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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
124/221

123『お祭り 午後の部』

 

 素材売り場で色々と買い漁ったフィーナとイーナ、金貨の詰まった袋が軽くなるにつれ、手荷物が増えていく。

 身動き取れないほど買い込んだフィーナ達だったが、そのほとんどをガオの口の中へと放り込んだため、見た目は手ぶらと変わりない。ガオはデイジーが抱えないと動けないほど丸々としていたが。


「買い物終わり?」


「終わったよ。お腹も空いたし、ご飯にしよっか?」


「やった! 食べ歩き開始ー!」



 フィーナ達は素材売り場を離れ、食べ物屋台を目指す。時間はちょうど昼時で、みな考えることは同じなのか、ほとんどの屋台に行列が出来ていた。


「並んでるね。これはすぐに食べられそうもないかな」


「えー………あ、あそこ空いてるよ!」


 デイジーが指差したのは一軒の屋台だった。どこも行列が並んでいる中で、そこだけ閑古鳥が鳴いている。どうも嫌な予感がする。


「なんかやけにお客さん少なくない?」


「すぐに食べられるならなんでもいいのだー!」


 フィーナとイーナは渋ったが、デイジーは一目散にガラガラの屋台へと走っていった。フィーナとイーナも仕方なくその後を追う。


「おじちゃん! ここは何のお店?」


「いらっしゃ……ってあんた達は!」


「ん? デイジー知ってる?」


「知らない」


「覚えてないのか……?」


 店主は青い顔をしながら後ずさり、額の汗を拭いた。そこでフィーナは気づく。店主の左手は指が二本、欠損していた。指の欠損は、過去にこの店主が盗みを働いたことを意味する。

 しかしフィーナに盗人の知り合いなどいない。


「どこかで会いましたっけ?」

 

「いや、その………」


 店主はこの上なく顔色を悪くし、冷や汗をダラダラと垂れ流した。


「…思い出した! この人、前に【ウィッチ・ニア町】でフィーナの荷物を盗んだ人だよ!」


 イーナがフィーナの耳元でこの人物が誰なのか教えてくれた。

 かつて、デイジーがフィーナにプレゼントとして買ってくれたティーカップを盗まれたことがあった。その時フィーナは大激怒し、その怒りは、犯人を追い詰め、盗人のアジトまでも壊滅させるまでに至った。

 フィーナもようやく思い出し、店主を見る目をきつくする。


「ま、待ってくれ! もう盗みはやめたんだ。今はただの商人だよ!」


「改心したと?」


「あ、ああ。面倒を見てくれた旦那の仲介商人をやらせてもらってる」


 脅えながら話す元盗人こと店主は、食い詰めて行き倒れとなる寸前に、とある農家に救われて世話になり、一時期その農家を手伝っていたそうだ。そこで採れた野菜を食べた時にいたく感銘を受けたようで、それ以来、収穫した野菜を売って回っているそうだ。


「だけどよ、俺はこんな見た目だからな。あまり客がつかねえんだ」


 元盗人の証である指の欠損に加え、人相もいいとは言えない。この店だけ客が寄り付かなかったのは、そういった理由があったからだろう。


 イーナの再生魔法を持ってすれば、この男の指を生やすことも可能だろう。しかし改心したとは言え、この男は元犯罪者である。あそこでフィーナ達の荷物を奪っていなければ、未だに盗人を続けていたかもしれない。今は偏見にも負けず商人として頑張っているようなので、再生魔法を施さずともやっていけるだろう。


「町ではようやくお得意さんができ始めて、こんな俺が売る商品でも買ってくれるようになったんだ。けど、ここでは……」


 道行く人々は蔑みの目を店主に向け、近づこうとしない。ここでは顔が売れていない為、妙な商品を売りつけられるのではないかと警戒しているのだろう。


「これってトマト?」


 デイジーが手に取ったのは赤赤とした美味しそうなトマトだった。トマトの他にも畑から収穫したばかりを思わせる新鮮な野菜が陳列されていた。


「旦那の畑で採れた野菜だ。お嬢ちゃん食べてみないか? すっごく美味いぞ」


「うーん………野菜かぁ」


 店主はデイジーにトマトを薦めるが、デイジーの食指は動かない。野菜嫌いが極まったデイジーは、イーナでさえ、あの手この手で工夫しなければ食べてくれない。ドレッシングの考案などで、前よりは食べてくれるようにはなったが、それでも進んで食べようとはしないのだ。


 グゥ〜…


 デイジーの腹の虫が限界を告げている。嫌いな野菜を前に、デイジーは空腹に耐える。


「一つ食べてもいいですか?」


 デイジーに代わって進み出たのはイーナである。機関に所属する魔女達の胃袋を支配するイーナにとって、美味しい野菜というのは非常に興味を引く対象らしい。

 イーナが切り分けられたみずみずしいトマトを一欠片口に入れる。


「……ん、んー! お、美味しい! おじさん、五個…いや十個ください! それと他の野菜も試食させてもらっていいですか!?」


「お、おお。構わねえぜ。どんどん食べてくれ」


 イーナは生で食べられる野菜を次々と食べ、感嘆の声とともに大量に買い付ける。イーナは食べ物に関してはかなりシビアなので、この野菜は本当に美味しいのだろう。試しにフィーナもトマトを食べてみたが、ぴっちりとした張りのある皮に包まれてはいるが、ひと噛みすれば甘酸っぱい果汁が口の中いっぱいに広がった。フィーナは口の端からこぼれ出しそうになる果汁を、上を向くことで防いだ。食感といい、味といい、今まで食べてきたトマトより格段に美味しく感じる。イーナが夢中になるのもわかるというものだ。


 嬌声をあげるフィーナとイーナに背中を押されたのか、デイジーは釣られるようにトマトを食べた。


「……え!? うんまいぞー!」


 デイジーは感激し、あっという間に残っていたトマトを全て平らげてしまった。嫌だ嫌だとゴネるデイジーの姿はどこにもなく、もう無くなってしまったと、まるで肉料理に向けるような眼差しで空っぽの皿を名残惜しそうに見つめている。


 店主はイーナに試食用の野菜を切り分けたり、大量購入を袋詰めしたりと大忙しだ。試食体験が珍しいのか、興味を持った人がちらほらと現れ、試しにと食べた人が目を丸くして購入に走る。

 元盗人店主の野菜屋はまたたく間に行列を作った。


 大満足なイーナと、今にも破裂しそうなガオを抱くデイジーを連れ、フィーナは更に賑わいを見せる屋台群の中へと入っていった。




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