表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
120/221

119『魔術大会最終日』

 

 

 結局アメラはあれから翌日の朝まで起きることはなかった。よほど疲れていたのか、それとも人化の影響なのかはわからなかった。レーナはそんなアメラにべったりで、一時さえ離れようとはしなかった。

 今日は魔術大会最終日で、【魔操球】が競技として行われる。



 この【魔操球】に出場するのはフィーナ、イーナ、デイジーの三人。もともと、昨日の【陣地争奪戦】に三人で出るはずだったのだが、あのような事になってしまったのと、レーナがアメラの元から離れないので、今日の競技に三人で出ることにしたのだ。リリィとドナはレーナのお目付け役である。



「そろそろ始まるよー」


 デイジーが競技場の選手控室のドアを開けて、顔を覗かせる。

 

「今行くよ」


 

 フィーナとイーナはデイジーのあとに続き、競技場の廊下を歩いた。運営委員や大会関係者が忙しなく行き来する廊下を、フィーナ達は緊張した面持ちで進んだ。


 競技場へと出ると、眩い朝日がフィーナの目をくらませた。フィーナが手で影を作ると、次第に全容が見えてくる。

 楕円形の競技場にはたくさんの客席が設けられ、全て埋め尽くすかのように観客が座っていた。万を超えるであろう観客に、フィーナはごくりと喉を鳴らした。


 屋根が取り付けられたテーブル席には、特別身なりのいい貴族たちが座っていた。その中にデーブ伯爵の娘であるシャロンもいた。シャロンは両隣のデーブ伯爵夫妻と共に、フィーナ達に大きく手を振っていた。

 フィーナが手が振り返すと、シャロンは嬉しそうにデーブ伯爵夫妻と顔を見合わせた。




 実況席にはお馴染みのペントと、ヘーゼルがいる。


『いい日和の中で、今日も魔女たちの激闘が繰り広げられます。皆様、興奮のあまり立ち上がることの無いようにお願いします。後ろの人にも見えるように、落ち着いて試合をご覧になってください』


 ペントが注意事項や【魔操球】のルールを説明していく。今日も箒レースと同じく、小規模な賭けが行われるようだ。レンツの倍率はそこそこである。先日の【陣地争奪戦】が奮わなかったからだろう。それでも出場者全員見習い魔女というのは、かなり注目を集めたようだ。フィーナ達を応援する声が大きいように聞こえる。


 【魔操球】という競技はその名の通り、魔法で大玉を動かし、操る競技だ。相手の魔法を妨害したり、チームで協力して大魔法を行使したりと、ただ大玉をゴールに入れるだけの競技なのだが、かなり派手である。

 選手は高台に立って魔法を放つのだが、相手への直接攻撃は反則となっていて、ひたすら大玉に向かって魔法を放つことになる。なかなかに滑稽なのだが、これが意外にも、ウケているらしい。

 もともとは南のノータンシア連邦のうちの一国から発祥した競技で、じわじわと連邦全体に広まり、今ではノータンシア連邦の国技となっている。

 レーナ曰く、国がこの競技に力を入れているのも、ノータンシア連邦との関係をより親密にしたいがためらしい。

 西のサッツェ王国とは建国以来争いはなく、北のスノー•ハーノウェイとは貿易で良好な関係を築いている。南のノータンシア連邦にはこれといった関係性は無く、メルクオールは【魔操球】を通じて、ノータンシア連邦と繋がりを深めようとしているのだ。

 メルクオールがここまで他国との関係を深めようとしたのには、レイマン王国のことがあるからだろう。

今回の大会で、メルクオールは国内外に質の良い騎士と魔女の存在を知らしめた。国庫も潤い、今頃国王はニヤケ顔を晒しているだろう。


 

 運営委員の手によって、大玉が競技場中央に配置される。鉄球のように見える大玉だが、中は空洞で、見た目よりも重さはさほど無い。とはいっても、簡単に吹き飛ぶような重さでもない。頑丈さは王都魔術ギルドのお墨付きで、どんな魔法にも耐えられるように作られているらしい。これはノータンシア連邦の技術提供があったのではないかとフィーナは予想している。


 

 フィーナ達、レンツは一回戦の初戦を飾る。まったく知識のない競技ではあるが、他の魔女もそうなので、どの村にも優勝の目はありそうだ。



「そういえばさ、昨日一回戦の相手に、『魔法は環境因子に影響される』って聞いたんだけど、フィーナはなんのことがわかる?」


 高台へと登ったあと、イーナが尋ねてきた。


「環境因子か……確かに雨が降っていれば水魔法を扱うのも楽だし、風が吹いていれば風魔法を扱う上で魔力の節約にはなるよね」


「どうも、それだけじゃなさそうなんだよね。あとヴァイオレット城に行けば、師匠がいるからそこで教えてもらえって言ってた」


「ヴァイオレット城って……魔女王ヴァイオレット?」


「どうだろ? 名前だけ同じなのかも」


 魔の女王こと、ヴァイオレット•ノーサン•ミッドランドはレリエートの魔女に【二つ名】を与えた魔女だ。類まれなる力と知識を持つと言われているが、デメトリアからはバカタレと言われるなど、その人物像ははっきりしない。


「そもそもヴァイオレット城なんて聞いたことないよ」


「うーん、外国にあるのかな?」


「かもね」


 イーナはしばらく、うーんと唸っていたが、隣のデイジーに肩を叩かれて我に返った。


「一回戦始まるよ」


「ああ、ゴメン、デイジー」


 こうして、魔術大会最終日は幕を開けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ