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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
118/221

117『初戦終了』

「思ったとおり、最初に丘を取ってきましたね」


「セオリー通りなら丘を取るよね〜」


 イーナとリリィは二つ目の陣地を取るべく、建造物の隙間を縫うように走り抜けていた。


「隊長殿、丘を取った魔女二人は密集地帯へ向かった模様」


 リリィの使い魔、フェノが持ち帰った情報を伝える。フェノは予め丘の陣地に張り込み、相手の出方を探っていた。  


「ご苦労様、デイジーに予定通りって伝えておいて」


「御意」


 フェノはその跳躍力を活かし、イーナが操る箒の数倍の速さで移動できる。スタミナを考えなければ、デイジーと同じくらいの速さで移動できるのだから驚きだ。

 フェノは砂埃を舞い上げながら、イーナ達の前から姿を消した。


「あとは手薄になった丘を強襲すれば勝ちだね〜」


「メインエーキの三人目が未だにどこにいるのか分からないのが不安ですけど………」


「そうだね〜、油断大敵かも〜」



 イーナとリリィが丘の陣地へと辿り着くと、報告通り、既に旗が立っていた。そして、報告に無かった旗を守る魔女もそこにはいた。陣地の旗に寄りかかるようにして、背骨の曲がった体を支えていた。


 今にも倒れそうな老魔女が、イーナとリリィをじっと見つめる。イーナとリリィは、その鋭い眼光にごくりと喉を鳴らした。


「ここに来るなんて、いい判断だよ」


 老魔女はゆっくりと語りだし、皺を深めて笑った。


「私がいなけりゃね」


 老魔女がそう告げたと同時に、イーナ達が立っている地面が爆発した。咄嗟にその場を離れたイーナとリリィだったが、爆発の余波を受け、地面を転がった。小さなな瓦礫がパラパラとイーナに降り注ぎ、イーナは口に入った砂を咳とともに吐き出した。

 かなりの熟練者、イーナはそう思った。あの老魔女はイーナと同じく、詠唱せずに複合魔法を使用している。長い間、魔法の使い方を研究してきたのだろう。


 イーナは爆音による耳鳴りに耐えつつも、すぐに立ち上がった。リリィの方に目線をやると、既にリリィは魔法を放とうとしていた。イーナは少し距離をとり、リリィの数歩後ろといった位置に移動した。

 今回、クロスボウは持ってこれなかった為、参戦するには機を待つことになる。イーナは潜在魔力量が少ない。あの老魔女とリリィの戦闘に加われば、あっという間に魔力が底をつくだろう。


「フェノさん」


「此処に」


 木の上から黒い影がイーナの目の前に降りてきて、緑色の頭を下げて跪いた。


「デイジーの方は上手くいっていましたか?」


「お相手の二名のうち、一人が意識喪失により戦闘不能。残る一人はデイジー殿によって、散発的な戦闘を余儀なくされております」


「こっちは手こずりそうだから、デイジーと連携して旗を取ってもらうことになるかもしれません」


「強敵のようですな。此方はお任せを。隊長殿、御武運を」


 イーナが頷くと、フェイは砂埃と共に消え去った。デイジーのもとに向かったのだろう。


 現在、ガオやエリーが守る陣地を有し、武闘派のデイジーがもう一つの陣地を攻めているレンツ側が優勢だ。メインエーキの使い魔が一匹も見当たらないという不安はあるが、こちらにはフェイやデイジーといった高機動の戦力がいる。メインエーキの使い魔たちが、ガオやエリーが守っている陣地に向かったとしても、フェイやデイジーなら直ぐに追いつき撃破してくれるだろう。

 

 あの老魔女が強敵だったのは予想外だったが、現状を維持していれば、そう遠くなくデイジーとフェイが密集地帯の旗を取ってくれるだろう。勝つのはレンツだ。


「強すぎるよ〜」


 いつのまにかリリィは防戦一方となっていた。老魔女とリリィでは魔法を撃ち出す回転率がかけ離れていた。リリィは一つ一つの魔法を詠唱し、イメージを固めてから撃ち出すのに対し、老魔女は旗を背もたれにしつつ、息をするように魔法を撃ち出していた。

 火球、土石流、落雷、迅風を組み合わされ、息つく暇もなく繰り出される魔法。リリィは土壁を絶えず生成し続け、必死に耐えていた。


「リリィ分野長、守りは任せてください」


「助かるよ〜」


 イーナはリリィの隣に並び立ち、火球は水壁で、土石には土壁で、落雷には高い木を動かして避雷針にし、迅風には向かい風で対抗した。老魔女はイーナの回転率に驚いたようだったが、決して手を緩めることはなかった。

 隣ではリリィが高威力の魔法を連発していたが、老魔女はリリィの魔法が繰り出されるタイミングで、回転率を上げ、リリィの魔法を相殺していた。



 イーナの額に汗が浮かぶ。イーナは焦り始めていた。思ったよりも魔力の消費が激しいのだ。対する老魔女は顔色一つ変えていない。魔力量に差があったとしても、リリィとイーナの二人がかりを相手にしながら出せる雰囲気ではない。

 イーナが息を荒げていると、唐突に攻撃が収まった。


 イーナとリリィが顔を見合わせて首を傾げていると、老魔女が口を開いた。


「やるのう。ウチの若い娘達とは大違いじゃ。しかし、まだまだ魔法を完璧には理解しとらんのう」


 イーナは突然何を言い出すのかと怪訝な顔をした。


「そろそろこの試合も終わりじゃろうて。初戦敗退は残念じゃが、ポリンもローリィもいい経験にはなったであろうよ」


「どういうこ―――――」


 イーナが問いただそうとすると、競技場に試合終了の知らせが上がった。


『決着! 丘の陣地では猛烈な戦闘がありましたが、初戦は終始優勢に試合を進めたレンツの勝利に終わりました! ヘーゼルさん、どうですか? レンツは今回も順調に駒を進めそうですか?』


『そうねー。まんまと罠にかかったメインエーキの二人組はダメダメね。使い魔が加わっても、全く動かせずに、撹乱されて旗を取られてたし。丘の陣地ではいい勝負を見られたね。いろんな意味で、経験の差が色濃く出た試合だったかな』


『へ、ヘーゼルさん中々に辛辣ですね……私だったら泣いちゃいますよ』


『二人とも気絶しちゃってるし、良いんじゃない?』


『良くないですよ! 運営委員長が言っていい言葉じゃありません!!』


 イーナはけたたましいペントの実況がしばらく耳に入っていなかった事に驚いていた。それ程、この試合に集中していたのだ。

 どうやら、デイジーとフェイはイーナの指示通り、旗を取ってくれたようだ。メインエーキの使い魔が加わっていたようだが、ヘーゼルの口ぶりからすると、全く活躍する場も貰えずに地に伏したようだ。


 イーナは気になることがあった。それは老魔女の魔法の扱いのうまさについてだ。リリィとイーナを相手取って、息切れ一つしないなど、考えられなかった。

 イーナは思い切って声をかけることにした。


「あの、すいません」


「なんじゃ?」


「何故そんなに余裕があるんですか?」


「ふむ、なぜだと思う?」


 質問を返されてしまった。イーナは戸惑いつつも、考えられることを口にした。


「えと、魔力量が膨大だから?」


「うむ、間違ってはおらんが、私とお主の魔力量はそれ程かけ離れてはおらんはずじゃ。小さな魔女さんにヒントを教えてやろう。魔法は環境因子に影響される、じゃよ」


「環境因子? それって――――」


「おっと、もう時間じゃ。そこの小さな魔女さんや。魔法をうまく使えるようになりたいのなら、ヴァイオレット城に行ってみなされ。私の師匠がそこに住んでおるから、指導してもらえばええ。今日は楽しかったぞ。またどこかでな」


 老魔女は地面に置いてあった杖を拾い上げ、イーナに手を振って去っていった。


「リリィ分野長、環境因子が魔法に影響するってなんのことかわかりますか?」


「ワタシがどこの分野長か知ってる〜? 錬金術分野だよ〜? スージーならまだしも、ワタシが知るわけないよ〜」


「それもそうですね」

 

 イーナは頷き、取り敢えずフィーナやレーナが戻ってきたら聞いてみようと考えた。物知りなフィーナや、知識人のレーナに聞けば、何かわかるかもしれない。


 次戦は辛くも勝利したが、その次の試合で、イーナとリリィは老魔女との戦闘による疲れが抜けきらず、呆気なく二つの陣地を奪われて敗れた。

 イーナは自身の魔力量の少なさを悔いると共に、老魔女の魔法技術が気になり始めていた。



 

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