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METAL HEARTS  作者: 主神 西門
19/93

援護射撃



赤紫の墜鬼の姿がはっきりと確認出来るまで接近したストライカーだったが、こちらに向かって来る赤い機体をも墜鬼の背中越しに捉えた。その機体を追うように、後方からミサイルが迫って来る。


向かって来る赤い機体は記憶が正しければ、法堂高虎というプレイヤーが操るスターライトディスティニー血潮と言う機体だ。銃火器は持たず、日本刀の様なブレードだけを装備した玄人という印象を受けたが。


血潮は真っ直ぐストライカーへと向かって来る。それを追うミサイルは、おそらくミットのデスクローナが発射したものだろう。


墜鬼はそれらに構う事なく、血潮と交差しても尚、疾走を続ける。狙いはデスクローナか?


ストライカーの目の前で、ミサイルが血潮を捕らえた。爆炎と煙が視界を遮る。墜鬼は?レーダーを見ると、既にデスクローナと交戦を開始しているようだ。謙介がレーダーに気を取られていると、煙の中から赤い影が現れた。肩に担ぐ様に構えていた日本刀を、まるでバットを振るかのようにストライカーを斬りつけて来た。謙介は咄嗟にシールドで防いだが、その衝撃で画面が揺れる。


「邪魔するな」


そんな強気な言葉が自然と出ていた。


法堂高虎「うちの隊長の相手するのは100年早いんだよ」


謙介の言葉が聞こえたわけでもないのだろうが、相手からそんなメッセージが入った。


ケンくん「わかってます」


そんな事は百も承知だ。それでも、戦ってみたかった。殲姫と呼ばれる沈黙の狂戦士と。


法堂高虎「なら、消えな」


血潮の更なる斬撃がストライカーへと繰り出された。


ツインブレードでなんとか血潮の斬撃を受け止めたが、反撃する余裕さえ与えられなかった。それ程相手の動きは速かった。血潮の連撃に、ストライカーを後退させていた。


血潮はデスクローナのミサイルを受けていながら、全くダメージを受けていないように見える。それだけ装甲が強固ということか。


そこで血潮の攻撃が止まった。


法堂高虎「装備の性能を自分の強さと勘違いするなよ、新人」


ケンくん「わかってます」


法堂高虎「それしか言えないのか?」


わかっている。格好だけの弱い存在で、感情だけで無謀な戦いを挑もうとしている事も。それでも……。


謙介はその問いには答えず、無言でツインブレードを構えた。


法堂高虎「新人相手に本気になりたかないんだが、仕方ないな」


血潮も日本刀を構える。互いのブースターが噴き上げる砂煙を視界に捉えながら、撃ち込むタイミングを探る。


ストライカーのブレードが先に動いた。その右斜め上から振り下ろされたブレードを、血潮は左腕で受け止めた。同時にストライカーの右腕を日本刀で斬り落とす。


法堂高虎「まず一本」


余裕の一言がメッセージ欄に流れ込んで来た。


謙介はストライカーのブースターを全開にして、血潮との距離を取る。

しかし、それ以上に血潮の動きは速かった。


ブースターの性能ではなく、動きを先読みされていたのかもしれない。血潮がストライカーの行く手を阻む。


法堂高虎「その杭は厄介だな」


パイルバンカー内蔵のシールドであることを法堂高虎は気付いていた。

経験の差を、謙介が痛いほど思い知らされた瞬間だった。


謙介が撃破覚悟の特攻を仕掛けようとした瞬間、右腕に火花を散らしながら血潮の赤い機体が弾かれた。


援護射撃だ。


狙撃手は誰かはわからないが、九死に一生を得たような気持ちだ。


逃げるか?撃ち込むか?


謙介はブースターの勢いに任せて、血潮へとシールドを向け突撃した。

逃げても仕方ない。せめて一撃だけでも加えて、他のメンバーに繋げよう。


やはり血潮は、撃破される程のダメージは受けていなかった。すぐに体制を立て直し、ストライカーのシールドを日本刀で叩きつけた。


ここまでか。


謙介が力を抜いた瞬間、日本刀を持つ血潮の右腕に火花が散り、その機体を弾き飛ばした。


法堂高虎「いい腕してるな」


流石の法堂高虎も、ブーストダッシュで離脱を開始した。1度だけならまだしも、2度も同じ箇所を狙い撃ちされたのだ。狙撃手から距離を取るしかない。離脱しながらも、法堂は狙撃手を探していた。レーダーにそれらしい機影は確認出来ない。それに気が付いたのは謙介も同じだった。


レーダーの上では、相変わらず敵も味方も、激しく動き回っている。


その状況の中で、血潮の右腕だけを狙い撃てる程の武装とセンサーを備えているのは誰だろうか。


メンバーの装備を思い出しながらも、謙介はストライカーを血潮の追跡に向かわせる。墜鬼はミットのデスクローナに任せておけばいい。

今は血潮との勝負を選んだ。


ふたつの黒い機体の攻防はまだ続いていた。しかし、どちらかと言えばムーンが猛攻を仕掛け、アランのシンドロームがそれを受ける形になっている。


「何だ、こいつ?」


禁忌の月の斬撃を、シンドロームはことごとくその2本のブレードで受け流すだけだ。まるで撃ち返しては来ない。


受けては距離を置き、禁忌の月が討ちこみ、シンドロームが受けてはまた距離を取る。それの繰り返しだった。しかし、ムーンは手加減しているわけではなかった。それを受ける流すこの相手は、やはりそれなりの腕があるのだ。


油断は出来ない。


しかし、いつまでもこの状態を続ける訳にもいかない。

だが、このスパイラルから抜け出す策も見つからない。


「あークソったれ」


苛立つムーンと対照的に、シンドロームは淡々と同じ事を繰り返している。


その均衡を一発の弾丸が砕いた。


禁忌の月の斬撃を受けようと構えたシンドロームの右腕に火花が散った。その瞬間を見逃す事無く、ムーンは禁忌の月のブレードを突き出した。


狙撃のダメージもあってか、シンドロームの右腕は、その一撃で破壊された。追撃のブレードをかわしたシンドロームは、ブーストダッシュで離脱して行く。


しかし、ムーンは追うことはしなかった。それよりも気になることがある。


「まさか……」


ムーンこと月山 翔は、急いで部隊のホーム画面を開いた。


翔はメンバーの参戦状況を確認した。


しかし、やはりアルセはログインしてはいなかった。


「じゃあ、誰だ?」


狙撃を行ったメンバーが思い当たらない。自分を含め、ケンくん、Cローズ共にブレードタイプで、狙撃出来る装備はない。他の3機であれば可能だが、それぞれが強敵と交戦中であり、離れた敵を正確に狙撃するような暇はないだろう。


そう、離れた場所から。


あれだけのダメージを、長距離から撃ち込めるのはスナイパー用のロングライフルしかあり得ない。そして、それが出来るのは……。


アルセの機体「紅葉」


だが、その期待はたった今、あっさりと幻となった。


「まぁ、いいか」


そう言いながらも、翔は明らかに落胆していた。誰が撃ったかなど、部隊戦が終われば自ずとわかるはずだ。


翔は、再び戦場へと戻った。


レーダーを確認しながら、禁忌の月を疾走させる。やがて、視界に四本足の機体が見えて来た。ミットのデスクローナだ。多弾頭ミサイルをこれでもかと言う程、撃ち込んでいる。


「やってるねぇ」


呑気に接近して行くと、ムーンはある違和感を覚えた。その違和感は更に接近してみてその答えを現した。


デスクローナの左腕が無い。


そのデスクローナの奥の荒野に立つ、赤紫色の機体。

幻想の騎士団隊長「墜鬼」だ。


ミットが追い込まれるのは当然だった。METAL HEARTSのプレイヤーの誰もが、最も相手にしたくない相手なのだから。

ムーンは禁忌の月のブースターを全開にして、墜鬼へと機体を疾走させた。


相手にしたくはない。

だが、逃げるのはプライドが許さない。こうなったら、自分の腕がどこまで通用するか試すいい機会だ。


得るものはあるはず。


禁忌の月はブースター全開の勢いのまま、墜鬼へと黄金のブレードを構えた。


「あ〜……だりぃ……」


戦闘エリアの端で待機している幻想の騎士団のモモ♪こと、佐藤たかしはベッドに寝転がりながらボヤいていた。


部隊戦においては、他の機体の修復を主な任務にしている為、自ら進んで戦闘に参加することはない。しかも、対戦相手が弱いと修復作業さえない。


「ねみぃ……」


そのまま寝落ちしそうになった時、前方に黒い機影がこちらに向かって来るのが見えた。


モモ♪「やん♡どうしたの?」


口調が変わった。ゲーム内では女性と言う事にしているのだ。


アラン「リペア頼めるかな?」


モモ♪「お♡ま♡か♡せ♡」


その操る機体もハート型のパーツをあちらこちらに装着してあり、ピンクを基調とした可愛らしいデザインとなっている。


修復と言っても、完全に破壊された腕は元には戻す事は出来ない。機体の受けたダメージを回復してやれるぐらいだ。あとは、弾丸の補充も請け負う事は出来る。


モモ♪「アランが腕を壊されるなんて信じられな〜い♡」


アラン「禁忌の月がいる」


モモ♪「なるほど〜ヤダね♡」


アラン「スナイパーも」


モモ♪「アランのハートは私が狙い撃ち♡」


アラン「……………」


モモ♪「照れちゃって♡かわいい♡」


アラン「……誰か来ます」


その言葉どおり、赤い機体が疾走して来るのが見えた。


法堂高虎「アラン、後ろの奴を墜とせ」


後ろ?後ろはエリア外だが。しかし、その言葉の意図は直ぐに分かった。法堂高虎の赤い機体を追って来る、敵の黒い機体が見える。


アラン「了解しました」


シンドロームが黒い機体へと向けて動き出す。


法堂高虎「ホモ!リペアだ!」


シンドロームと入れ替わるように、高虎の機体「血潮」がモモ♪の前に滑り込んで来た。


モモ♪「ホモじゃないもん!」


法堂高虎「ヒゲ、伸びてるぞ」


その言葉に、佐藤たかしは思わず顎に手を当てていた。


モモ♪「ば〜か」


法堂高虎「か……か……カマ」


モモ♪「しりとりじゃないわよ!」


法堂高虎「何でもいいからリペア早くしろ、カマ」


その間に、シンドロームとストライカーは既に激突していた。


勝敗は一瞬で決まった。


ストライカーのシールドから突き出したパイルバンカーは虚しく宙を刺し、シンドロームのブレードがストライカーのコアを貫いている。


ように見えた。


実際はシンドロームのブレードは、コアを逸れて、ストライカーの左腕を貫いていた。アランがそうしたわけではない。確実にコアを捉えていた。しかし、それを阻止するかのように放たれた一発の弾丸により、狙いがズレたのだ。


アラン「スナイパーです」


法堂高虎「はぁ?」


レーダーにそれらしい機影は確認出来ない。レーダー圏外からの狙撃か?それにしては狙いが正確過ぎる。もし、そうだとしたら恐ろしい相手だ。


モモ♪「ステルス機体かな?」


法堂高虎「だとしても、只者じゃないな。Sランクから降りて来た奴かもな」


アラン「面倒ですね」


幻想の騎士団の部隊掲示板で、そのような会話が交わされている中、謙介はストライカーを離脱させていた。武装を全て失ったストライカーは、動くオブジェのようなものだ。

幻想の騎士団のメンバーは追うことまではしなかった。それよりも、今はスナイパー対策を練る事が先決だった。


法堂高虎「隊長が2人を相手にしているな」


モモ♪「クランも交戦中♡」


アラン「フォックスも交戦中です。敵のフリーはひとり」


法堂高虎「そいつは俺が墜とす。お前らはスナイパーを探せ」


そのメッセージを最後に、幻想の騎士団の3機は散開して行った。



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