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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
141/221

138『惨事』

注意!グロテスクな表現があります

 

「よいか? 風魔法に指向性をもたせることによって―――」


 フィーナの秘密の告白の後、三人は昼食をとり、再びヴィオに教えを請うていた。

 八百年研鑽を積んできた魔女王と呼ばれるだけあって、ヴィオの魔法の扱い方は学べるところが多く、フィーナ達はめきめきと実力を伸ばした。


 特にフィーナは眠っていた特殊魔法を自覚したことで、魔法の発現、操作をより円滑に行えるようになっていた。工程が複雑な魔法でも、数秒で発現し、誤差もほとんど無く操作できるというのは、自分でも驚いた。

 ただ、【集中力強化】の特殊魔法を長時間使うと、酷く疲れるというのは厄介だった。魔法を使う度に難しい数学の問題を解いているようで、発動したあとは糖分が欲しくてたまらなくなるのだ。


 そのことをヴィオに相談すると、「飴玉でもくわえておれ」とそっけなく言われた。隣でデイジーから「ズルいズルい!」と言われながら、常日頃から飴玉を舐めるということが習慣化した。


 ちなみにデイジーはヴィオから「お主は飴玉ではなく、干し肉をかじっておれ」と言われたことで、フィーナに対していじけることがなくなった。お陰で、デイジーのサイドバックには大量の干し肉が詰められることになったが。

 イーナが「食べすぎると、ご飯食べられなくなるよ」と注意しても、デイジーは干し肉をかじることを止めなかった。デイジー曰く、「肉は別腹」らしい。

 フィーナも甘い物は別腹となっているので、デイジーに強くは言えなかった。それに、肉をかじっているときのデイジーは、非常に多幸感に満ち溢れた顔をしており、取り上げると鬼のように怒るのだ。

 そんな訳で、デイジーのサイドバックにはなるべく触らないという暗黙の了解が追加された。


 それでも、一日五枚までという制限をつけられたのは、イーナの力があってこそだろう。


 

 美味しいご飯とふかふかなベッドという豪華な教育機関を満喫していたフィーナ達だったが、ヴィオの指導を受け始めてから三日目に事は動き出した。

 

「土魔法との相互関係により……むっ」


「どうかしましたか?」


「すぐに出立の準備をするのじゃ。レンツにレリエートが向かっておるぞ」


「「「!!!」」」


 ヴィオの【魔眼】には【千里眼】という遠くを見通せるものがある。

 ヴィオは定期的に各国の紛争地域や内乱地域、危険地帯などを【千里眼】で観察していた。ヴィオが国同士の争いに参加することはないが、凶暴な魔物が出現したり、悪魔召喚が行われたりすると赴くことになる。

 現に、ヴィオが王都へと現れたのはガルディアで悪魔召喚が行われた為である。ヴィオが向かう前にフィーナ達が倒してしまったため、赴かなくても良かったのだが、ベヒーモスを倒したフィーナ達が気になって、会うために王都へと足を運んだのだ。


「今レンツには母さんもいません。各分野長だって、スージーさんしか……」


「落ち着かんか。ここからレンツまではそう遠くない。お主たちが行けばよかろう」


「ヴィオさんは来てくれませんよね……?」


「妾は人同士の争いに加わることはできん。じゃが、いつもお主たちを見守っておる。安心せい。お主たちは筋がいい。短い間じゃったが、教えられる事は教えたつもりじゃ」


 そう言ってヴィオは微笑んだ。フィーナ達が口を一文字に結んで頷くと、ヴィオは手を軽快に二度叩いた。


「お呼びでしょうか?」


「フィーナ達をレンツに送ってくりゃれ」


「かしこまりました」


 ヴィオの側に現れたのはテッサだった。テッサはフィーナよりも使い勝手のいい転移魔法が使えるらしく、自分だけでなく他人まで目的とした場所に送れるらしい。


「妾はここで待っておるからの。よいか、心を強く持て。力の使い方を間違えるでないぞ」


 神妙な面持ちで語りかけるヴィオに見送られつつ、フィーナ達はレンツへと転移した。



 

 転移してきて、ここはどの辺りか見回すと、屋外の演習場だと判明した。ここからレンツへは歩いて数分の距離なはずだ。

 しかし、どうも様子がおかしい。

 演習場は開けた空き地になっているのだが、周りは鬱蒼と木々が覆い茂っている。いつもなら鳥のさえずりや虫の鳴き声がちらほらと聞こえてくるはずなのだが、今はそれが一切ない。


 一抹の不安を抱え、村へと向かう。

 村に近づくにつれて、フィーナ達の焦りは大きくなった。


 行く先から悲鳴や破壊音が聞こえてくるのだ。

 空に火の粉が舞っていることから、家屋に火を放たれたとみられる。二回に渡る襲撃では、ほとんど被害が出なかったので、初めての出来事にフィーナは面食らった。


「なに…これ」


 村に付随する宿場町はひどい有様だった。

 何人もの人達が地面に倒れており、家屋や商店は豪炎を上げて崩れ落ちていた。

 村の魔女達とともに作り上げた宿屋も、兵士達が留まる兵舎も、舗装された道も、全て打ち壊されていた。瓦礫の間からピクリとも動かない手足が散見され、強襲されて生き埋めになったのだろうと推測できた。あまりの惨たらしさに、フィーナは思わず目を背けた。

 中央の広場へと続く幅広い道には、多くの人々が苦悶の表情を浮かべて息絶えていた。目立った外傷はないにも関わらず、皆、泡を吹き、白目を剥いて事切れている。

 一方、兵士達は見るも無残な姿で屍を晒していた。弄ぶかのように四肢を潰され、兵士達の表情は絶望に彩られていた。

 フィーナはこみ上げてきた胃の内容物を吐き出したが、一向に気分は良くならなかった。

 イーナも先程から(むくろ)に対して再生魔法を涙ながらに使い続けている。いくら再生魔法といっても、死者に対しては効果はない。

 一方、デイジーは生存者を探していた。焼け落ちそうな家屋に身一つで突入し、何人もの焼け焦げた死体を担いできては突入し、を繰り返していた。


(魔女の姿がない……)


 嘔吐を繰り返し、胃液を吐き出していたフィーナは、ふと思い至った。

 デメトリアから、村の魔女は宿場町へも足を伸ばしていると聞いていたフィーナは、魔女の死体すら見当たらないことに疑問を持った。


「姉さん、デイジー、村へ行こう。村でまだ戦っているかもしれない」


 浅い願望だったが、小さな望みにかけるしかなかった。

 

 中央の広場を抜けて、レンツの村の入り口へと向かう。

 途中、たくさんの死体が視界に入ったが、フィーナ達は足を止めずに走った。


 村へ入ると、フィーナの記憶にあったレンツは目の前で煌々と赤く燃えていた。


 


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