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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
136/221

133『ヴィオちゃんの魔法講座・前編』

説明回です

 

「くくっ……な、なるほどの、それでレンツのアルテミシアか」


 ヴィオは大笑いして、息も絶え絶えといった様子で、胸に手を当てて深呼吸した。


 フィーナはイーナとデイジーを混じえながら、これまで体験してきた事をできるだけ明るく話した。

 フィーナ達が治癒、再生、怪力と、偶然にもアルテミシアと同じ特殊魔法を持つと知ったヴィオは、心底驚いたようで、「レンツのアルテミシア」と呼ばれた事にも大笑いで答えた。あまりにも大笑いするので、フィーナは照れくさくて頬を膨らませた。


「いや、すまんの。あまりにも言い得て妙じゃと思ったのじゃ。不思議なものじゃ。アルテミシアが重宝した特殊魔法も治癒、再生、怪力じゃったらしいからの」


「そうなんですか?」


「うむ。その三つの特殊魔法はアルテミシアが最初に会得した魔法なのじゃ。故に、思い入れも強いということじゃな」


 デイジーは自分の使える身体強化の魔法を、アルテミシアが重宝していたと聞き、ガッツポーズをキメていた。

 ガッツポーズをキメたはいいが、デイジーのお腹からは可愛らしい腹の虫が聞こえてきた。

 

「くくっ……話し込んでしまったの。夕食にするとしよう。……テッサはまだお勉強をさせておるのじゃろうか」


 ヴィオが呆れ混じりに嘆息すると、それに呼応するようにバンと勢い良く部屋の扉が開いた。すると同時に、ポリンとローリィが雪崩込むように床に倒れた。


「もうやめてください!」


「お腹減ったよ〜」


「まだ五代目の途中ですよ! さあ、魔女王の奥深い歴史を学びましょう!」


「「いや〜!」」


 テッサはポリンとローリィの襟首を掴み、引き戻そうと引っ張っている。ポリンとローリィは涙目で首を振り、ヴィオに助けを求めた。


「テッサ、その辺にしやれ。夕食もまだであろう。客人に歓待もせんとあっては魔女王の名が廃るからのう」


「そうですね! とびっきり豪華な食事を用意しましょう!」


 テッサはポリンとローリィの襟首を掴んだ手を離し、駆け足で部屋を出ていった。ポリンとローリィは開放された安堵感からべしゃりと床に這いつくばり、ふぇ〜、と気の抜けたため息を吐いた。

 ヴィオは長年テッサと共に過ごしているだけあって、テッサの扱い方を熟知しているようだ。

 


 次の日、フィーナ達は朝早くから大広間に呼び出された。呼んだのは勿論ヴィオである。

 どうやら、今日から本格的な知識の享受、もとい、指導が始まるようだ。アルテミシアの名を継ぐヴィオに指導を受けられると知ったデイジーは、朝から溌剌としていた。


「ゴホン……えー、魔女王の知識と言っても、幅広く、短い期間では到底伝えきることは出来ん。そこで、まずお主たちの得意な魔法を聞いておこうかと思う。フィーナ、お主の得意な魔法はなんじゃ?」


 フィーナは「うーん」と唸った。

 フィーナにとって、特に魔法において苦手意識はない。悪く言えば器用貧乏である。特殊魔法においても、現状に満足しているし、際立って扱いが上手いという訳でもない。

 フィーナが悩んでいると、ヴィオは「よく使う魔法でもいいぞ」と助け舟を出した。


「得意かどうかはわかりませんけど、よく使うのは土魔法だと思います」


「ふむ、なるほどの。イーナはどうじゃ?」


「私は風魔法でしょうか」


「そうかそうか。デイジーは?」


「デイジーは雷魔法! 水魔法とか土魔法は苦手かも……です!」


「あい解った」


 ヴィオはうんうんとしきりに頷いた。今ので何か分かったのだろうか。

 イーナとデイジーの得意な魔法は、フィーナでもなんとなく予想ができた。しかし、得意不得意がわかっただけで、特に深い意味は感じられなかった。


「そうじゃのう。一つ目の知識を授けるとするかの。知識というより理論じゃな。理解できなければ己が力には出来んじゃろう」


 ヴィオはすたすたとフィーナ達の前を行ったり来たりし始め、その振り子のような動きに、フィーナ達の目線も振り子のように動いた。


「魔法には火や水といった属性があり、その組み合わせによって、より強い魔法や複雑な魔法の行使を可能としておる。ここまではよいな?」


 こくりと三人揃って頷く。

 複合魔法は本来ならば詠唱によって魔法を組み合わせて発動させるのだが、フィーナ達はその点を事象として捉えることでイメージ化し、即発性と効率化を図っている。

 これは決して難しい事ではなく、一つの魔法を使い続ければ、誰でも到達できる境地である。

 だが、フィーナ達は魔法の組み合わせに非特異性を持たせることで、通常より数倍の早さで複合魔法を無詠唱化できた。通常の魔女ならば無詠唱化する為に、ジグソ

ーパズルを何度も繰り返して完成させるような方法に対し、フィーナ達は積み木を積み重ねるだけでいいという感じである。

 前世の知識によるものなので、少々狡いとは思うのだが、フィーナとしては、長くて仰々しい呪文を唱えることに、ちょっとばかし憧れていたので残念に思ったこともあった。

 

 昨日の話の時点で、フィーナ達はこういった複合魔法が使えると話していた。

 どうやら、今日はその先を教えてくれるようで、少しばかり緊張してきたフィーナである。



「魔法には大きく分けて二種類の扱い方がある。……操作と変換じゃな。操作とは水流の操作、風向の操作、土塊の操作など、物に動きを持たせるものじゃ。変換とは、魔力をエネルギーへと変え、炎、雷などといった高エネルギーの魔法を発生させる事じゃ」


 内容について行くのが必死なフィーナは、メモを取りたくて手をわきわきとさせた。しかし、ヴィオは途中で説明を止めることはなかった。



「魔女にとっての得手不得手は操作と変換、どちらに比重を置いているかで変わってくる。例を示すならば、イーナは操作に比重を置き、魔法をコントロールすることに長けているとみえる。これを妾は【操作型】と呼んでおる。逆にデイジーは威力重視の【変換型】というわけじゃ。フィーナのように苦手意識が無い者は【万能型】と呼んでおる。」


「操作には必要な魔力が少ないが継続的に消費するという特徴がある。変換は発生させるときだけ多くの魔力が必要じゃが、一瞬であるが故に、操作も変換も魔力の消費という点においては然程変わりはない。じゃが、【操作型】が変換を行うにはどうしても損失が生じるのじゃ。それに―――」


「イムに魔法は環境因子に影響されると聞いたじゃろ? 環境因子とは、その場での気温、湿度、風向き、風量、地形、降水量、日照時間、土壌の柔らかさといったもののことじゃ。気温が高ければ氷魔法で使用される魔力は多くなり、火魔法に使用される魔力は少なくなる。つまり、環境、その時々によって、魔力消費が変わっておるのじゃな」


 さらにヴィオはイムに聞いた【陣地争奪戦】を例に出し、あの時、イーナの消耗が早かったのは環境にそぐわない魔法を連発したからだと説明した。


「確かにあの時、空気は乾燥していて、気温も高めでした……水魔法や氷魔法は避けたほうが良かったということですか?」


「左様。さらに言えば、不得意な【変換型】の魔法は使うべきではなかったのう。徹底的に風魔法と土魔法で対抗するべきじゃったと、妾は思ったのう」

 

 イーナは顎に手を当て、納得したかのように頷いた。



「どうじゃ? わかったかの?」


「むむむ難しい〜」


 デイジーにとっては少し難しいようだ。


「難しく考えることはないぞ。簡単に言えば、環境によって使う魔法を厳選せいってことじゃ。砂漠地帯で水魔法を使うのは酷く魔力を使うってことは、なんとなくわかるじゃろ?」


「それならわかるかも!」


「要するに、苦手な魔法はなるべく使わず、環境に適した魔法を使えばいいんですね」


「そういうことじゃ。フィーナ、お主は【万能型】じゃから環境因子にだけ注意すれば良いぞ。割と珍しいからの。胸を張って良いぞ」


「あ、ありがとうございます。ヴィオさんも【万能型】なんですか? 魔女王ですし」


 ヴィオはニヤリと口の端を吊り上げ、腰に手を当てて胸を張った。


「妾を誰じゃと思っとる。【超越型】に決まっておろうが!」


 フィーナ達の目が点になったのは言うまでもない。



後編に続く

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