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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
魔女と襲撃者編
14/221

14『イーナの手料理』

 

「よーし、清掃用の洗剤原液は完成したよー」


「お疲れフィーナ。あとどれくらい残ってる?」


「半分くらいかな? あと一週間もあれば終わるね」


「問題は―――」



 イーナはそう言ってデイジーの方を見る。デイジーは字が余り読めないため、専門用語が並ぶ資料は難しく、時間がかかっていた。

 イーナは先輩として一年勉強していたので文字の読み書きは出来たが、薬の調合は出来なかった。やっているのはほとんどフィーナだけである。

 フィーナは不思議と読み書きが出来た。転生のためか、フィーナとしての能力か、よく分からなかったが、文字に悩まされることなく仕事に励めたのは有り難かった。イーナはいつの間に勉強したのかと、しつこく聞いてきたが、イーナに追いつきたくて、こっそり勉強したと言ったら、照れくさそうに笑った。



「中に……を二粒入れ……よう……むむ〜、読めない〜〜!」


 デイジーは頭を抱えて涙目になっていた。


「私が指示を出すから、デイジーはそれに従って動いてね」


「うぅ〜、お願い〜」



 デイジーに渡した魔物素材は、よく洗って削るだけだったり、砕いて粉にしたり、湯がいて抽出するだけといったものが多かったので、不器用なデイジーにも難なく出来た。工程が面倒なものは手分けして、時間短縮した。


 イーナはその間に料理に使うハーブの研究を進めるため、フィーナの家のキッチンで料理をしていた。最近は成功例も多くなってきたが、最初は失敗ばかりで、異臭のするスープや風味の無くなった肉などを食べさせられた。あれは拷問だった。

 デイジーなんかは泣きながら食べていた。フィーナはイーナ自身が食べているのに、何故自分たちまで食べないといけないのか、と講義したが、イーナ曰く、「人の意見を得てこそ美味しいものが作れるんだよ」と得意げに笑っていた。



「今日は自信作だよ! 食べてみて!」


 イーナは布巾で手を拭きながら、二人を呼んだ。食卓からは異臭はしない。今日は成功のようだ。いや、まだ油断は出来ない。前もそれで油断して、一日中腹痛に悩まされたのだから。

 フィーナとデイジーはほっと胸を撫で下ろしつつも、警戒度を最高にまで上げて、手を洗い、席についた。


「まずはスープね。乾燥させたローリエを入れたカボチャのポタージュよ。パセリも散らしてあるよ」


 ローリエは日本で言う月桂樹(ゲッケイジュ)だ。月桂樹の葉は胃酸の分泌を助ける効果があるので、料理の最初に持ってくるのは正解だろう。カボチャの甘みが口の中に広がり、とろける様な舌触りに感嘆する。イーナの料理は着実に進化しているようだ。

 スープだけでこの満足感。今日のイーナは一味違うみたいだ。


「次は前菜のサラダよね。フィーナに教えてもらった、どれっしんぐ?を今日も使ってみたよ」


 フィーナはイーナにドレッシングの開発を求めていた。採集場所で紫蘇のような薬草を見つけたからだ。日本の紫蘇より色が濃く、真紫色の毒々しい見た目をしていたが、資料によると日本の紫蘇とそう変わらないことが判っていた。

 イーナは最初はその匂いに顔を顰めていたが、試しに乾燥させ、お茶にして出したところ、どハマりしてしまい、より研究熱心になってしまった。

 イーナの努力によって完成した特製ドレッシングは、紫蘇の風味で香りも楽しめつつ、モリモリ野菜を食べられた。野菜嫌いなデイジーでさえ、お代わりを要求するほどだ。アーニーおばさんが知ったら大喜びするだろう。



「この紫蘇の香りで唾液がジュワってなるんだよね〜」


 デイジーは頬を両手で押さえ、ニコニコと顔を綻ばせた。その姿がとても可愛らしく、フィーナは思わず見入ってしまった。


「はぁ…………眼福」


 イーナもデイジーの愛らしさにやられてしまったようだ。フィーナと同じように、いやそれ以上に見入っている。



「……ゴホン! 姉さん、メインがまだだよ!」


「そ、そうだね! すぐに持ってくるから!」



 フィーナが軽く咳払いをしたのと同時に、イーナは跳び上がり、キッチンへ駆けていった。



「メインはこれ、鶏のローストだよ。マジョラムを使ってみたよ」


 イーナが大皿に載ったローストチキンを持ってくると、デイジーはガタリと椅子を押し下げ立ち上がった。デイジーのキラキラした視線の先には、香ばしい色に焼き上げられたローストチキンあった。ガーリックとマジョラムのハーブソルトを使用しているらしく、食欲をそそる香りが鼻腔を貫く。


「昨日サナさんが薬のお礼にくれたんだ。美味しく料理できて良かったよ」



 サナに『鋭角薬』をあげたところ、非常に喜んでくれた。野外で使用することも考慮して、丸薬として渡したが、粉状だと飲みにくい『鋭角薬』も、丸薬だと飲みやすいと狩人仲間がこぞって欲しがったらしい。

 追加で『鋭角薬』の丸薬を渡すと、お礼として色々な物をくれた。この鶏もそのお礼の一つだそうだ。



「イーナ天才だよ〜。むぐむぐ」


「ほんっと、姉さんは最高〜。はむはむ」


 フィーナとデイジーはイーナを最高に褒め称えながら料理に舌鼓を打った。イーナは誇らしそうに胸を張って、二人の食事が終わるのを待った。



「最後にハーブティーはいかが? ミント、蜂蜜を使ってみたよ。こっちはレモングラスに蜂蜜を入れたものだよ」


 イーナがコトリとティーカップを置く、爽やかな香りに食後の満足感がさらに身体を満たしていく。


「デイジーはレモングラスが好き、昨日のカモミールも良かったけど、こっちのほうが好き」


「私はカモミールが一番かな? リンゴみたいな香りで美味しいんだよね。ミントティーはさっぱりとしてて、肉料理の後には最適だね」


 イーナは二人の感想をメモしながら、うんうんと頷いている。


「明日ももっと美味しくなるように頑張るから、実験に付き合ってね?」


 (姉さんの中では実験なのか……美味しい物が食べられるなら喜んで付き合うけど、これじゃ太りそうだよ)


 フィーナは前世のダイエットに苦しんだ頃を思い出しながら、ふっと息を吐いて笑った。


 



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