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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
125/221

124『表彰式』

 

 デイジー主導による食べ歩きは、夕方になっても続いた。ぽっこりとお腹が出るほど食べたフィーナ達であったが、屋台群のおよそ半分も制覇していなかった。

 もはや食べ物を見るだけで気持ち悪くなってしまうフィーナ達は、食べ過ぎで青い顔をしながらも、競技場中央のテントの中で、ぐったりと横になった。


 競技場中央では各競技の優勝者や優勝した村を表彰するために、ステージが置かれており、このテントはその表彰式を観覧するためのものだ。

 フィーナは周囲の雑踏の音を聞きながら、胃の内容物の消化を待った。


 

「そこの娘、大の字に寝るでない。妾が座れんではないか」


 フィーナが声のした方向に目を向けると、魔女の格好をした少女がいた。

 少女は腕を組み、偉そうにふんぞり返っている。


 フィーナはその態度が鼻についたが、言われるのも最もなので、ゴロゴロと寝たまま体を回転させて、少女が座る場所を開けた。


「ぐうたらじゃのう。それでも魔女かや」


 少女はフィーナに眉根を寄せて呆れつつ、腰を下ろす。長いローブにすっぽりと包まれた少女は、まるでてるてる坊主のようだ。

 ぱっちりとした目と、ふっくらとした頬は、いかにも少女らしさを彷彿とさせ、話す言葉の婆臭さに反していた。


「娘、ちと妾の話し相手をせぬか?」


「いーですよー」


「妾の言葉に寝たまま答えるとは………お主、名は?」


「フィーナですー」


「それでフィーナよ。何故お主は気怠そうに寝ておるのじゃ?」


 フィーナはその答えに、一軒の屋台を指差した。指した方向には例の元盗人の野菜屋がある。


「あの店がどうかしたのかや?」


「あの店からあそこまで、三人で食べ歩きしたんです」


 フィーナは野菜屋からつーっと指を走らせ、最後に食べた屋台で指を止めた。


「なるほどのう。お主は食べ過ぎで動けんというわけじゃな。三人とはそこの二人も合わせてかや?」


「はい、姉と友人です」


「名を教えてくれるかや?」


「姉がイーナで、友人はデイジーです」


 少女はほうほうと頷き、苦しそうに横になっているイーナとデイジーを見た。


「それで、どこの屋台がうまかったかのう?」


「んー、あの店と、あの店、それからそっちのお店ですね」


「ほう、では買ってくるとするか。この場所とっといてくりゃれ」


 少女はそういうと立ち上がり、人混みの中に消えていった。しばらくすると、フィーナが教えた屋台の料理を両手に抱えて持ってきた。


「ほう、これはうまいの! 久しぶりにテッサ以外が作った料理を食べたわ」


「うう……気持ち悪くなるので他所で食べてくれませんか?」


「そうは言ってものう。ほれ、もうすぐ表彰式が始まるしの」


 吐き気を抑え、フィーナがステージに目を向けると、運営委員によって着々と準備が進められていた。ステージ上にはヘーゼルやペントの姿も見える。


「国王が来たようじゃな」


 国王は騎士団に守られながら登場し、一際豪華に作られたステージの玉座へと腰掛ける。

 ステージに国王が現れたことで、ステージ周りのテントにも人が集まり始めていた。


『これより表彰式を始めます! 優勝者と代表者は集まってくださーい』


 ペントが甲高い声で、それでいてよく通る声で呼びかける。フィーナはその声に重い腰を上げる。


「なんじゃ? お主も表彰されるのかや?」


「ええ、まあ一応」


「ほう、見かけによらず、優秀なのじゃな」


 フィーナはムッと顔を顰めつつ、のそのそと動き始める。イーナとデイジーは動く気すら湧かないようで、フィーナに手をひらひらと振るだけだった。


 フィーナはステージの側で他の表彰者と一緒に待たされることとなった。狩猟大会で優勝した現騎士団副長ブラウンは二日目でトールマンや国王に逆転された後、三日目で巻き返し、優勝したようだ。因みにその頃のフィーナは、公衆浴場にて敢えなくキャスリーンに襲われかけるという目にあっている。

 イーナが善戦した【陣地争奪戦】では名門ケインヒルズが優勝を勝ち取ったようだ。ケインヒルズは全ての競技において決勝まで進んでおり、その実力の高さを窺い知れる。そんなケインヒルズを【魔操球】で破り、優勝したのは、なんとレンツの初戦の相手だったトット村だった。

 フィーナはケインヒルズやトット村の魔女達と軽く談笑しつつ、表彰式を待った。


『えー、それでは! 第一回狩猟大会の表彰式を始めます! 優勝者、王国騎士団所属、ブラウン副長!』


 ブラウン副長の名が呼ばれると、辺りからは惜しみない拍手が送られる。ブラウン副長は国王の前へ進み出て跪いた。



「王国騎士団の名に恥じることのない素晴らしい成績を納めてくれたことに感謝し、その武技は賞賛に値する。よってそなたに剣と盾を授ける」


「ありがたく頂戴いたします」


 国王は宝石等によって豪華にあしらわれた剣と盾をブラウン副長へと渡し、ブラウン副長はそれを高々と掲げた。


「うぉおーー!」


 騎士の一団から歓声が上がり、それに呼応するように観衆の拍手が大きくなる。

 ブラウン副長が笑顔を浮かべながら壇上を去ると、時代に拍手は小さくなっていった。


『続きまして、第一回魔術大会の表彰式を行いたいと思います! 箒レース、第一回リシアンサス杯、レンツ所属、優勝者フィーナ!』


 フィーナは胸の高鳴りを抑えつつ、壇上へ登った。今頃になって緊張し、唇をきゅっと噛む。

 ブラウン副長を真似て国王の前に跪く。


「そなたは優れた飛行技術を人々に見せ、楽しませた。よって、メルクオールの空を駆けるそなたに感謝と栄誉を贈る」


「ありがとうございます」


 フィーナが手渡されたのは真鍮の盃と、猫の紋様が入った風の結晶魔分だった。深緑の葉を思わせるエメラルド色の結晶魔分は、フィーナの手のひらより大きく、その価値は計り知れない。フィーナは落とさないように慎重に手に持った。


『続きまして、魔女村対抗戦部門、代表者は前へ!』


 フィーナはそのまま壇上へと残り、ケインヒルズとトット村の魔女が壇上へと上がる。どちらもひどく緊張しているようだ。


 フィーナは持っていた盃と結晶魔分を待機していた兵士に持ってもらい、再度国王の前で跪く。


「レンツ、ケインヒルズ、トット……どの村も個性に溢れた素晴らしい戦いを演じてくれた。メルクオールの魔女の優秀さに感謝し、今後も研鑽に励むよう期待を込めて、これらの品を贈る」


「「「ありがとうございます」」」


 フィーナはレンツの名と、出場したレーナ、ドナ、フィーナの名が縫われた旗を授かった。柄は銀製で、厚手の生地が使われた旗は重く、フィーナは肩に担ぐようにして、その旗を支えた。さらにフィーナは三人分の高級生地が使われたローブを授かる。ケインヒルズやトットにも同様の物が贈られたようだ。


「これにて表彰式は終わりとなるが、祭りはまだ終わらぬ! みな心ゆくまで楽しんでいってくれ!」


 国王が最後に観衆に向け声を張り上げる。どっと湧くように歓声が上がり、フィーナ達には割れんばかりの拍手が贈られた。


 テントへと戻ったフィーナは優勝賞品の品々を降ろし、昂揚した気持ちを落ち着かせるようにしながら座った。イーナとデイジーは多少回復したようで、贈られた品を興味深く見ていた。


「お主はレンツ出身じゃったのか。ベルクオーネは元気かの?」


 フィーナはベルクオーネという人物に心当たりが無く、首を傾げた。


「確か祖曽と呼ばれておったと思うが………」


「祖曽は亡くなりました……」


 フィーナはこの時初めて曾祖母である祖曽の名を知った。


「そうか……あやつがのう……」


 少女はどこか遠くを見つめるように目を細め、柔らかな笑みを浮かべた。


「そういえば、私、あなたの名前聞いてませんでしたよね? お名前聞かせてくれませんか?」


「そうじゃったのう。うむ、いいぞ、妾の名は――――」


 少女はすっと立ち上がり、腰に手を当ててふんぞり返った。


「魔女王、ヴァイオレット・ノーサン・ミッドランドじゃ!」




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