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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
127/221

126『思わぬ出会い』

 

 魔女王との出会いから一夜明け、まだ日が昇る前にフィーナ達は目を覚ました。

 祭りの熱はすっかりと冷めきり、王都はこれから帰路につく国民で溢れかえるだろう。

 今日は、イーナとデイジーはアメラを連れ、ドナが用意した居場所へと向かうことになっている。三人とも眠そうではあるが、ミスは許されないため、程よく緊張しているようだ。


「じゃあ行ってくるね」


「知り合いに会うことはないと思うけど、もしあった時は打ち合わせ通りにね」


「わかってる。フィーナも外に出ないでよ」


 フィーナは重々しく頷き、成功を祈った。




 ――――――足早に寮を抜け出し、馬車乗り場へ向かう。まだほの暗い街並みの中を、イーナ達は息を潜めるようにして進んだ。


 馬車乗り場では、祭りの余韻から抜け切らない御者が、眠い目をこすりながら客を待っていた。


「三人乗ります」


「朝から大変だねぇ……すぐに出すから乗りな」


 イーナは御者のおじさんに三人の身分証を見せ、機関の所属であることを告げる。機関に所属していれば、馬車や陸船の乗車賃が無料になる。無論、アメラの身分証はフィーナの物を用いている。


「魔女も忙しいんだねぇ。昨日の今日でもうお仕事なんて……」


 御者は特に怪しむことも無く、淡々と出発の準備をしている。

 イーナは内心胸を撫で下ろしていた。事前の話し合いでは、馬車に乗るときが一番の懸念だったのだ。

 魔術大会で活躍したフィーナはかなり知名度を広げた。表彰式の壇上にも上がっており、顔の売れ方はイーナやデイジーの比でない。

 アメラはまだ言葉を満足に話せないため、もし御者がフィーナの顔を知っていて、話し込むようなことになれば、ボロが出るのは必然だった。

 そうならずに済んで、イーナは心の底から安堵したのである。


 馬車はイーナ達以外に誰も乗ることなく出発した。今のところは順調だが、目的地に辿り着くまでは安心できない。

 街の風景が珍しいのか、アメラは落ち着きなく辺りを見回していた。御者に聞こえないようにイーナが小声で注意するが、効果はない。あまりの重圧に胃が痛くなりそうだ。


「すいませーん! 乗せてもらってもいいですかー?」


 女性の声に馬車が止まる。

 王都の馬車は基本的に乗り場でしか乗り降りできない仕様だったが、人の少ないこの時間帯では、御者の判断で客を乗せる事があった。それをイーナは知らなかった。思わず苦い顔を作り、心の中で「乗せないで」と懇願する。

 しかし、イーナの思いは届かず、御者は快諾と共に女性を乗せた。

 乗り込んできた客は二人いた。二人共女性で、間の悪いことに魔女であった。イーナが思わず渋面を作ったのは言うまでもない。


「げっ……レンツ……」


 二人の女性客はイーナよりさらにきつい渋面を作った。

 酷く嫌そうな顔だ。嫌がられる理由は思いつかなかったが、話が弾むようなこともなさそうなので、ひとまず沈黙に頼る。


「ポリン! なんでレンツの奴らがここにいるのよ!」


「ウチが知るわけないじゃん! 『いい所に馬車がきたわ! 不運続きだったけど、やっと幸運に恵まれてきたわね』なんて言っておいて、やっぱり不運じゃん! ローリィの疫病神!」


「私のせいにする気!? ポリンが『お風呂に入ってさっぱりしようよ』なんて言わなければ、こんな事にはならなかったわよ!」


 

 ポリンとローリィ、二人がこんな朝方に馬車に乗ってきたのには訳があった。

 二人は【領地争奪戦】でレンツに敗北し、気絶中、大観衆の前でヘーゼルにこっぴどくダメ出しされた。気絶から目を覚ましたあと、村の面子を潰したという理由で他のメンバーから丸一日叱られることになったのだ。

 【魔操球】では出場する機会すら与えられず、雑用に走らされた。最終日にようやく解放された二人は、嫌なことを忘れようと、宿に帰って浴びるように酒を飲んだ。酒を飲んでいるうちは幸福の真っ只中にいた二人、やがて泥酔状態で眠りにつき、目を覚ました頃には祭りは終了しており、おまけに二日酔いで気分は最悪だった。


『お風呂に入ってさっぱりしようよ』


 ポリンの提案に、ローリィは二つ返事で承諾し、どうせなら話題の【友の湯】に行こうという話になった。

 

『いい所に馬車が来たわ! 不運続きだったけど、やっと幸運に恵まれてきたわね!』


 不運も何も、レンツに負けたのは実力不足で、二日酔いで気持ち悪いのは自業自得なのだが、それに気付かないローリィは意気揚々と馬車を呼び止めるのだった。

 そこにレンツの面々が乗っているとは知らずに。




 ポリンとローリィは小声で言い争っていたが、イーナ達には全部聞こえていた。狭い馬車の中、いくら小声で話したとしても耳に入ってしまうのだ。


 イーナがわざとらしく咳をすると、ポリンとローリィは言葉を詰まらせ、面白くもない外の景色を見つめたまま動かなくなった。

 

 イーナにはこの二人に見覚えはなかった。もちろんアメラにも見覚えはあるはずもなく、唯一見覚えがあるはずのデイジーは、よだれを垂らして爆睡中である。


 馬車内は居心地の悪い沈黙につつまれ、その沈黙を時折かき乱すようにしてデイジーのいびきが聞こえるだけだった。

 そんな空気に耐えられなくなったのは、いい加減外の景色にも見飽きたポリンとローリィであった。


「ポリン……何か話しなさいよ」


「えぇ……大会楽しかったね、とか?」


「気絶させられて、大衆の前で恥晒しておいて楽しいわけないじゃない。十中八九、レンツから笑われるわよ」


「う……」


「頼りないわね。見てなさい。私が社交のなんたるかを見せてあげるか――――」


「すいません」


「ひ、ひゃい!」


「もしかして【陣地争奪戦】で戦ったメインエーキの方ですか?」


「ひゃい……そうです……」


 二人の魔女の顔は知らなかったが、名前は聞いたことがあった。何度も聞こえてくるポリン、ローリィという名を、イーナはどこで聞いたのかと思考を巡らせ、先程ようやくメインエーキの魔女だと思いだしたのである。


「一緒に出場していたもう一人の方の名前を聞いていいですか?」


「え……イムさんのこと…?」


「イム、と言うんですね。ありがとうございます」


 極力無駄な会話は慎もうと思っていたイーナだが、どうしても【陣地争奪戦】で戦った老魔女の名前を知りたくなった。それほどイーナにとって、イムとの戦闘は衝撃的だったのである。

 イムとの戦闘によって得た経験はイーナを深く悩ませた。魔力量以上の圧倒的な技術の差を見せられ、『魔法は環境因子に影響される』と言葉を残した老魔女、イム。彼女は魔法をうまく扱いたいならばヴァイオレット城に行ってみなさいとも言っていた。

 その時点ではなんのことやら、といった状態だったが、先日、魔女王ヴァイオレットに会い、城に招待された時、魔女王の城だったのかと合点がいき、イーナはどこか運命めいたものを感じた。


「イムさんがどうかしたの?」


「私はイムさんと丘の陣地で戦ったんです。こっちは二人で挑んだのに簡単にいなされて驚きました」


「ウソ……あのイムさんが……?」


 

 ポリンとローリィは顔を見合わせ、首を傾げた。試合前に土をいじり、空をぼうっと眺めていた老人が、二人相手に立ち回ったなど信じられずにいた。

 ポリンとローリィは年下の、現在爆睡中である見習い魔女に手も足も出なかったのに対して、イムはたった一人で陣地を守りきったと聞き、何かの間違いではないかと訝しんだ。


「そういえば……皆もイムさんには何も言ってなかったような……」


 メインエーキの代表者達はイムに対して(そし)る事は無く、むしろ称賛していた。年の功がそうさせているのだと思っていたローリィは、間違っていたのは自分ではないかと考え始めていた。



「機関の嬢ちゃん達、ついたぞ」


 馬車が止まり、トントンとノックの後に御者が目的地付近に着いたことを知らせる。

 イーナはデイジーをゆすりお越し、ポリンとローリィに一礼して馬車を降りた。



 残されたポリンとローリィは、目の前に座っていた三人が機関所属と聞き、喉を鳴らした。

 そして、機関に所属するような魔女に打ち勝つイムに憧憬の念を持つのだった。



閑話を入れるタイミングが……ない!

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