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独りでに針は歩く

作者: 希罪


2015年書き初め.

少女は片手に持った液晶画面を名残惜しそうに見つめていた。無機質な金属は、冷徹にも少女の手からぬくもりを奪い去ってゆく。だんだんと鈍くなっていく感覚。それは手のみならず、少女の中心を司る部分もじわりじわりと侵食する。

突如、指先に針で刺されたかのような痛みが走る。しかしそれは痛みではない。少女の指から液状化されたそれが、携帯の暗い画面へと伝い、僅かな光沢を齎す。少女は気付いた。雪である。それも、十分に水分を含んだみぞれであった。

少女はこの時初めて気付いたのだ。時がもうこんなにも回ってしまっていたことに。十二までの刹那。短調なサイクルは少女が眠っている間も絶え間なく続いていたのだ。果たして時間は平等なのか不平等なのか。その答えを考える間にも、またその答えが正解なのかを考える間にも針は独りでに歩いている。

「君と随分と長いこと会えていない。それどころか、見かけることすら許されていないのかもしれない」

少女は虚空にこだまを投げた、つもりであった。しかし何層にも重ねられた鼠色の雲が立ちはばかっている。いくら背伸びをしても、少女にはその全美の構えを壊すことはできなかった。

少女の言った"君"という存在は、携帯のデータに保存されていた。あくまでも履歴という、何とも型式的な形によって。少女にとってはその一つの句読点さえも、二人が同じ言葉を共有した証として、支えになってきたのだ。最終日付は皐月の頃。ちょうど木の葉が生き生きと呼吸を始める季節のこと。その証はとうに埋もれていた。少女のデータにはまだまだたくさんの履歴が日々更新されていく。

「君の新鮮な想いに、私はいるのだろうか」

その問いに、"君"の返答を待つ必要はない。

「可能性は零に限りなく近いわ。きっと記憶の履歴として私はいるの。もう寒いわ。こんな冷たい所にいるのは散々よ」

凍てついた指をゆっくりと動機付け、少女の携帯のデータから"君"の文字が消し去られた。今日、野ざらしとなった褐色の枝が今にも折れそうに揺らされていることに、少女は気付いていたのだ。渇いた風が、少女の髪を艶やかに靡かせる。

少女自身から"君"が存在しなくなったかというと____また、独りでに針が歩くから。


fin.



私は恋愛にめっぽう無縁な訳ですが、書くのは好きです。

最後まで愛読いただきありがとうございました。

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