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METAL HEARTS  作者: 主神 西門
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それぞれのリアル



「Kと言うプレイヤーを知りませんか?」


謙介は部隊掲示板に書き込んでみた。


スレンダー「知らん」


ミット「見た事ないな」


やはり知らないらしい。Kとは何者なのか。この部隊を指名して来たからには、この部隊に関わりのあるプレイヤーであることには違いないだろうが。


Cローズ「プレイしてたら、そのうち会えるよ」


イース「すまん。急用が出来て参戦出来んかった」


ムーン「忘れてた」


そう言えばイースの存在を忘れていた。


Cローズ「イースさん、ドンマイ♫」


スレンダー「うちはリアル優先だから、構わんよ」


イース「遠回しに戦力外通告してないか?」


ケンくん「考え過ぎですよ」


ミット「新人くん、お前が言うな」


ケンくん「すいません」


何気ない会話だが、少し嬉しく思えた。この2週間は親とでさえ、まともに会話していなかった。リアルでは皆が気を遣っているのがわかって、それが余計に辛かった。


ケンくん「ところで、皆さんは何故METAL HEARTSを始めたんですか?」


ありきたりだが、少し聞いてみたかった。


スレンダー「ストレス解消」


ミット「暇潰し」


イース「同じく暇潰しだな」


ムーン「暇潰し。今はアルセ待ち」


Cローズ「生きてる証し」


生きてる証し?Cローズの答えに、謙介は違和感を感じた。


イース「お前ら、他にやる事ないのかよ」


ミット「あえて言おう。イース、お前が言うな」


スレンダー「つまり暇人の集まりってことだ」


ムーン「その暇人の大将=スレンダー」


とりとめもない会話。でも、それが相手が人間である証拠。コンピューターを相手にしているわけではない。この小さなディスプレイの向こうに、確かに人間がいて、今こうして会話しているのだ。それぞれのリアルを生きてる人間なのだ。ここでは年齢も性別も関係ない。それぞれの理想のままに時間を共有している。謙介はそう思えた。



アルコォルを操る神山旧子(かみやまもとこ)は、会社のエントランスに立っていた。降り続く雨に、無意識に溜め息をついた。

天気予報で既に知ってはいたものの、止みそうもない雨にやはり憂鬱な気分になる。


最近は仕事終わりに休憩室でMETAL HEARTSをすることが日課のようになって来た。


「帰りますか」


諦めのこもった言葉と共に雨傘を開き、帰宅の途についた。23歳、フリーランスのSE。スレンダーな身体をスーツで包み、夜の街を歩き出す。

何の変化もない毎日。天気予報より予想出来る明日が、またやって来る。恋愛なんてする暇もない。


フリーランスなんて聞こえはいいが、実際はそんなに格好のいいものではない。ひとつの仕事をこなしながらも、次の仕事のオファーを取るために頭を下げて回る。仕事がとれなければ廃業だ。


バッグから軽い振動が伝わって来た。スマホのバイブが着信を伝えて来ている。画面に表示された名前に、少し顔が緩んだ。


「もしもし……元気にしとるよ。今?……仕事終わって帰っとるとこ。……大丈夫やけん。そんな心配せんでよかと…」


久しぶりの母からの電話に、自然と田舎の言葉に戻る。雨降りの中、地下鉄への道程が少しだけ楽しい時間となった。



「源太、早く風呂入っちまいな!」


「わかった!明日も雨だから仕込みの量減らすよ」


「そいつは任せる。どうせ市場も休みだしな」


高梨源太。大学を卒業後、実家の総菜屋を継いだ。商店街の中にある昔ながらの総菜屋だが、近くに大型スーパーが出来てからは、客足は確実に落ちていた。活気のない商店街の中にいると、自分自身を見ているような錯覚に襲われ、少し焦りを感じていた。


このままでいいのか?


それでも、何かを新しくやろうという気力もない。家業を継いだ事で両親が喜んでいることが唯一の親孝行だと自分に言い聞かせ、ただ毎日、黙々と仕事をこなしていた。


楽しみと言えば、同じ商店街の鰻屋のうな重を食べる事。あとはMETAL HEARTSでツッコミを入れることぐらいか。


源太は少し出て来た腹をポンと叩き、苦笑いして立ち上がった。


「暇人、風呂行きま〜す」


外を走る車の走り去る音が、まだ雨が止んでいない事を知らせてくれていた。


「今日も来なかったか……」


禁忌の月のムーンこと、月山 翔は自室のベッドの上で呟いた。


彼は、同じライム第04小隊に所属する「紅葉」を操るアルセを待っていた。大学受験の為にゲームを封印するとコメントを残し、暫くMETAL HEARTSには顔を出していない。

その際に預かったのが、禁忌の月が装備しているブレードだった。


「まぁいいか」


翔は対戦画面を開き、相手の選択欄をスクロールさせ、目を閉じて適当にタップした。


ピーナッツさん 「蒼弓」


画像の機体からもアーチャータイプだとわかる。


しかし……ピーナッツさんって……。そのHNにも興味を惹かれ、

翔は対戦を申し込んだ。


コメントもなく、画面は対戦ステージへと切り替わった。幾つもの廃墟となったビルが立ち並ぶステージ。

対戦相手の姿は見えない。まずは相手を探す事から始めなければならない。


翔の操る禁忌の月は、接近戦に特化して組み上げているので、レーダーの範囲はそれ程広くはない。とりあえずブーストダッシュで、機体をビルの間へと進めた。



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