第四話
無駄に長い回想を経て現在に至る。
妹と会えない二年を、お互い顔を見合わせる一ヶ月がすっかり埋めてしまった。今ではまた以前のように無駄口を叩き合う、もとい、毒を吐き合うくらいである。
再会してから俺達二人は俺達以外の誰にも会うことなく、(時間の無駄なので)むしろ会わないように注意を払いながら実力の錬磨に日々を費やした。合わせなくとも自然と息の合う俺達は実に戦闘の効率が良かった。
二人だけで知らない場所を探検するのは、まるで昔に戻ったようで悪くない気分だった。
レベル上げをするうち、俺は早々にビショップであるという事を打ち明けたが、リシィの職が何かは未だに教えられていない。お兄ちゃんはどうやら信頼されていないようだ。
リシィの戦闘スタイルはやたら滅多に武器を振り回すので、攻撃力に優れるウォリアーか防御力の高いナイトだと思ったが、かと思えば銃火器も扱うし、遠距離に長けるガンナーにしては近接戦闘をそつなくこなしている。時たま魔法を使う姿も見かける。要するに、謎である。
「エルー、馬鹿?」
これはスキル振りを打ち明けた直後にゴミを見るような目で妹から言われた一言である。
「もやしが、どう足掻こうと、もやし」
ビショップの弱点である物理面の紙装甲と弱火力を補おうとした俺のやり方を批判しているらしい。
リシィ曰くそれぞれの職は得意分野に特化し、穴埋めはパーティメンバーに任せろということらしい。つまり、俺は回復方面に特化すべきだったという事だ。
確かにその通りだ。だがそれは群れの理屈である。
今や俺はウォリアーやナイトに比肩する戦闘力を持っている。
回復ばかりに気を取られていたら、いざ一人で戦うことなど出来やしない。俺が言いたいのはそう言う事だが、リシィは納得してくれなかった。大体、人の為に尽くすスタイルは俺の性分では無い。
納得はしていないのだが、それでもお互いの強さだけはよく理解していた。
この一ヶ月で、俺達は恐らく誰よりも早くレベルが上がったと思う。その分レベルに応じて買わなければいけない装備が増えてきて、金の減りも早かった。リシィは沢山、武器を買い込むから余計にだ。
金が無いと適当な宿に止まって休息を取ることも出来ないので、ここ最近はずっと野宿だった。
そんな現状を見兼ねて、今回リシィがギルドの話を拾ってきたという事だ。
「もうすぐ、着く。準備いい?」
商人達が行き交う町の中を歩き、俺を引っ張るリシィが興奮して言った。妹は俺のように個人プレイに拘っていないので、初めてのギルドが楽しみなのだろう。
大通りを進んでいくと、人だかりが見えてきた。
「あぁ、俺の人生ソロプレイ記録がついに……」
俺はうんざりした顔で言った。リシィはそれを鼻で笑った。
「何を、今さら。散々、私とした」
「リシィは俺と一心同体だからノーカン」
屁理屈かもしれないが、本当にそう言っていいくらいに息ぴったりだった。
そういうつもりで言ったのに、リシィは何故か急に赤くなった。
「ば、馬鹿」
どうしてあんな顔をするのか、時々、妹が良く分からん。
「そこのお二人もギルドに入りませんか?」
ぼけっとしていると、短く揃えた爽やかな茶髪がよく似合う兄ちゃんに声をかけられた。年は俺と同じか少し下というくらい。
全身に分厚い鎧を纏っており、背には巨大な長剣を備えている。
この世界に来て、初めて出会った他人だ。中々良い装備だし、実力もありそうだと思った。
「エルー、お願い」
話しかけられた瞬間、とたとたとリシィは俺の背後に逃げ込んだ。自分から来ておいて、この有り様である。
妹は人見知りする事を当然覚えていたし、だからこそ人と会うのを避けてきたのに。
「あはは。彼女?可愛いね」
「殺すぞ貴様」
「なんで!?」
こいつ今リシィをどんな目で見たんだ?そんな当たり前の事言うんじゃねぇよ。まさかあわよくば仲良くなろうとか考えてなかったか?
控えめに見ても俺は多分、鬼の形相をしていたと思う。
「エルー、何してる」
こそこそと背後のリシィが言った。はいはいと俺は呆れたように返事する。
「ギルドって誰でも入れるのか?」
俺が尋ねると、目の前の兄ちゃんは頷いた。
「加入試験はあるけど、それさえこなせば。君は随分と攻撃力が高そうだ。アタッカーは何人いても困らないから、来てくれると助かるよ」
本当はヒーラーだけどな。
「なら、俺とこっちの妹。二人、加入希望で」
「おい、ウォリアーの兄ちゃんやめときな」
そんな俺の声を遮る者が現れた。盗賊風の格好をしたおっさんが、やれやれといったふうに肩を竦めている。もうウォリアーで良いよ。
「余りにも加入試験が難し過ぎて、何人も挑戦したけどみんな落ちたよ」
俺は怪訝そうに茶髪の兄ちゃんを見た。奴は気まずそうに笑っていた。
「ある程度実力ある人を連れて来ないと、ボスに怒られるから……。うちは本気でゲートキーパーの全滅を目指してるんだ」
なるほどな。だが、試験が難しいのはむしろ大歓迎だ。これで落ちればリシィも諦めるだろう。
「エルーと、私なら、余裕」
難しいと聞いて、リシィは俄然やる気になってしまったようだ。これは良くない兆候。
「試験の内容を聞こうか」
大丈夫。俺は大学の入試で二度も落ちた男。今回だって落ちるさ!
「草原で凶暴化したモンスターの討伐」
ダメだ。落ちる気がしねぇ。
【States】
NAME:RICY
CLASS:???
LEVEL:32
HP:255
ATK:85
DEF:72
MATK:64
MDEF:58
INT:70
LUK:51
【Equip】
頭:乙女のカチューシャ
胴:アイアンメイル
右腕:ロングレンジガン
左腕:ストーンアックス
腰:尖兵の腰巻き
足:フェザーブーツ
指:魔導師の指輪
【Skill】
『【自動】ガンナーズアイ:遠距離武器の命中精度が上がる』
『【自動】魔導の才:魔法の消費MPが少なくなる』
『アームズブロウ:手にした武器で敵を叩く。状態付与……気絶。発動条件……近接武器の装備』
備考……お兄ちゃん大好き。