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METAL HEARTS  作者: 主神 西門
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ささやかな願い



昨夜から降り続く雨は、朝になってから幾分小降りになっていた。

父親が仕事へと向かう後ろ姿を、自室の窓の隙間から謙介は眺めていた。いつもと変わらない風景。彼女の死は、いったい何を変えたのだろう。こうやって忘れられて行くのだろうか。


今日も学校を休んだ。それが悪い事だとは思わない。全ての事に、意味を見出せなくなっていた。


METAL HEARTSの世界へと入ってみる。


ケンくん「おはようございます」


部隊掲示板へと書き込んでみる。この時間にログインする人間はどれくらいいるのだろう。通勤や通学の途中、あるいは……。


Cローズ「おはよう♫今日もサボり?」


Cローズからの返事が入った。彼女は確か入院中だったか。


ケンくん「はい。サボりです」


Cローズ「もったいないね。元気なのに」


ケンくん「元気じゃないです」


Cローズ「身体は元気なんでしょ」


ケンくん「ローズさんはいつ頃、退院出来るんですか?」


Cローズ「まだわからない」


病人に対して悪い事を聞いてしまったかもしれない。


ケンくん「退院したら、何がしたいですか?」


Cローズ「そうだねぇ……」


ケンくん「美味しいもの食べたいとか?」


Cローズ「公園に行きたい」


ケンくん「公園?」


Cローズ「うん、子供の頃に遊んだ公園。そこでね、誰かとお喋りしたいな」


謙介は戸惑ってしまった。今はそれさえも出来ない状態なのだろうか。

どう答えればいいのだろう。


ケンくん「僕がお相手しますよ」


Cローズ「やったぁ♫約束だよ」


ケンくん「はい。約束です」


これで良かったのだろうか?安易に約束をしてしまった。ローズがどこにいるのか、本名さえわからないのに。謙介は少し自己嫌悪になっていた。


アスク「お邪魔します」


唐突にコメントが入った。


Cローズ「わぁい!新人さんだ!いらっしゃい♫」


ケンくん「いらっしゃい」


反射的にそんなコメントを入れてしまった。自分も昨日入ったばかりの新人なのに。コメントを入れた後、謙介は少し気恥ずかしくなってしまった。


アスクの機体を確認する。


全身を白で統一したその機体は、中量級と言った感じだ。細くも無く、太くもないシルエットを持つその機体が装備する武装は右手にブレード、左腕にパイルバンカー。背面にチェーンガンとなっている。とても昨日今日始めたプレイヤーだとは思えない。


ストライカーも強化しないと。

Kの正体を掴むために始めたゲームではあるが、この部隊に置いてもらう以上、みんなの足を引っ張るわけにもいかない。


Cローズ「かっこいい機体だね!どこかの部隊にいたの?」


アスク「いえ、1人でやってました」


掲示板ではローズとアスクの会話が続いている。今のうちに機体を整備しておこう。謙介は格納庫の画面を開いた。


まずはブースターを交換する。逃げ回るつもりはないが、これは必要だと昨夜の部隊戦で痛感した。ブースターにも2種類あり、ダッシュ力はあるが持続性に欠けるものと、その逆でダッシュ力はそれ程ないが持続力のあるもの。謙介は悩んだ末に後者を購入して装備した。それから、ロングレンジライフルをマシンガンへと変更した。威力は小さいが、リロード時間が無く弾数が多いのは魅力だった。


「あとは……」


機体のカラーリングを変更が残っている。初期設定のグレーのままだったからだ。しかし、なかなか決まらない。自分の色なんて考えたこともなかったから。


謙介は対戦画面を開いた。

変更した装備の使い勝手を試してみたかった。幾つも並ぶ対戦候補の中から1人を選ぶ。


ダンスランサー 「サーチライト」


主装備は槍のみのようだ。謙介はこれなら何とか勝てる気がした。


ケンくん「よろしくお願いします」


メッセージと共に対戦を申し込む。


ダンスランサー「ライムのところの新人か」


意外な答えが返って来た。ライム第04小隊を知っているのか?その疑問をぶつける前に対戦画面へと変わってしまった。ステージはいつものドーム状のコロシアムではなく、どこまでも続く緑の草原だった。その中に立つ黒い機体。装甲の縁に赤いラインがアクセントとして入っている。謙介がカラーリングしたストライカーだった。


そして対峙して立つ、光る槍を構えたシルバーの機体。これがダンスランサーの操るサーチライトだ。


GO!


カウントダウンが終わった画面に、赤い文字が浮かんだ。


同時にサーチライトがストライカーへと向けて一直線にダッシュを仕掛けて来た。謙介はマシンガンを連射する。サーチライトは避ける訳でもなく、真正面で弾丸を受けながら突進して来る。その姿に思わず謙介はマシンガンを連射しながら、ストライカーを右へと旋回させた。


放たれる弾丸は孤を描きながらサーチライトへ向かうが、機体をかすめながら草原の彼方へと消えて行く。


サーチライトが徐々に距離を詰めて来ている。スピードは相手が上のようだ。謙介はストライカーを停止させ、サーチライトを真正面に捉えてマシンガンを撃ち続けた。


サーチライトは、やはり避けるわけでもなく、全身に弾丸を浴びながらストライカーへと向かって来た。


マシンガンの残弾カウンターがかなりの勢いで減って行く。いくら威力が小さいとはいえ、これだけの弾丸を受ければ、それなりのダメージは受けているはずだ。しかし、サーチライトのダメージカウンターは半分も減ってはいない。


「これなら……」


ストライカーはブレードを構えた。


サーチライトは目前に迫って来ている。対戦相手を選択する画面で見た時より、かなりの迫力がある。選択を間違ったかもしれない。


ダッシュを緩める事なく、サーチライトはその光る槍をストライカーへと突き出した。


ブレードで受け止めるストライカー。だが、衝撃と共に後方へと弾き飛ばされた。


重い。


スマホに衝撃など伝わるはずもないのだが、その瞬間に謙介はそう感じた。体制を整える間もなく、矢継ぎ早にサーチライトの槍がストライカーを襲う。


反撃のブレードを振り抜いても、それを素早くかわし、更なる槍が襲って来る。ストライカーのダメージカウンターはいつの間にか半分以下になっていた。


左腕撃破!使用出来ません。


アラートは鳴り止まない。


右腕撃破!使用出来ません。


ついにダメージカウンターは残り僅かとなっていた。あと一撃で終わる。


しかし、そこでサーチライトの槍による猛攻が止まった。


両腕を失い、戦闘不能となったストライカーをサーチライトは槍を構えたまま見下ろしていた。


ダンスランサー「お前は何がしたいんだ?」


メッセージが入った。

質問の意図が今ひとつわからなかった。


ケンくん「ゲームです」


とりあえず、そんな言葉を返した。


ダンスランサー「たかがゲームだが、その機体を見ればお前がどんな人間か分かる」


ケンくん「どんな人間だと?」


ダンスランサー「上辺だけで、中身が伴っていない。信念のない奴だ」


信念?ゲームにそんなものが必要なのか?ストレス解消。暇つぶし。ゲームをやる理由なんて、そんなものだろう。


ケンくん「ゲームに信念なんて必要なんですか?」


ダンスランサー「ゲームだけの事を言っているわけではない」


尚の事、嫌な感じだ。


ダンスランサー「私は私だ。コンピュータではないんだ」


続けてメッセージが入る。


ダンスランサー「半端な気持ちなら、ライム第04小隊を去れ」


ダンスランサーとは何者なのだろう。何故、そのようなメッセージを書き込んだのか?どのような関わりがあるのか?


謙介が質問のメッセージを入れようとした時、サーチライトの槍がストライカーの胴体を貫いた。


コア破壊確認。撤退します。


ゆっくりとフェードアウトする画面の中に、サーチライトはその姿を消していった。




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