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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
132/221

130『隠れ家という名の豪邸』

 

 イーナ達はドナに指示された場所へと辿り着いていた。ドナは隠れ家だと言っていたが、イーナの目にはそう見えなかった。

 整備された区画にポツポツと庭付きの邸宅が建っており、どこも見劣りすることもなく整っていた。

 イーナはどことなく王都の貴族街に似ているな、と感じていた。

 高そうなお屋敷が並ぶ内の一軒が、ドナに指示された隠れ家である。


「ドナさーん」


 イーナが玄関で呼ぶと、少ししてから扉が開いた。

 ドナはいつものように無表情で、厳格な顔つきだが、招き入れる仕草は手厚い歓迎に見える。


「ドナさんってお金持ちなんですね」


 屋敷の廊下を歩く間、イーナがドナに質問する。


「昔買った家」


 ドナは表情を変えず、ポツリとだけ言い放った。

 ドナのことは嫌いではないが、このように会話が続かないので、苦手ではある。何を考えているのか、怒っているのか楽しんでいるのか、これ以上聞いて欲しくないのか、欲しいのかわからないのだ。イーナはドナと親しげに話せるフィーナをいつも神妙に見ていた。

 フィーナはドナのそっけない言葉にも動じず、次々と質問を浴びせていた。フィーナと話すときだけは、ドナもぎこち無い笑顔を見せ、頭を撫でるなどのスキンシップもとる。その光景を初めて見た人は、目を見開いて驚きの言葉を口にしていた。


「どな〜」


 アメラがドナにとてとてと近づき、抱きつく。召喚主の一人であるドナは、アメラにとっては特別な存在である。その証拠にアメラはいつも以上に屈託のない笑顔を浮かべている。

 イーナは驚いた。ドナがとろけんばかりの柔和な顔をしていたからだ。こんな顔は今まで見たことがない。いつも無表情で無愛想なドナが甘々の菓子のような顔で、アメラを慈しんでいる。


「おはようございます、アメラ」


「おはよ」


「もう挨拶を覚えたんですね。偉いですよ」


「えへへ〜」


 イーナはさらに驚いた。柔和で優しげな顔にも驚いたのだが、その上、流暢に話し始めたからだ。

 イーナとデイジーはドナのあまりの変貌っぷりに、ぽかんと口を開けて呆けた。


 イーナ達の呆け顔に気づいたのか、ドナは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 デイジーは「珍しいものを見た」と言わんばかりに含んだ笑いを見せた。


 

 ドナは昔買ったと言っていたが、中は予想以上に綺麗だった。だが豪華絢爛という訳ではなく、置かれている家具はどれも時代遅れに感じるようなものばかりだった。それでも綺麗だと思わせる要因は、その家具たちが使い込まれていないためだろう。家具は新品同然で、まるで昔の家に入り込んでしまったかと錯覚するようだ。ドナはこの家をほとんど使うことがなかったらしい。


「こ、これは!」


 キッチンに入ったイーナが食器棚を前に驚愕の声を上げる。

 食器棚には高そうな食器が並んでいた。その中でイーナの目を最も引いた物は白磁のティーカップだった。


「ド、ド、ドナさん、これは……」


「東方由来の一品」


「やっぱり……これでお茶を飲むなんて……出来ませんよね?」


「構わない」


「!!!」


 イーナは鼻息荒く食器棚から白磁の一品を取り出し、いそいそとお茶の用意を始めた。茶葉にうるさいイーナである。当然、ティーセットやお茶受け等にも人並み以上に思い入れが強い。


「茶葉もいいのが置いてありますね。あ、台所使いますね」


 イーナがお茶の用意をする間、デイジーはアメラと屋敷の中を探検している。

 ドナは前日のうちに必要な物を買い揃えていたようで、不備は無かった。アメラを迎える為に、祭りを堪能できなかったのは忍びなく思うが、ここで過ごすアメラを、イーナは少しだけ羨ましく思った。

 東方由来の品はレイマン王国を経由して入ってくるため、今のような情勢では手がはいりにくい。数十年前は今ほど仲が悪いわけではなかったらしく、この一品もその時に購入したのだそうだ。


「お茶が入りましたよー」


 イーナの声を聞き、デイジーとアメラがバタバタと駆けつける。


「デイジー、アメラ、絶対割っちゃ駄目だからね」


 イーナの猛烈な凄みに、二人はこくこくと頷き、震える手で白磁のティーカップを手に取った。


「あちち」


「!!!」


 デイジーが熱さから少し乱雑にティーカップをテーブルに置く。それを見たイーナは目を吊り上げた。


「デイジー?」

 

「だ、だって〜取っ手が無いんだもん。熱くて持てないよ〜」


 白磁のティーカップには持ち手がなかった。いわゆる湯呑みである。慣れていないデイジーにとっては不便だったのだろう。


「アメラは普通に持ててるけど?」


 アメラは人化しても皮膚の強度は高いようで、苦もなくティーカップを手に持っている。熱がるどころか暖かそうに頬に当てるほどである。

 イーナに話を振られて、アメラはきょとんと小首を傾げた。


「……いつものティーカップで飲んでも変わんないよ」


 デイジーはボソリと不満を口にした。デイジーの言うことは最もなのだが、イーナの前でそれを言ったのは不味かった。

 この後、アメラの腹の虫に邪魔されるまで、イーナの説教は続いた。説教後のデイジーは、盲目的に「白磁……いいね!」と口にしていたとか。

 

 




残念ながら次回は閑話なのです。

ドナの話になります。

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