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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
家庭教師と製薬編
176/221

171『手紙を運ぶ者』

 フィーナの指差す方向、鳥籠に向かって皆の視線が動く。

 デメトリアはフィーナに視線を戻すと首を傾げた。


「ウチの魔鳥でどう稼ぐつもりだ?」


「売ります」


「な………! 駄目だ! チュティは売らせないぞ!」


「いやいや、流石に人の魔鳥を売ったりしませんよ」


 フィーナは心外な、とばかりに手を振った。

 デメトリアは尚も疑わしげな目をフィーナに向け、「むむむ」と唸った。



「私が言いたかったのは、調教した魔鳥を販売する、ということです」


 もしかすると、魔鳥は国内の魔女に売れるのではないか、とフィーナは以前から考えていた。

 調教次第で言うことも聞くし、何より手紙や小包を配達する知能を有しているので、何かと便利なのだ。フィーナはそれ程扱ったことはないが、マリーナはエロ鳥を使いこなしていて、薬草園で育てた薬草をレーナの元へ届けさせている。

 レーナの元へと薬草を届けたエロ鳥は、今度はマリーナの元へ帰り、レーナから代わりに持たされた在庫補充要請の手紙をマリーナへと届ける。そして、マリーナは要請に応じて新たな薬草を送るのだ。

 こういった扱い方は何も村の身内だけではなくて、隣町にも『手軽な情報伝達手段』として普及し始めている。最近では王都でも見られるようになった程だ。



「魔鳥は魔力を持つ魔女にしか従わない点、レンツやトットの界隈にしか生息していない点。この二点によって独占販売も可能なんです」


「ふむ。だが、トット村でも同じことをされるのではないか?」


「そうですね。ですが、問題ありません。理由はレンツ周辺に生息する魔鳥と、トット周辺に生息する魔鳥は種類が違うからです。どちらかというと、レンツ周辺の魔鳥は大型で、遠距離を飛行することに長けています。逆にトット周辺の魔鳥は小型で、高速での飛行に長けています。荷運びさせるならどちらが向いているか、わかりますよね」


 ここまで魔鳥を分析できたのはノンノ達の研究のおかげだ。

 実はと言うとようやく、通常の鳥類が魔鳥となる原因が特定できたのだ。

 ココの木というメルクオール国内でも東部にしか植生していない木の実が原因だった。背の高い木で、種だけを地面に落とすという特徴から、普通の動物がこの実を食べることができず、鳥類のみが変化したというわけだ。

 

 現在はココの木を伐採、もしくは管理できる地へ移植する作業を進めている。


「原因となる植物もわかったので、人工的に鳥類を魔鳥に変化させることも可能になりました。鳥の種類によっては、配達だけではなくて、いろんな運用ができると思います。将来的には各地に支部を作って、一般の人も手紙を出せるようにしたいですね」


 目指すは異世界で郵便局の開設である。識字率の向上に沿って、新聞を販売するのもいいかもしれない。

 人員をどうするのか、住所も曖昧なこの世界で配達などできるのかといった問題があるので、長い時間と労力がかかるだろう。おそらく、数十年の時を要するだろう。

 だが、人件費は限りなくゼロで、空を移動するため、盗まれる心配も少ない配達は、きっととんでもない富を恒常的に生み出すはずだ。その分魔鳥をこき使うことになるが。


 村から街へ、街から王都へと魔鳥が飛び交う様はメルクオールの風物詩となるだろう。

 フィーナは将来のことを想像して、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべた。


「そ、そこまでいくと最早、大規模な商会でないと無理だな」


 デメトリアは渋い顔を作り、難しいと述べた。


「今はまだ魔女のペットとして販売するだけでいいです」


「ペットか……。確かに私のチュティもペットみたいなものだな……。それで? いくらで売りつけるつもりなのだ?」


「うーん……まだ値段は決めてないんですよね。どれくらい手間がかかるかわかりませんし、魔鳥にも個性が出ると思うので、簡単には値段を付けられないんですよ」


「それもそうか。とりあえず試験的に何羽か調教してみたらどうだ?」


「そうですね。新しい研究所の建設と並行してやってみます」


「ちゃんと国に報告しておくように。あと領主にもな」


「はーい。……なんか、だめちゃんがマスターっぽいことしてる」


「だめちゃん言うな!」


 


 数日後、領主と国宛に出した手紙が帰ってきた。

 エロ鳥を使うのは気がひけたが、大きな事業となりそうなので承認を得なければならない、とデメトリアから言われたのだ。


 領主からは「いいよ。手伝って欲しいことがあったらなんでも言ってね」という返答をもらった。

 その後に魔鳥を褒め称える文章が末尾まで書かれており、「早く売りに出して」というお願いで締めくくられていた。どうやら領主は魔鳥がお気に召したらしい。

 

 国からの手紙はてっきり国王が書いていると思ったが、意外なことにエリオからの手紙だった。

 手紙によると、ゴブリン討伐作戦が始まったので、国王は留守とのこと。代わりにフィーナ達とも親交の深いエリオに、お鉢が回ってきたというわけだ。

 

 国王が留守だからといって用件を保留する、ということにはならなくて、エリオは国王の側近たちと話し合った結果、了承の印を押させたようだ。

 

 頑張っているなあとフィーナはしみじみと感じながら手紙の二枚目に移ると、二枚目からはガルディアの治安改善についての回答を求める手紙だった。

 

「私は赤ペン先生じゃないんだけど……」


 と言いつつも、いくつか訂正してあげるフィーナであった。




 二週間後、ノンノの力を借りて魔鳥の量産を始め、実際に各魔女村へと売り始めた。


 レンツから近い魔女村には陸船で、遠い魔女村には改良型のリシアンサスを用いて売り出した。

 輸送に関してはほとんど手間いらずと言ってよかった。何しろ商品である魔鳥が指示一つで自ら飛んでくれるのだ。大型の馬車を何台も使わないのはかなりありがたい。

 

 売りに出すと同時に値段も決めた。

 魔女に忠実で、性能の高い魔鳥は最高ランクである特一級とされ、金貨三十枚からと高額な値段となった。次に一級、二級と格が落ちると、同時に値段も下がっていくようになっている。

 どのランクにも属せない、いわゆる【格落ち】の魔鳥はほとんど使役できないため、現在は飼育小屋の野鳥と化している。いづれは何かに利用できるかもしれないので、そのままにしている。


 気になる売れ行きはというと、最初は魔物に近い見た目から不安があったので好調な売れ行きとはいかなかったが、一週間後には予約が入るくらいハイペースで売れていった。


 商会も立ち上げた。名前は【フェーレス商会】。取締役はフィーナで、矢面に立つ代表はノンノである。本人は涙目になって嫌がっていたが、実務の面は一般人を雇っているので実質、名前だけ貸している状態だ。

 ただノンノの伝手で、今後トット村から魔鳥を仕入れることもあるかもしれないので、いざという時のために代表にしておいたのだ。

 経営に関してはキャスリーンの知り合いに頼んだ。キャスリーンが任せるだけあって、かなり優秀な魔女だった。魔道具分野の先輩にあたる人らしい。


 

 そんなわけで魔鳥の販売は順調だ。

 一人で何羽も魔鳥を買っていく魔女もいるので、需要が落ち着くのもまだまだ先になるだろう。

 空を見上げれば、魔鳥が飛んでいるところを見られるのも既に珍しくない。今もこちらに向かって飛んでくる魔鳥がいるくらいだ。



「フィーナにお手紙来てるよー」


 イーナが窓を開けると、魔鳥が窓枠へと降り立つ。魔女の印のついた布を巻かれた、紛れもない正式な魔鳥だ。


 手紙を受け取り、開いてみると綺麗な字が文面を飾っていた。

 差出人はハングである。顔に似合わず綺麗な字を書くようだ。


 手紙によると、インフルエンザ様の症状に悩まされていた村がようやく沈静化したらしい。

 フィーナ達が訪れてから既に一ヶ月は経っている。簡単には終息できなかったようだ。

 ハングによると、あれから数人の死者も出たらしい。

 やはり、従来のものではない新しい薬が必要となりそうだ。


 そのためにも施設の建設を急がなくては。



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