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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
122/221

121『疲れた体を癒やすのは』

 

 初戦で壊れてしまった大玉の代わりに、予備の大玉を使うことで、その後の試合を消化することとなった。大玉を破壊したレンツは、初戦敗退という結果に終わったが、どういうわけか優勝チームより目立っていた。

 

 その後の試合も激しいものだったのだが、全試合を通して、大玉を破壊したのはレンツだけだった。観客にとっては一番印象に残っただろう。


 ふがいない結果に終わってしまったフィーナ達であったが、結果を気にしている暇はなかった。

 大会終了と共に、祭りの準備に駆り出されたのだ。


 明日で長かった大会期間は終わりを迎える。最終日は盛大なお祭りが開催され、王都の住民、全てが参加する。狩猟大会で得られた肉や素材の一部も売られ、各地からやってきた商人達がこの機に乗じようと、夜がふけるまで念入りに準備していた。 


 フィーナ達は自分たちの持ち場の作業が終わると、一日中動き回ってガタガタな体を癒やすべく、浴場へ向かった。


 向かったのはキャスリーンがフィーナを恐がらせたお詫びにと買い上げた王都郊外に位置する浴場、【友の湯】である。

 現在、所有権はフィーナにあり、入浴料はタダだ。実際の経営はキャスリーンとサンディに一任してあるので、手に余らせることもない。


 郊外に入浴施設画あったとして、客が入るのかという疑問があるが、思いの外繁盛しているらしい。今もそこそこの入りで【友の湯】は賑わっている。


 フィーナは注意深くあたりを観察しながら服を脱ぎ、浴室へと向かった。どうやら今日はキャスリーンはいないようだ。フィーナは安堵の溜息と共に湯に浸かり、疲れた体をほぐした。


「ふ〜」


「いい湯だね〜」


 フィーナ達は三人、横並びで湯に浸かり、揃ってだらしない顔を晒した。


「明日はお祭りだけど、どうする?」


 明日の祭りをどう過ごすか、フィーナは二人に聞く。


「食べ歩きしたい」


「魔物の素材はちょっと気になるかな」


 デイジーは明日の出店を全て制覇すると意気込んだ。イーナは普段出回らない魔物の素材に興味があるようだ。魔女たるもの、日々研究の毎日である。何に使うかわからないが、イーナのことなので、自身のプラスになるような研究に使うのだろう。デイジーと違って、いたって真面目なイーナである。


「誰も作ったことのない料理が作れそう」


 前言撤回。イーナもデイジーと大差なかった。

 イーナとデイジーの希望をすり合わせ、明日の予定を決める。

 午前中はイーナの希望通り、素材を見て廻り、午後はデイジー希望の食べ歩きだ。フィーナは特に見たいものは無く、イーナとデイジーのあとに続いて、色んなものを広く浅く物色するつもりだ。



「あの〜、もしかしてレンツの人ですか〜?」


 フィーナ達が和気あいあいと明日の計画を立てていると、ふいに声をかけられた。くびれのある腰が魅惑的なお姉さんだった。


「そうですけど」


「やっぱり! 大会見てました! 凄かったです! 握手してくださーい!」


「ど、どうも」


 フィーナはお姉さんの勢いに押されつつも、ぎこちなく握手した。イーナはおどおどしながら握手し、デイジーは胸を張りながら握手した。


「感激ですぅ! また大会があったら、絶対見に来ます! それと……不躾なお願いなんですが、何か魔法を見せてくれませんか?」


「えーっと、簡単なもので良ければ」


「是非お願いします!」


 フィーナはお湯の一部を操り、イメージ通りに形成していく。それを凍らせ、お湯の一部は小さな氷の彫刻となった。実際に彫った訳ではないが、イメージは氷の彫刻である。

 モデルにはフィーナの使い魔であるミミを使った。長い尻尾まで綺麗に再現出来ており、我ながらいい出来だ。

 フィーナはそれを手渡すと、お姉さんは口元を手で押さえながら、感極まった。


「う、嬉しいです……ありがとうございます!」


 お姉さんはミミの彫刻を手のひらに乗せ、落とさないように慎重に浴室を出ていった。


「氷だから直ぐに溶けちゃわない?」


 デイジーがもっともらしいことを言う。


「いいんだよ。直ぐに溶ける儚さが美点なんだから」


「そうかなぁ、デイジーはずっと飾っておきたいけど」


「そう言ってくれるとありがたいよ」


 芸術家のような事を口走っているフィーナだが、本当の理由は、残ってしまうと後で売られてしまうかもしれないと考えたからである。明日のお祭りに、商品として並んでいるところなんて見たくないが為であった。



「あたしにも猫さんちょーだい?」


 一部始終を見ていた幼い少女が上目使いで頼んできた。フィーナは快く了承し、ミミとガオとエリーが揃った彫刻を作ってやると、少女は「ママー!」と歓喜しながら駆けていった。


「フィーナ、その辺にしとかないと……」


「え?」


 イーナの忠告も虚しく、フィーナ達の周りには人だかりができ始めていた。


「レンツの魔女さん! 私にも作ってください!」


「うちの子にもお願いします!」


「私はフェアリーの彫刻を!」


「ちょっと! 押さないで! 順番よ!」


 


 結局フィーナはせがまれるままに全員分彫刻を作ることとなり、またしても休まることができなかった。

 フィーナは魔力切れとのぼせた為に、イーナに背負われて寮に帰ることになった。


 ベッドに倒れ伏すフィーナをアメラが心配そうに頭を撫でる。フィーナは薄れ行く意識の中で、氷の彫刻を今後一切封印することを固く誓った。




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