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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
116/221

115『陣地争奪戦』

 イーナは途方に暮れていた。

 

「母さんもフィーナも、それにドナさんまで、どこに行ったんだろう?」


 フィーナ達が機関の寮でアメラの身を隠している時、既に【陣地争奪戦】が始まろうとしていた。

 この競技は模擬形式とはいえ、魔法を使った戦闘が行われる。多少の危険性を鑑みて、この競技には成人であるレーナ、リリィ、ドナの三人で出場するはずだった。

 しかし、そのうち二人は先程の競技から戻ってきていない。イーナは観客席で【召喚戦】を白熱した気持ちで観ていたが、今は焦りで冷や汗が出てきている。


「宿にもいなかったよー」


「この辺りにはいないみたい〜」


 宿に確認を取っていたデイジーと、露店の並ぶ広場を探し歩いていたリリィが戻ってきた。


「レーナ先輩のことだから〜召喚したドラゴンに構いすぎていて忘れてるのかも〜?」


「うーん……確か、召喚した使い魔は全て変換されると聞いたんですけど」


「レーナ先輩なら絶対変換しないよ〜そういう人だから〜」


 リリィがあまりにも自身有りげに言うので、段々とイーナも、そうかもしれないと思うようになっていた。しかし、それにフィーナやドナが賛同するとは思えなかった。


「でも、フィーナもドナも見かけないでしょ〜? つまりそういうことなんだよ〜」


 つまりフィーナとドナも、大会規則を破ってドラゴンの変換を拒み、逃げ隠れしている。リリィは暗にそう述べていた。

 どうやってドラゴンの巨体を隠しながら逃げおおせたか知らないが、王国にバレたら大変な事になるというのは、イーナでも理解できた。しかし、現状運営委員にも会場にも、慌ただしい雰囲気や不穏な雰囲気はない。どうやら、レーナ達は誰にも気づかれることなく事を成したようだ。


 ただ、そうなるとレーナやドナが【陣地争奪戦】に出るのは難しいだろう。わざわざ逃げたにも関わらず、すぐに戻ってくることも無いだろう。最悪、明日の競技にも参加できないかもしれない。


「デイジー、リリィ分野長」


 ここまで、レンツは好成績を残している。村の名誉のためなど高尚な考えはないが、今から出場選手を変更すれば、間に合わなくもない。幸い、成人魔女であるリリィと、戦闘に長けたデイジーもいる。


「この競技、今いる三人でやりましょう」




 【陣地争奪戦】はランダムで選ばれた村同士で競う、トーナメント形式の競技だ。

 三つの陣地のうち、二つの旗を取ることで勝負が決する、簡単なルールだ。相手がどの旗を狙ってくるかわからない為、一つ目の陣地で攻防が繰り広げられることも考えられる。


「司令は私がやります。デイジーはエリーと一緒に最速で一つ目の陣地を取ってね。防衛はガオに任せます。リリィ分野長は私と一緒に二つ目の陣地を取りましょう。リリィ分野長、使い魔を呼んでくれますか?」


「了解〜、おいで、フェノ〜」


「御身の側に」


「きゃっ!」


 リリィの使い魔、フェノは蛙だった。雨蛙のような色合いだが、イーナの股に届く程大きく、黒く見慣れない装束を身に纏っていた。フェノは騎士のようにリリィの前で跪き、頭を垂れている。厚い忠誠心が感じられるほど、見事に様になっている。


「えっと、フェノさん…? よろしくお願いします」


 爬虫類に比べれば、蛙はいくらかマシと言えるくらいの嫌悪感である。しかし、同じチームとしてやっていく為には、苦手意識をも屈服させなければならない。それがイーナとしての心構えだった。それに、最近は魔物を食材として扱う事も増え、だいぶ慣れたということもある。

 イーナが握手をするべく手を伸ばすと、フェノはイーナの人差し指を握った。ぺっとりとした肌触りと、水かきのなんとも言えぬ感触に、イーナは身震いした。


「隊長殿、宜しくお頼み申す。(それがし)は隠遁を得意としております。諜報、潜伏、罠、斥候、撹乱、なんでも御座れ。必ずして目的を達する所存」


 随分と堅苦しい言葉を話す蛙だが、なかなかに優秀である。なぜこのような口調なのか、リリィに聞きたくもあったが、変に草むらを突いて蛇を出すことも無いと考え、心の奥にしまうことにした。


「フェノさんは一つ目の陣地を確保した後、二つ目の陣地を探ってください。その場の判断で、撹乱も許可します」


「承知」


 取り敢えずの方針は決まった。この初戦であらゆる事を吸収し、次戦で作戦を修正していく。相手の対抗策を察知し、いち早く司令を出さなくてはならない。イーナは久々に興奮を覚えた。

 今回はフィーナが不在で、実力を把握しきれていないリリィがいる。イーナは自分の指示で戦況は良くも悪くもなるだろうと考えていた。


「イーナ、ワクワクしてる?」


「え?」


「そんな顔してたよ」


 デイジーに言われ、イーナは頬に手を当てた。手の触れた感触で、頬が緩んでいると気づいた。何故かはわからなかったが、イーナは逸る気持ちを抑えられずにいた。




『こんにちはー! これより【陣地争奪戦】を始めます! 怪我の無いよう注意して、競技に励んでくださーい! なお、本競技の解説は引き続きヘーゼルさんです』


 もはや見慣れた開始の合図が空に上がり、イーナは笑みが止まらぬまま、【陣地争奪戦】に臨んだ。

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