再戦
謙介は格納庫を開いていた。
ストライカーを眺める。
これは自分の分身なのだ。
所持しているパーツや武装を全て売り払った。それからショップに並ぶ
パーツを確認していく。
自分はどんな人間だろう
そんな事を考えながら、パーツを選んでいく。
ダンスランサーの言っていた信念というものが何なのかはわからない。
ただ、自分らしくありたいと思った。強さだとか使い勝手だとか、そんな事ではなく、自分らしい機体で
同じ時間を過したい。謙介は心からそう思った。
ひとつひとつ、時間をかけて選んでいく。それは自分自身と向き合うような気分だった。
やがて、新生ストライカーが完成した。上位のパーツではないが、今はそれでも良かった。いや、むしろこの機体が今の自分に合っている気さえしていた。
どれだけ負けても構わない。
楽しい時間にしよう。
謙介は対戦画面を開き、あの名前を探した。
築50年の木造家屋。庭に面した縁側で、小高 一成は竹刀を片手に雲を眺めていた。その頭髪は白くなってはいるが、身体は鍛えられた筋肉で覆われており、年齢を超越している。
「そろそろ潮時かもしれんな」
孫の付き合いで始めたMETAL HEARTSだったが、その孫はとっくに辞めていた。新人を捕まえては、指導するのを密かな楽しみにしていたが、そろそろそれも終わりにしようかと考えていたのだ。
竹刀を脇に置き、そのままにしておいたMETAL HEARTSの画面を覗いて見た。
「ケンくんから対戦を申し込まれています。受けますか?」
昼前に対戦した相手だ。小高は対戦相手の画面を開いてみた。
「ほう……」
思わず声を上げた。先程とは違う機体がそこにあった。
いくらか細身になってはいるが、余計なものを省いた身体パーツは装甲に厚みを持たせており、むしろ屈強に見える。右手には柄の両側に刃のあるツインブレード、左手には三角形で両辺が緩やかなカーブを描く、いわゆるシールドを装備している。
「少しはマシになったな」
小高は嬉し気に目を細めて、新人の対戦を受け入れた。
人工的な空の青と大地の土色の荒野に、ダンスランサーこと小高の操るサーチライトは立っていた。
この風景を見ると、ダンスランサーはあの日の辛い記憶が蘇る。 ゲームで初めて涙を流した、あの悲しい日を。
ダンスランサー「何故、黒に拘る?」
彼方に立つ、対戦者へと向けてメッセージを送った。機体は変わったが、その色だけは変わっていなかった。
ケンくん「喪に服す為です」
ダンスランサー「ツインブレードにした理由は?」
ケンくん「ふたつの想いです」
ダンスランサー「シールドは?」
ケンくん「守りたいものがあるからです」
まるで的外れな答えにも思えたが、その言葉の裏に秘めた決意を、ダンスランサーはしっかりと受け止めていた。
ダンスランサー「信念か、哲学か、あるいは戯れ言か……見極めてやろう」
サーチライトをストライカーへと向けて突進させる。前回と同じように。
しかし、ストライカーも同じく突進を始めていた。その速さは、先程とは比べものにならないほどのもので、気迫さえまとっているようにさえ感じられた。
サーチライトの槍がストライカーへと振り下ろされる。その刃をシールドで受け止めたストライカーは、ツインブレードで振り払う。
すかさずサーチライトは槍の連撃を繰り出すが、それより先にストライカーはブーストで後方へ退避していた。
「逃がさんよ」
ダンスランサーは更に追撃の槍を放つ。
彼が何故ダンスランサーという名にしたのか。
彼自身が踊るように槍を振るうわけではない。彼の槍の連撃を受ける相手機体がまるでダンスをしているように見えたからだ。
ゲーム開始時から、彼は槍一本でこの戦場を駆け抜けて来た。誰よりも槍の使い方には長けているという自信があった。しかし、その槍を持ってしても守りきれないものがあった。
ライムとの最後の約束
そのために第04小隊を去り、そして今、その第04小隊の新人の相手をしている。
ゲームとはいえ、彼なりに感慨深いものがあった。これが最後になるかもしれない。その最後の1人があの第04小隊の新人だと言う事に、わずかな運命を感じていた。
追撃の槍を、ストライカーはツインブレードを回転させて防いだ。回転させているブレードは、それ自体が盾のようになり、サーチライトの槍を跳ね返す。
「面白い」
サーチライトは渾身の一撃を放つべく、その光る槍を構え直した。
対峙するストライカーはシールドを構える事もせず、ただサーチライトの前に立っていた。
ケンくん「第04小隊に戻って下さい」
そんなメッセージが入った。
ダンスランサー「戻るつもりはない」
ケンくん「あなたが必要な人がいるんです」
ダンスランサー「老兵は消え去るのみだよ」
ケンくん「僕が勝ったら、戻ってもらえますか?」
ダンスランサー「では、戻る事はないな」
そのメッセージを入力した直後、サーチライトの槍がストライカーへと放たれた。その槍を自ら受けるように突進したストライカーは、ツインブレードごと右腕を破壊されてしまった。
ぶつかり合う機体と機体。この至近距離では、槍は振るえない。距離を取ろうとするが、ストライカーのブーストに押され、離れることが出来ない。
「捨て身か」
小高の声が高揚していた。
しかし、ストライカーの武器は破壊した。ここから逆転などあり得ない。ダンスランサーはストライカーのブーストが途絶えるのを待った。
やがてストライカーのブーストが切れ、ふたつの機体は動きを止めた。
「ここまでか」
横一線に振るったサーチライトの槍を、ストライカーがシールドで弾き返した。
しかし、それもダンスランサーの想定内。高く跳ね上げられた槍先を、そのままストライカーへと振り下ろした。
画面が衝撃で揺れる。
画面の中に、その胸に槍を突き刺されたストライカーが見えた。たった数時間で、ここまで成長出来たのには驚いた。しかし、まだまだ攻めが甘い。
しかし、ダンスランサーの画面に
コア破壊のアラートの文字が……。
サーチライトの胴体に突き刺さった、ストライカーのシールド。
正確に言うと、シールドから突き出した金属の杭がサーチライトのコアを捉えていた。
「パイルバンカーか……」
そう囁いたダンスランサーこと、小高一成の声は感嘆と共に、嬉しさも含まれているように聞こえた。
ストライカーのシールドは、ただのシールドではなかった。その内側に小型のパイルバンカーが仕込まれていたのだ。
結果は判定へと持ち越された。
僅かな差で、サーチライトの槍が速さで勝っていた。
ダンスランサー「楽しませてもらった」
ケンくん「次は勝たせて貰います」
ダンスランサー「いつでも相手になろう」
そのメッセージを最後に、画面はフェードアウトしていった。
「まだ辞めれんか」
再び竹刀を手に取った小高は、気合いの一声と共に、その竹刀で宙を切り裂いた。