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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
104/221

103『再会』

 

 大会三日目、医療班の面々は顔に疲れを残しつつも、きっちりと時間通りにやって来た。今日が狩猟大会の最終日である。最終日は狩りをする時間はほとんど無く、午前中で終了となる。

 参加者の顔色にも、疲れが見え隠れしているが、やる気に満ちた、気合いのこもった表情をする者も多くいた。

 大会中に狩られた魔物の素材は、魔術ギルドや王都の商会が、通常の二割増しの値段で購入すると決めているため、既に優勝には手が届かないような下位の者でも、積極的に参加するようだ。

 そのため、大会三日目の今日も、初日、二日目と変わらず盛況である。 


「フィーナ教官! 今日は私達に任せてくれませんか?」


 仮設医療所に到着して、さて準備を始めようと、フィーナ達が行動を起こそうとした時、機関の魔女が他の医療スタッフを引き連れて、申し出てきた。


「フィーナ教官、それにイーナ教官とデイジー教官も、明日からの魔術大会に出場するんですよね? それを聞いて、皆で話し合って決めたんです。今日は私達に任せてもらって、フィーナ教官達はゆっくり身体を休めて、明日に備えてもらおうと」


 医療スタッフ達が任せてくれ、と言わんばかりに頷く。そこにはハングの姿もある。


「いいんですか? 三人も抜けると、凄く大変になりそうですけど」


「この二日間、フィーナ教官達の治療をこの目で見てました。とても参考になりましたし、自分の技術もついたと実感しています。フィーナ教官達が抜けても、私達だけでうまくやってみせます! それに、今日は狩猟大会最終日……午前中だけです。短い間なら、医療班の全員で頑張れば、大丈夫だと考えています」


 医療班のスタッフ達は、技術や知識を盗み、互いに切磋琢磨していたらしい。みな自信に満ち溢れた表情をしていて、フィーナは心強さを感じた。


「……わかりました。お言葉に甘えて、私達は休みます。頑張ってくださいね」


「はい! フィーナ教官も明日からの魔術大会、頑張ってください! 応援します!」


 周囲から恥ずかしくなるような声援を受けながら、フィーナ達は仮設医療所を後にした。応援されているのならば、格好の悪い所は見せられないと、明日の大会に珍しく意気込むフィーナであった。



「どうする? 時間が出来ちゃったけど」

 

 フィーナ達は急にできた暇をどう潰すか思案していた。


「露店巡りでもする?」


 こういう時、大抵良い提案をするのがイーナである。


「串焼き食べるー」


「デイジー、朝ごはん食べたでしょ。食べ過ぎてお腹壊すよ」


「へーき、へーき。お腹壊したら、フィーナがお薬作ってくれるから。ね?」


 イーナは深いため息をつき、デイジーの食欲に呆れた。

 デイジーは常にフィーナ達の倍以上の量を一日に食べている。フィーナはこれを、特殊魔法による弊害と推理したが、デイジーは「美味しい物を今までより多く食べられる」と言って喜んでいた。


 食欲旺盛なデイジーに釣られるように、露店巡りを開始したフィーナ達は、ある人物と出会った。


「あ、メイだ。メイー!」


「フィーナ! それにイーナとデイジー! 捜してたのよ」


 メイは両手に露店で買ったと思われる品を大量に抱えており、フラフラとしながらフィーナ達に近寄ってきた。


「捜してたって? 取り敢えず荷物持つよ」


「え、本当? ありがとう!」

 

 メイはフィーナ達と変わらないくらい小柄だ。今にも荷物に潰されそうなメイを見ていると、危なっかしくて見ていられなくなってしまう。


「ガオ、お願いね」


 もちろん、か弱いフィーナは自分で荷物を持つ気など毛頭ない、全てガオの腹の中へポイである。力自慢のデイジーも、今は食べ物で両手が塞がっているため、持つことは出来ない。

 ガオは文句も言わず、メイの荷物を次々と飲み込んでいった。


「便利な使い魔ねー。ていうか、私はフィーナが持ってくれるのかと思ってたんだけど……」


「え? こんなにいっぱい持てる訳ないじゃない」


「そりゃそうだけどさ……いや、まあいいよ」


「そう? ところでメイ、なんでこんなに荷物を持ってたの? 全部メイが買ったわけじゃないでしょ?」


 荷物の中には同じものがいくつかあった。この荷物が全てメイの物だとしたら、同じものを何度も買ってしまうような、超天然という事になる。

 メイは高級魔道具や発明品を目にすると、我を忘れて頬擦りする……まではいかない変人だが、普段はいたって真面目な魔女である。


「あーこれはね……頼まれたものなのよ」


 メイの愛想笑いを浮かべつつ、頬を掻いた。その表情でフィーナは何となく悟った。勘が鋭いデイジーも一発で悟ったようである。メイの表情はわかりやすい。顔に直接書いてあるようだ。


「メイ……」


 フィーナは声をかけようとしたが、何と声をかけたものか、と悩んだ。フィーナは現在の状況とメイの表情から、メイは誰かにパシリ扱いされていると予想した。こういう問題はデリケートである。フィーナにとって、メイの置かれている背景というのは、ある程度の予想と、メイ本人から聞いた伝聞でしか情報は無く、簡単に手出し出来るものではない。

 しかし、メイは短い期間だったが、共に旅をした仲である。フィーナとしても出来れば助けてあげたい思いである。


「悩みがあるなら相談に乗るよ? 私達、友達でしょ?」


 結局フィーナが捻り出した答えは、ありふれた言葉であった。


「……ありがとうフィーナ。相談か……乗ってもらおうかな」


 この時フィーナは、ありふれた言葉でも、思いが籠もっていればいいのだと、新たな教訓を得るのだった。




 フィーナ達はメイを連れて、王都郊外の公衆浴場へ来ていた。レンツの技術提供と、結晶魔分のおかげで、大浴場も簡単に作れるようになり、王都にもいくつか浴場が作られるようになっていた。平民であっても利用できるほどには安価であり、現在は多くの王都に住む人々が利用している。

 レンツと違って、ここはちゃんと男湯と女湯に分かれている。しかし、女湯の番台は雇われの魔女であるため、下心まる出しな男が覗きに来たとしても、尻に火がつくような目に遭って、逃げ帰るだろう。本当に尻に火がつくのかもしれないが。


「ここで相談するの?」


 メイは他人の目が気になるのか、少し嫌そうである。しかし、裸の付き合いで親密になれるとはよく言ったもので、実際、レンツでは浴場が作られてから、あまり話さないような人とも不思議と会話が弾んだものだ。

 メイとは既に友人なので、変に気兼ねせずに話せるが、フィーナ達はここのとこ、ゆっくりとお湯に浸かることも無かった。なので、メイの相談に乗るついでに、湯に浸かってさっぱりしたいというのが本音である。


「相談事は浴場で、最近の流行りだよ」


「「「そうなの?」」」


「……そうだよ」


 もちろん大嘘である。しかしイーナやデイジーまで騙すことになってしまった。イーナとデイジーのピュアな心は、フィーナの荒んだ心を容赦なく罪悪感で占め上げた。


「まあ、ゆっくり湯船に浸かりながら話そうよ」


「いっちばーん」


「デイジー! 走っちゃダメだよ!」


 真っ先に服を脱ぎ散らかし、走り出すデイジーを追いかけるようにして、イーナが後を追う。メイも意を決したように、湯船へ向かった。フィーナも見習い魔女服をカゴに入れ、湧き立つ気持ちを胸に湯船へ向かった。フィーナのカゴの隣にも、レンツの見習い魔女服がカゴに入っていたが、早くお湯に浸かりたいフィーナは、特に気にすることもなかった。

 しかし、フィーナはこの後、もっと注意するべきだったと後悔することになるのである。


 

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