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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
115/221

114『共謀する三人の魔女』

 変換の儀には、その後騎士団が運営委員の代わりを担ったらしい。運営委員は心労によって倒れた、ということになっているため、魔女である他の運営委員に代わりを任せるのは酷であろうと、王国側が配慮した結果である。

 

 レーナは三角帽子を深くを被ったアメラを抱えるようにして、その場を離れたのだが、これに怪訝な目を向ける者はいなかった。

 周りの魔女や運営委員は、抱きかかえられるアメラを泣き崩れて無気力になったのだと勘違いしたようで、沈痛な面持ちでフィーナ達を見送った。行きと帰りで人数に差が生じていたが、半ばドサクサに紛れて出てきたため、そこに気づくような注意深い者はいなかった。


 人化したアメラは思うように体を動かせないでいた。今までとは全く違う大きさの手足を動かし、狭い足裏で立ち、歩行するということに難儀していた。

 そのためレーナが抱えているのだが、いつまでもそのままというのは、明らかにおかしい。未だアメラはローブと帽子以外に着ているものが無い。一先ず、アメラの身だしなみを整えることが先決だと、フィーナ達は機関へ向かうことにした。


 機関へ向かうには、王都内に入り、定期馬車や陸船によるルートと、王都外から徒歩で周って、機関のある十七番街へ入るルートの二種類がある。王都内から向かうと、時間がかかる上に、ひと目にもつくので、王都外から徒歩で向かうルートを選択した。

 満足に歩くことのできないアメラを連れて、長距離を歩くことは難しい。そこで、フィーナ達は箒を使って移動することにした。あいにく、フィーナの【リシアンサス】は修理中であるため、今は使えない。だが、レーナとドナは宿に置いているらしく、その二本を使って、機関へ向かうこととなった。

 

 現在、レーナとドナは箒を取りに一旦王都内に向かい、フィーナはアメラと一緒に人目の付かない場所でお留守番である。


「ふーいな」


「フィーだよ、フィー」


「ふぃー、な」


「そうそう」


 フィーナはアメラに発音を教えていた。元々、知性は高いアメラだったが、歩行と同じく、発音にも訓練が必要だった。


「それじゃ、三人の名前を言ってみて?」


「れーな、どな、ふぃーな」


「よくできました」


 フィーナはアメラの頭を撫でると、アメラはくすぐったそうに目を細めた。

 先日、レーナに対して妹が欲しいと冗談で言ってはみたが、この際、アメラが妹でも構わない。それくらい可愛いのだ。

 フィーナの顔かたちに似ているため、姉妹と言っても誰も不審に思わないだろう。生後数時間のドラゴンだとは、考えもしないはずだ。


「ふぃーな、ふぃーな」


 アメラが嬉しそうにフィーナの名を連呼する。これからのことを考えると頭が痛くなるが、アメラの笑顔を見ると、どうにでもなりそうな気がして来る。これが子を持つ親の心境か、とフィーナは子どもながらに思った。そしてふと、ヒカリの親もそうだったのだろうかと、生前を思い出す。あの頃のヒカリは、何もかも諦観しきっていた。そんなヒカリを、両親はどんな思いで見ていたのだろう。今となっては知ることはできないが。


「ふぃーな?」


 フィーナの出すマイナスの雰囲気を感じ取ったのか、アメラが心配そうにフィーナの目を見つめる。フィーナは「大丈夫だよ」とアメラの頭を撫でながら、レーナとドナの帰りを待った。


 程なくしてレーナとドナは戻ってきた。レーナは、アメラの着替えと思しき荷物を抱え、一刻も早くアメラに会いたいがために、小走りになっている。その後を、ドナが辛そうに追いかけていた。


「れーな、どなー」


「ドナ! 聞いた? もう私達の名前を呼べるみたいだわ。それに、なんて可愛いのかしら」


 レーナはアメラに抱きつき、頬に機関銃の如くキスの雨を降らしている。ドナは息も絶え絶えといった様子で、手を振って返事をしていたが、それすらも億劫といった表情だ。

 キスの豪雨に曝されたアメラは、くすぐったそうに身をよじった。


 ドナの呼吸が落ち着くのと、レーナがアメラから離れたのは、ほぼ同じ頃だった。


「アメラは私の箒に乗りなさい。暴れちゃダメよ」


 レーナは自分の箒にアメラと二人で乗るようだ。そうなると、フィーナはドナと二人乗りすることになる。なんとなく微妙な気持ちになりながらも、フィーナはドナの背中にひっつくようにして乗った。


 一人用の箒に二人乗りなど、如何なものかと不安に思っていたが、案外いけるものだと、フィーナは離れゆく地面を見つめながら思った。


 街中での飛行は禁止されているが、ここは王都外である。フィーナ達以外にも、先日の箒レースにあてられた魔女達が、思い思いに空を駆け巡っていた。これだけの魔女が飛行しているのは、なかなかの見物である。アメラも興味深そうに眺めていた。


 箒で飛び、十七番街の入り口へとついたと同時に下降し、箒から降りる。ここまでは特に大した問題は起きていない。アメラが箒から降りたときに盛大にずっこけ、あえなくローブの下が露わになってしまいそうになるという事はあったが、レーナの素晴らしいディフェンスのお陰で、なんとかアメラの柔肌が白日の下に晒されることは無かった。


 街へと入るには門を抜けなくてはならない。

 十七番街は王都外へ突き出た形をしている。機関という重要施設があることも相まって、ここの門はなかなか厳重だ。

 問題はここをどう抜けるかなのだが、フィーナの権力と知名度でごり押しさせてもらおう。


「これはフィーナ教官殿、忘れ物ですか?」


「まぁちょっと、ローブと帽子を妹に盗られちゃって……」


「妹がいらっしゃったのですか? てっきりイーナ教官との二人姉妹だと……」


「妹はまだ見習い魔女にもなっていないんです。今日は見学だけでもさせてあげようと思ってます」


「そうでしたか。そちらのお二人は?」


 門兵がフィーナの後ろにいるレーナとドナを見やる。


「母のレーナと友人のドナ。二人とも大会参加者です」


 レーナとドナが会釈し、門兵が敬礼を返す。


「私も魔術大会を見に行きたかったのですが、先日からここの番を任されてしまい……いやはや、自分がこれ程くじ運の悪いとは」


「お気の毒に、そんなくじ運の悪い門兵さんにいい事がありますように」


 フィーナは門兵の手を握り、数枚の金貨を渡した。そして口の前で人差し指を立て、腹黒スマイルを浮かべる。


「おっほう。これはこれは、良いご加護がありそうです」


 門兵はニヤニヤと笑い、懐に金貨をしまった。これでこの門兵は、アメラの事などすっかり忘れるだろう。貴族が門を先んじて通るためによく行う、所謂「袖の下」だが、その相場は小遣い程度の微々たるものである。

 しかしフィーナが渡したのは金貨を数枚。袖の下としてはあまりに大き過ぎる額は、門兵の表情筋をくったくたに緩めた。今頃脳内では、この金をどう使うか思案しているに違いない。


「それじゃ、通りますね。仕事熱心な門兵さん」


「ははっ、どうぞどうぞ。明日も熱心に門をお守り致します」


 今後、この門兵は積極的に門の仕事に励むだろう。明日もと口にしたことから、その傾向が窺い知れる。

 フィーナ達はニヤケ顔を作る門兵を背に、街に入った。



「フィーナ、あなた悪どくなったわね……」


「これくらいみんなやってるよ、母さん」


「そうなの? 少なくとも、私がフィーナの歳の頃は考えつきもしなかったわ」


「王都に住むとね……色々と荒んでくるんだよ……」


 フィーナはキャスリーンの貴族問題を思い浮かべ、嘆息しながら言った。

 街には人通りがほとんど無く、皆、大会を観戦しに行っているのだろうと予想できた。街にある店も全て休業中である。今頃は露天商としてたくさんの客を相手に、商いをやっているのだろう。


 機関につく頃には、アメラはレーナの背中で寝息を立てていた。ドラゴンの時は血みどろの接戦を繰り広げていたのだ。疲れているのは当然のことだろう。


 フィーナ達は寮へと入り、フィーナは私室へと三人を先導する。

 教官であるフィーナは、通常、機関に所属する魔女よりもいい部屋が与えられていた。イーナとデイジーも同様である。フィーナの部屋は角部屋で、イーナの部屋はフィーナの隣り、デイジーの部屋はフィーナの部屋の廊下を挟んだ向かいである。

 フィーナは部屋の鍵を開け、レーナ達を招き入れる。それなりの広さがあるので、レーナ達がいても、手狭には感じない。


「さて、これからどうするの?」


「そうね……一先ずここに置いてもらってもいいかしら? 大会が終わったら、レンツに連れて帰るわ」


 大会後は七日目のお祭りの後になる。箒で飛んで帰ることになるだろうが、途中、村や町もあるので、適度に休憩を挟めば、股の痛みは別として、レンツに帰り着く事は出来るだろう。

 いや、寧ろ堂々と陸船で帰ることもできる。アメラはフィーナの妹だとすれば、探りを入れてくる者もいないだろう。だが、そうするとアメラの言語能力や歩行能力の言い訳も考えなければならない。

 そして、未だアメラの事を知らないイーナやデイジー、リリィといったレンツの面々全員にも説明しなければならない。面倒である。いっその事、レーナの隠し子設定を作ってしまおうか……。


「提案」


 フィーナが考え込んでいると、ドナがピシリと手を上げた。


「ここに残ってアメラを教育する」


 どうやらドナは、王都、正確にはフィーナの部屋に残り、アメラの言語、歩行能力を怪しまれない程度に教えてやった方がいいと考えているようだ。


「現状すぐ動くのは得策では無い。少なくとも魔女達が各地の村へと帰ってからの方がいい」


「そうね。今はあまりにも魔女の数が多すぎるわ。変換の儀の場にいた魔女達がアメラを見ているかもしれないわ。もし、その場合になると、私の娘という言い訳も苦しくなるわね」


 変換の儀の場には、召喚戦に出場した魔女のしか立ち会いできない。ドサクサに紛れて脱出してきたが、よく考えれば、疑問に思う魔女がいてもおかしくは無い。あの場で気付くような鋭い者がいなくて助かったが、後々考えると、あれ?と思われる可能性はあるはずだ。


「でも、ここは機関だよ? ひっきりなしに魔女が出入りするし、大会に出てる魔女も多いよ。そんなに長くは匿えないよ」


「……考えはある」


 フィーナはドナの考えと言うものを聞いて、頭を抱えた。達成するにはかなり困難だと思われた。しかも、この考えを達成するには、イーナとデイジーの協力が不可欠で、アメラにも頑張ってもらわなくてはならない。


「面白そうね……なんだかワクワクしてきたわ」


「姉さんとデイジーは気が重くなるかもね……」


「それより、重大な事実が発覚した」


「なんですか? ドナさん」


「陣地争奪戦を忘却していた」


「「あ!」」


 フィーナとレーナは顔を見合わせ、次にドナを見た。今から行っても間に合うか確認しようとしたのだ。といっても、アメラを残して行くわけにはいかないのだが。

 ドナは諦めよう、と言わんばかりに首を横に振った。


 その頃、会場では【陣地争奪戦】始まりの合図が鳴っていた。



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