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METAL HEARTS  作者: 主神 西門
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巴御前



「そのうち、ゆっくり話しがしたいな。君はあんな男の下に置いておくには惜しい人材だ」


そう言った小高は、未だフロアの奥にひとりの立つ長谷川へと向けて笑顔で会釈した。それに対して、長谷川も笑顔で会釈を返す。こちらの話しは聞こえていない様だ。


「どういった経緯で結城と組んだかは存じ上げませんが……」


そこで再び神山 旧子が口を開いた。


「理想を押し通せる程、この世の中は甘くはないと私は考えています」


その神山 旧子の言葉に、小高は一瞬目を細めた。


「そんな事は百も承知。体の髄まで染み渡っている。だからこそ、その青臭い理想に掛けてみたくなった。ただ、それだけの事だよ」


「失礼いたします」


そう言って下げた頭を上げた刹那、神山 旧子の視線が小高の後方に控えていた柊 紫乃を捉えた。その瞳は敵意ではなく、どこか寂し気なものを漂わせていた。それに気付き、旧子は咄嗟に目を逸らした。


まだ敵意の方がましだ。


揺れる心を悟られまいとするかの様に、神山 旧子は凛として歩き出した。


「やはり巴御前だったか」


細めた目の下で、小高の口は笑みを浮かべていた。


上杉の案内で小高と結城大地、そして柊 紫乃はエレベーターへと乗り込んだ。上杉は階数のボタンを押す代わりに、階数版の横に設置されている四角いセンサーへと胸ポケットから取り出したカードをかざした。ドアが閉まると同時に、音もなくエレベーターは上へと加速を始める。


これから向う先に待ち構えているのは、天国か地獄か。


どちらにせよ、腹を括るしかない。つい昨日までは想像さえしていなかった状況が、今現在、現実として繰り広げられている。結城 大地は戸惑いながらも、この好機に感謝していた。いや、感謝するべきは……。


隣に立つ柊 紫乃へと自然と目を向けていた。正面を見据えて立つこの女性こそが、全てを動かしている。自分が人生を悲観し、ただ華神への恨みの中にいる間にも、自らの時間を犠牲にして動いていたのか。


心強く思う反面、自分の弱さを大地は恥じずにはいられなかった。


やがてエレベーターは動きを止めた。ゆっくりと左右に開いたドアの向こうには、壁一面がガラスになっている広い空間が拡がっていた。


入って右の奥の壁にはリトルワンの社章が掲げられ、その前には黒く重厚感のあるデスクが据えられている。


更に、その前には同じく黒いテーブルとソファーがあり、そのソファーにひとり、そして窓際にひとり、外に拡がる景色を眺める男の姿があった。


小高達の気配に気付き、窓際に佇む男が顔を向けた。後ろ姿で見せていたボサボサの黒髪とは対照的な色白の整った顔をしており、それを引き立てるかのような黒縁の眼鏡を掛けている。


「意外と早かったね」


小高に臆する事もなく飄々と言い放つ。


「意外な人物にもあったがな」


そう言って小高は豪快に笑った。


「アマトウだよね。その意外な人って」


ソファーの男が振り向きもせずに尋ねた。


「さすがは天才ハッカー!お見通しだな」


小高がまたも豪快に笑った。


「見かけたからね。それだけ」


そう淡々と答えたソファーの男は、テーブルに据えたノートパソコンの画面から目を離す事なく、キーボードに指を這わせていた。


「この2人が誰だかわかるか? 」


大地へと振り向き、小高が問う。


「メタナイトと……」


ソファーの男を大地は指差す。その指をゆっくりと窓際にいる長身の男へと向けた。


「ベルフェゴールだね?」


「人を指差さないで欲しいね」


その黒縁眼鏡を人差し指でツンと押し上げ、ベルフェゴールと呼ばれた男が苦笑いを浮かべた。


「確かに失礼だったな。しかし、君達の態度も小高会長に対して失礼だと思うが?」


少し冗談めかして大地が言った。


「そうかな?僕達は商売でここに来た訳でもないし……」


歩き出したベルフェゴールは、メタナイトの隣に身体を投げ出す様に座った。


「小高さんは確かにこの会社では偉い人かもしれないけど、外に出ればただの人。ましてやMETAL HEARTSでは、同じプレイヤーですよ」


「なるほど、そりゃそうだ」


小高の笑い声が響く。


「しかし……」


「構わんさ。METAL HEARTSの為の集まりだからな」


戸惑う大地の肩をポンと叩いた小高が言った。


「そう。METAL HEARTSの為にですよ。結局は大地さんの為にもなる訳だから感謝して欲しいぐらいです」


ベルフェゴールの言い方は横柄そのものだが、事実でもある。この局面を打開する為には、彼等の力は必要だ。見栄やプライドなど捨ててしまおう。


「ありがとう。よろしくお願いします」


大地は2人の若者へと向けて、深く頭を下げていた。


「まぁまぁ、皆さん座って下さい。まだ来ていない人もいますし」


膠着した雰囲気を消すかの様に、上杉が笑いながら間に入った。


「まだ他にも?」


顔を上げた大地が驚いている。


「見つけた」


そう呟やいたメタナイトの周囲に、その部屋のメンバーが集まった。パソコンのモニターには何処かの建物のロビーが映し出されている。


「これは……」


大地は見覚えがあった。


「そう。これは華神の監視カメラの映像だよ」


メタナイトがあっけらかんと答えた。


「誰を捜してた?」


大地が続けて尋ねる。


「こいつ」


メタナイトが画面の一点を指差した。そこにはカジュアルな服装をした男の後姿があった。華神の社員ではなさそうだが……。そう思った大地の顔が、振り返った男の顔を見て驚愕に変わった。


「真導君!」


「そう、真導 暁。Demiourgosメンバー、ジェインでもあるけどね」


メタナイトの言葉に大地は顔色を失った。





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