーを一口飲みながら言った。小休止としてイーナがお茶を淹れてくれたのである。爽やかなハーブの香りが、緊張した空気を和ませる。


「イーナの研究成果ですよギルドマスター」


「デメトリアと呼んでくれ。歳もそう変わらんくらいに見えるだろう?」


 デメトリアはくくっと笑うと、また一口お茶を飲んで満足そうな顔を浮かべた。


「でめちゃんと呼んでもいいですか?」


 イーナがキラキラとした目で訴えかける。デメトリアは不機嫌そうに頬を膨らませ、拒否した。


「だめだ! でめちゃんは許さん!」


「そ、そんなぁ…」


 イーナががっくりと肩を落とす。レーナやスージーはクスクスと笑いを堪えている。



「ふぅ……話が逸れたな。フィーナよ、君の意見を聞かせてくれるか?」


 フィーナはカップをテーブルに置くと、手をパンと叩いた。


「情報は情報でも、真実を誤認識させるような情報がいいですね」


「例えば?」


 デメトリアが矢継ぎ早に答えを求める。その目からはワクワクとした感情が見える。正直、初めて手品を目にした童女にしか見えないが、そう言うとデメトリアは怒るのだろう。


「強き魔女が力を取り戻し、襲撃者を撃退した。王国とも連携を密にし、さらなる襲撃に備えたい。とか流すといいんじゃないでしょうか」


「真実しか言っておらんようだが……?」


「受け取る側にとっては小さな真実が大きな虚偽になってしまうんです。」


「どういうことだ?」


 デメトリアは分からない、という風に両手を広げて肩を竦めた。


「強き魔女は私達の中では母さんの事を指します。しかしレリエートの魔女達にはそれが祖曽様なのか、全く別の実力を持った魔女なのか判りません。そして力を戻したという一文、祖曽様が若返った、と勘違いする人も多いでしょう。王国との連携を密にし、という部分も、実際には王国へ情報は意味のないものばかりです。しかしレリエートにはそれが有用であるかのように捉えてしまいます」


「そ、そうなのか?」


「憶測の域でしかありませんが、可能性は高いです。 特に火中にいる襲撃者さんは死に物狂いでしょうね。祖曽様が力を取り戻し、王都から手に入る情報は微妙なものばかり………敵さんは頭を抱えるでしょうね」


「フィーナは人の心情を読むのが上手いな……まず始めに流す情報はそれでいい。その後はどうする? 全てフィーナに任せるようで情けないのだが、こういう駆け引きは苦手なのだ」


 デメトリアが俯いて、溜め息を吐いた。


(そりゃあ研究ばかりの研究者さんには向かないよね。 ここは閉鎖的社会で培った、女子の腹黒さを存分に発揮していくよ!)


「そうですね……レンツの村では優秀な魔女達が育ってきている。力ある魔女はレンツの森での活動を精力的に行うようだ。とでも流しましょうか」


「それは真実にはならないのではないか? 私が言うのも何だが、レンツに優秀な魔女は少ないぞ?」


「これから増やせばいいんですよ。魔女一人につき長所一つ。これを伸ばして、デメトリアさんがその長所をどこで使うか把握しとけばいいんです。レンツの森での活動は今まで通りよりも少し警備を増やす程度で構いません。この情報はレリエートの魔女が迂闊にレンツへ手を出せないようにするものです」


「うむぅ……なるほど」


「情報戦では『知っている』側が有利です。レリエートが準備をすすめる間、私達も準備を進めておきましょう」



 フィーナとデメトリアは頷きあった。デイジーは飽きてしまったのか、ベッドに横になって寝息をかいている。イーナはスージーとお茶の話で盛り上がっていた。レーナだけはフィーナとデメトリアの話を真剣に聞いていた。



「レーナも疲れているだろう。ここらへんでお開きにしよう。また意見が欲しくなったら使い魔を飛ばす。その時は助けてくれ」


「使い魔?」


 フィーナがきょとんとした顔で尋ねる。


「何だ? 知らないのか? ならレーナに教えてもらえ。使い魔を持ってないと一人前の魔女になれないぞ」



 デメトリアがそう言うと席を立って、スージーと供に部屋を出た。フィーナはデイジーを起こして、寝ぼけるデイジーを連れて、レーナとイーナと供に家に帰った。



「帰ってきたわね……」


「母さんは休んでて! 美味しいご飯を作るから!」


「ローストチキン!」


「また〜!? でも今日は準備してなかったかまた明日ね」


「ぬぅう〜! チキン〜!」


 デイジーは頭を抱えてうずくまった。どうやらイーナの作るローストチキンはデイジーを虜にしてしまったようだ。レーナはそのやり取りを楽しそうに見ている。目の端には光るものが流れていたのをフィーナは見逃さなかった。


 食事はいつも通りながらも、イーナが腕をふるったようで、深い味わいになっていた。レーナはイーナの料理に感動し、今度から一緒に作るように約束させた。



「母さん、使い魔のこと教えてくれる?」


 フィーナは食後のハーブティーを飲みながら尋ねた。今日はお気に入りのカモミールだ。


「え、ええ、いいわよ。使い魔はね、普段は魔女の影で眠っているの。用事があるときはこうやって―――」


 レーナは少し迷いながらも手の平を蝋燭にかざし、影を作った。その影を指で軽くトントンと叩くと、影が一瞬揺らぎ、中から翼の生えたトカゲのような生き物が飛び出てきた。

 ざらざらとした茶色い皮膚で尻尾の先は赤く染まっている。口からは白い煙を吐き、舌を蛇のようにチロチロと動かしていた。


「わわ! 何? この生き物!」


「我はサラマンダー、主の使い魔である」


「「「喋った!!」」」


 このサラマンダーという生き物は言葉を話すことが出来るらしい。使い魔は基本的に主である魔女の魂を反映して、性格が決定されるという。

 この紳士なトカゲはレーナの魂を反映した結果なのかと、少し考えてしまった。


「使い魔の姿は契約するときに好きなように決められるの。大きくしすぎると魔力を大量に食べないと出てこれないから、みんな基本は小さい使い魔を契約してるわね。使い魔は魂を反映してるから、人前に出すのは少し恥ずかしいのよ」


「そういえば誰も出してなかったもんね」


「使い魔は出してるだけで魔力を消耗するし、出来ることは多くないのよ」


「母さんが使い魔出してるとこ、今まで見たことなかったけど、どうして出さなかったの?」


 フィーナが尋ねると、レーナは恥ずかしそうに俯いた。


「私がサラマンダーと契約した時ね。私はまだ若かったのよ……それで見た目も不人気な爬虫類系を選んじゃってね。名付けも火炎龍のサラマンダーからつけて………もうダメ! 恥ずかしい!」



 レーナはテーブルに顔を突っ伏した。


(なるほど。例の病にかかってしまったのね。現代人でも多くの人がその病にかかってしまい、黒い歴史を量産させてしまう難病………厨二病に!!)


「サラマンダー可愛い!」


 デイジーはサラマンダーを指でつついたり、翼を広げたり閉じたりと弄んだ。サラマンダーは悲鳴をあげながら逃げ回っている。


「娘! 我は偉大なるサラマンダーであるぞ! 無闇やたらに触るでない!」


「ぐぅー! 恥ずかしー! もう戻していいわよね!?」


「待て! 我が主よ、この娘に我と主の凄さを見せつけねばなるまい! 我はサラマンダー! 灼熱の火炎にて敵を燃やしつく……ぐわぁ!」


 レーナは荒い息をあげながらサラマンダーを影に戻した。その戻し方がサラマンダーの尻尾を掴み、叩きつける様だったこと、レーナがかなり憔悴した表情をしていることから、そうとう深い傷を心に負ってしまったのだろう。

 もしかすると、サラマンダーは今後レーナの影から出てこられないのかもしれない。


 フィーナはレーナの肩にポンと手を起き、何度か頷いた。レーナは自分の娘に恥ずかしい過去を見られたような気がして、テーブルに突っ伏して悶えた。



 イーナがリラックス効果のあるハーブティーを淹れ、ようやくレーナが落ち着きを取り戻した。


「まあ………このように使い魔を決めるときはよく考えたほうがいいの。契約自体は簡単だからすぐ出来るわ」


 レーナは疲れた顔で言った。フィーナ達はどんな使い魔にするか話し合ったが、三人とも割りとすぐに決まった。



「母さん! 明日使い魔の契約したい!」


「早いわね。もっとよく考えたほうが良くないかしら?」


 レーナは自分の二の舞いになるかと心配したが、フィーナ達は爬虫類じゃないから大丈夫と言った。レーナは少し落ち込んだ後、了承した。



 


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