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METAL HEARTS  作者: 主神 西門
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最前線へ

1:最前線へ


人工的な空の青と大地の土色が、真っ直ぐな地平線を造る無機質な荒野の片隅に、その機械の身体の巨人達は佇んでいた。

種々様々な人型兵器が佇むその中心へ向けて、地平線の彼方より疾走する黒い機影があった。その右手に青い光を放つ剣を振りかざしている。


「これで終わりなんだな。クズども!」


その青い光が振り下ろされようとした瞬間、紫の閃光が走った。

同時に、その機械的な腕が宙を舞う。


「男たちの祈りの邪魔をするな」


その疾走を阻んだ者の声がした。


白い鎧を身に纏った人型兵器。

腕を落とされた疾走者は、その姿にすかさず身をかわした。


「祈り?訳が分からないんだな」


疾走者は残った腕に装備したライフルの銃口を白き鎧武者へと向けた。


「今は戦い抜く事が彼らにとっての祈りなのだよ」


「ふーん。たかがゲームで祈りなんて、バカみたいなんだな」


疾走者がライフルの引き金を引いた瞬間、衝撃音と共に吹き飛ばされたのは疾走者の方だった。その胴体は紫の閃光を放つ剣に貫かれている。


「粋がるな、若造……」


コア破壊確認。一時退却します。


その表示と共に疾走者は視界から消えた。しかし、新たな疾走する機影が近づいて来ていた。


「次から次へと……」


その時、鎧武者の背後より左肩を掠めて、一筋の光の線が迫り来る疾走者の一機へと放たれた。


「今はこの戦いを制す!それしかないんだ」


振り返ると、動きを止めていた人型兵器の一機がライフルを構えている。


「彼女の最後の望み。ここで終わらせるな。」


「残り時間は10分ちょい」


「充分だ。これより殲滅を開始する。」


動きを止めていた人型兵器達が一斉に動き出した。砂煙が立ち上り、視界を遮っていった。



カーテンを揺らした風は、秋の気配を含んでいた。窓から差し込む陽射しは柔らかく、そして暖かかい。いつもと変わらない風景。それが謙介にとっては堪らなく嫌だった。今日も生きている。


17歳。高校は一週間ほど休んでいる。理由は体調不良と伝えているが、そうじゃない。精神的な問題だった。いつもは厳格な両親も今は何も言わない。理由を知っているから。


二週間前に彼女が交通事故で他界した。自分に会いに来る途中での事故だった。自分があの日呼び出さなければ…そんな後悔が繰り返し、自らを責め立てる。


「もう、消えていいかな?」


ベッドの上に横たわり、そう呟いてみた。静寂だけが応える。そう、もう彼女はいないんだ。瞳の奥から、また熱いものが込み上げて来る。何度繰り返せばいいのか。泣いても失ったものは取り戻せないのに。


その時、階段を登る足音が聞こえて来た。ゆっくりと踏みしめる足の運びは父親のものだ。謙介は漏れそうな嗚咽を堪えて、息を潜める。足音はドアのまえで止まったまま、動きを止めていた。きっと部屋の様子をうかがっているのだろう。部屋の中に、カサリと何かの音が僅かに響く。その後、父親は何も言わずに階段をおりて行った。


気配が消えたのを確認し、謙介はドアに顔だけを向けた。下の隙間から一枚の紙片が差し込まれている。


『ハガキ?』


ベッドから起き上がり、這うようにドアの前に行き覗きこむと、それはやはりハガキだった。宛名は確かに上杉謙介様となっている。しかし、差出人の名前がない。そのハガキを摘み上げて、裏を見る。


『METAL HEARTS』


ライム第04小隊 K


それだけが中央に印字してあった。何だろう?訳がわからない。

宛名も印字されたもので、誰からなのか、まるで見当もつかない。

謙介はスマートフォンを手に取った。メールアイコンの未読着信件数は数十件になっている。それには触れず、ブラウザを開いて検索をかけた。


幾つもの検索結果がディスプレイに並んでいる。


「新感覚ソーシャルアクションゲーム。君だけのカスタマイズメカで戦場を駆け巡れ!」


何だ…ゲームか。クラスメートの誰かの仕業だろう。メールでも返信がないのでハガキを送ったのか。しかし、誰だ?幾つかの顔が浮かんだが、はっきりしない。未読メールをひとつづつ確認してみたが、ゲームの事に触れているものはひとつも見つからなかった。


「こんな時にゲームなんて…バカにしてる……」


謙介はスマートフォンをベッドの上に放り投げて、深く溜息をついた。何の意味がある?天井を見上げながら思考を巡らせてみる。誰がこんな事を?答えはゲームの中にしかないのか。謙介は再びスマートフォンを取り、METAL HEARTS をインストールした。ログインするとニックネームを決めるように促された。


「ケンスケ……」


本名の方が、自分を誘い込んだ何者かも気付きやすいだろうとの考えだった。確認ボタンを押す。


「この名前はすでに使用されています。」


それもそうか。同じ名前の奴なんか、世の中いくらでもいるだろう。どうする?謙介は部屋の中を見渡した。誘い込んだ相手が何者か確認出来るまでだから、名前なんて何でもいい。暫く見渡したが何も浮かんでは来ない。


「あれか……」


そう呟いて、謙介は指を滑らせた。彼女が自分の事をそう呼んでいた。


ケンくんでよろしいですか?


画面にそう表示された。確認ボタンを押す。


登録完了しました。

ケンくん、ようこそ最前戦へ。



操作説明は5分もかからずに終わった。ゲームのおおまかな流れはこうだ。プレイヤーはロボットの頭、胴体、腕、脚のパーツを組み上げて、戦闘に参加して他のプレイヤーと戦闘したり、ミッションを遂行してポイントを稼ぐ。そのポイントをパーツやアイテムと交換して機体をカスタマイズして行く。よくあるゲームだ。確かに3D表示で、スマートフォンのゲームにしては良く出来ている。しかし、それだけで新感覚と言うのもどうだろう。画面は部隊選択の表示で止まっている。検索欄に名前を打ち込む。


ライム第04小隊


そこに勧誘者がいるはずだ。確認ボタンを押すと、画面は部隊のページに切り替わった。隊長からのコメントがある。


「ようこそ、死神部隊へ」


ちょっと苦手なタイプかもしれない。しかし、ここに入らなければ勧誘者の手掛かりもない。入隊希望ボタンを押してみると、すんなり入る事が出来た。画面には先程は無かったメンバー一覧と掲示板の表示が現れていた。早速、メンバー一覧を開いてみる。


隊長 スレンダー


副隊長 ミット•ガリック


隊員 ムーン

アルセ

C•ローズ

………



全く見当も付かない。リアル名を使うはずもないのだが。仕方なく掲示板を覗いてみる事にした。


Cローズ「あ!新人さんだね! いらっしゃいませ♫」


新人さん?書き込み時間からして恐らく自分の事だろう。もう気付かれてる。ゲームに常駐しているのだろうか。とりあえず挨拶だけはしておくべきか。


ケンくん「初めまして。宜しくお 願いします。」


Cローズ「ローズです♫わからない事は聞いてね!私は弱いけど(笑)」


ケンくん「ローズさん、Kって人を知りませんか? 」


Cローズ「K?知らない。対戦した事もないなぁ。どんな人? 」


ケンくん「その人に教えてもらって、ここに来たんですけど」


Cローズ「そうなんだぁ。ごめんね〜わかんない(笑)」


ケンくん「そうですか。こちらこそ、ごめんなさい」


Cローズ「あ!でも隊長やバッカスさんなら知ってるかも。」


ケンくん「ありがとうございます。聞いてみますね。」


Cローズ「20時ごろには来ると思うよ。社会人だからね〜昼間は仕事♫」


ケンくん「ですよね。僕は高校生です。サボってますけど」


Cローズ「サボりなんだ(笑)悪い子だね♫お仕置きも兼ねて、対戦してみようよ? 」



ケンくん「僕はまだ始めたばかりですよ」


Cローズ「いいからいいから、いくよ♫」


画面のしたに赤い表示が現れた。


Cローズさんより対戦を申し込まれました。受けますか?


本当に仕掛けて来た。勝てるはずもないのだが、断ってもシラケるだけだろう。謙介は渋々OKボタンをタップした。画面が切り替わると、巨大なドーム状の建物の中にいた。自分の機体の遥か向こうに対面して別の機体が見える。あれがCローズの機体か。ローズの名に相応しくピンクに統一されたその細身の機体は、両手に短いブレードを持っている。一方、自分の機体はと言うと、初期設定のままのグレーの冴えないポンコツ。右手にマシンガン。左手にブレードという装備だ。下手すれば一撃で倒される。画面中央のカウントダウンが終わりGOの文字が表示されると同時に、Cローズが右へ移動を始めた。慌ててマシンガンを撃ってはみたが、擦りもしない。自らも距離を取るように右に移動してみて気が付いた…Cローズの機体は速い。ドームの中は身を隠す場所もないので、移動し続けるしかない。


『ちきしょう。』


そんな言葉が自然と口から漏れた。その間にも、Cローズは距離を縮めて来た。短いブレードを選択したのは、初心者への心遣いなのか。銃器系なら、とっくに勝敗は付いている。謙介は移動をやめてCローズを視界の真正面に捉えた。負けは確定している。ならば一撃でも当ててやろう。謙介はCローズに向けてマシンガンを撃ち続けた。しかし、弾が到達する頃には、Cローズの巻き上げた砂煙しか残ってはいなかった。やがて、マシンガンはその振動を止めた。弾数カウンターはゼロ。それを察したのか、Cローズが凄まじいスピードで迫って来た。今からでは逃げきれない。謙介はブレードを構え、相手を見据えた。

ぼんやりとしていた機影が、その輪郭を現した。無機質なその表情に何故か気迫を感じて逃げ出したくなる。ピンク色の閃光が襲って来る。その一撃をブレードで受け流した瞬間、Cローズの機体が目前で素早く回転し、二筋の閃光が線を描いた。


コア破壊確認。撤退します。


赤い表示と共に画面が暗くなった。



部隊画面に戻ると、Cローズの書き込みがあった。


Cローズ「お疲れ様〜♫新人さんにしては、なかなかの方だったよ」


ケンくん「強いですね。完敗です」


Cローズ「でしょ?なんてね。レベル差もあるし、機体性能の差もあるし、当たり前かな」


ケンくん「強くなれますか? 」


Cローズ「とりあえずミッションクリアしながら装備強化かな。どんな機体にしたいの? 」


ケンくん「わかりません」


Cローズ「スピード重視なら機体を軽く、攻撃力重視なら重いけどしっかりした機体にする」


ケンくん「そうですか」


Cローズ「あとは武器と装備でバリエーションは拡がるけどね。結構、個性が出るんだよ〜」


ケンくん「ローズさんの機体は速いですね。」


Cローズ「私のはスピード重視の一撃離脱型かな。女の子だからゴツいのは嫌だもん」


ケンくん「僕はブレードは苦手かもです。最後のあの回転はどうやるんですか? 」


Cローズ「あれは武器にコマンドが付いていて、それぞれの条件を満たすと発動出来る様になるの♫」


ケンくん「僕は銃器専門で行きます。ブレードではローズさんにはかなわないと思いますし」


Cローズ「ブレード使いはいっぱい居るよ。この部隊にいたケンシンが目標なの♫」


ケンくん「強そうな人ですね」


Cローズ「伝説の人だよ。いつか帰って来ると信じてるの♫」


ケンくん「帰って来るといいですね。僕も会いたいです」


Cローズ「ありがとう。もうすぐ診察だから、また後でね♫」


ケンくん「診察?病院ですか?」


Cローズ「うん。入院中なんだ」


その書き込みの後に、Cローズはログアウトした。謙介は少し複雑な気持ちになった。この少しの間、亡くなった彼女の事を忘れていた自分への嫌悪と、バーチャル世界で出会ったCローズへの疑問。掴めなかった招待者の正体。様々な事が頭の中を駆け巡っては消えて行った。





























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