支え
『ん〜、ん〜、や、やめろ〜・・・・・・
はっ!』
どうやらモードはかなりの体力を消耗するみたいだ。
今日の厳しい修業を終え、俺は寮に戻り風呂に入って飯を食べたらすぐ眠ってしまった。
それにしても、ひさびさにあの夢を見るなんてな。
グリーンを殺したからだろうな・・・・
今は何時ぐらいかな、まだ外は真っ暗だ。
寝てそんなに時間は経ってないみたいだ。
ガイやトルクはぐっすり寝てる。
喉が渇いたな、水でも飲んでくるか。
リビングに向かうとリジュとレティが晩御飯の片付けを終えた直後みたいだ、
『あれ?刃くん目が覚めたの?』
リジュが俺に気づいて、声をかける。
『ああ、目が覚めちまって喉乾いたから水を飲みにね。水をくれるか?』
『刃さん、何かあったんですか?
汗もすごいですよ?』
『え?汗?』
俺はそう言われると額を拭うと、いつのまにか、汗も大量に出ていたみたいだ。
『あはは、何でもない何でもない』
『刃くん!』
『刃さん!』
そういうと、俺に2人は詰め寄ってきた。
『顔を蒼白になってるのに何でもないわけないじゃない。』
『リジュさんの言う通りです。何でもないわけないです!』
『リジュ、レティ・・・』
『私達は刃くんのお嫁さんだよ。
気づくに決まってるじゃない』
『そうですよ刃さん。
刃さん、とりあえずそこのソファに座って下さい!
リジュさんはお茶を用意してくれませんか?』
『わかったよ、待っててすぐ用意するね』
俺はソファに座らされ、リジュは3人分のお茶を用意してくれた。
『さぁ、お茶も用意できたし、飲んで落ち着いたら話して。』
お茶を一口飲むとハーブの良い香りが鼻を抜ける。
はぁ、どうやら自分が思ってた以上に気持ちが落ちてたみたいだ。
俺の左右にはそれぞれリジュとレティが俺を挟むように座っている。
『どこから話すかな・・・・・・そう、夢を見たんだ。
昔、俺が子供の頃、人を殺した日のことを』
『え?人を殺した?』
『刃さんが?』
俺は手に持ったハーブティーをまた一口飲んだ。
『ああ、昔のことだ。
人を1人殺してる。
・・・・・・軽蔑するか?』
『(刃くん)(刃さん)ちゃんと話を聞かせて。』
2人の目を見る。
2人とも、俺の言葉を一言も聞き逃さないというようにじっと見つめてくる。
『ふぅ・・・・・。
あれは俺が6歳の時だったな。
その日は、じっちゃんの用事でじっちゃんと2人で出稽古しに行ったんだ。
じっちゃんは見ての通り強いからなぁ、警察の人に武術を教えることが多かったんだ。
あ、警察っていうのは町の警備とか迷子の世話とかこの世界で言うところの騎士団だね。』
俺は天上に目を向けながら過去のことを思い出しながら話し始めた。
『そして、その日は出稽古の帰りに銀行っていうお金を扱うお店に行ったんだ。
お店には結構人がいてね、俺たちは順番待ちをしてた時に事件は起こった。』
『事件?』
持っていたカップを机に置いて俺は頷いた。
『強盗だよ。店番をしてる人は大抵女の人で奥に男性が数人店員がいてるんだげどすぐ動けるような感じじゃないしね』
『強盗は3人組で店に入ってきた。手には拳銃を持って店番の女の人に近寄っては脅し始めたんだ。金を出せと。
ちなみに拳銃は飛び道具で殺傷能力が高い武器ね』
『その男たちは、拳銃を乱射してみんなに勝手に動くなと言ったんだ。
俺やじっちゃんや他のお客さんも言われた通りに動かないようにして、犯人たちの要求に従った。
俺なんかは怖くて動けなかったんだけどね。』
『しばらくするとお金を用意した男の店員さんが現れてお金を渡そうとしたんだ。
犯人たちはお金を受け取るとその人に発泡して殺した。
そして、今度は俺たちを標的にしようとした瞬間。お店には閃光が光ったんだ。
その光はすごくて犯人たちは隙だらけになったんだよ。
今思えば、じっちゃんが魔術でしたことだと思うけどね。
その隙をじっちゃんは見逃さなかった』
俺はいつの間にか握ってた手を見ると手汗がすごかった。
『じっちゃんは犯人たちを1人また1人と倒して行ったんだ。
もちろん3人とも気絶で済ませてたんだよ』
『え!?ちょっと待てください刃さん。
今の話だと刃さんは人を殺してないですよね?』
『うんうん』
レティとリジュがそういうが俺はそれを首を振って否定した。
『まだ続きがあるんだよ。
じっちゃんは確かに3人のしたんだ。
犯人を倒したことによって、みんな喜んだんだけどね。
じっちゃんは人質の人たちすげーすげー言われて気づくのが遅かったんだよ。
その時、お客の1人だと思ってた人が実は犯人の仲間で1人の女の店員さんに、刃物を突きつけようとしてたんだ。
俺はその女の店員さんの近くにたまたま居てたんだよ。
女の店員さんは俺が子供だから大丈夫だよってずっと励ましてくれてた人なんだ。
だから俺は叫んだんだ。
ヤメローー!ってね。
そのあとは、不思議と体が動いたんだよ。
犯人が刃物で店員さんを切りつける瞬間
持っていた出稽古で使うための小太刀で俺は刃物を弾いたんだ。
店員さんを後ろに下がらせて、犯人と対決することになった。
その当時、6歳だけどじっちゃんの出稽古に付き合うぐらいだからね。
警官の人たちにすら勝ってたぐらいだし。負けはしなかったんだよ。
犯人は俺を殺すために刃物を振りかぶってきた。
それを俺は上に弾くと、相手の片方の手首を切り落とした。
それで犯人は落ち着くと思ったんだ。
でも違った。
犯人が落とした刃物を残っていた腕で拾いまた、切りつけて殺そうとしたんだ。
そして、犯人の目には明確な殺意が俺に向けられていた。
その時俺は初めて殺意を向けられて怖かったのを覚えてる。
それはもう、無我夢中だったよ。
さっきと同じように刃物を弾いて反対の腕まで落とした。
俺はそこで終わらなかった、犯人に向かって草薙流の時雨まで使ったんだ。
次の瞬間には犯人は地面に倒れ、血だまりができてた。
俺が覚えてるのはその時まで、後からじっちゃんに話を聞いたら犯人を殺した後にすぐ気を失ったらしい、
とまぁ、こんな感じかな』
気づくとリジュとレティに手を握られていた。
2人を見るとその目には涙がたまっていた。
いつ、それが頬を伝わりながれおちてしまうかわからないぐらいだ。
『大変だったね、刃くん』
『リジュ・・・』
『ぐす、刃さん』
『レティ・・・』
『ふぅ、2人ともまだ続きがあるんだ』
2人の涙を親指で順番に拭う。
『そのあと、俺とじっちゃんは警察で取り調べを受けたんだ。
気を失っでる間にじっちゃんにはなしをきいたあとに、目が覚めたら俺に話を聞いてきた。
まぁ、俺が子供ということと周りの証言で正当防衛は確実だったんだけどな。
でも、そのあとが大変だった。
俺は寝ると事件の事を思い出して人と会うのが怖くなったんだ。
人殺しだと見られてる気がして。
俺は常にじっちゃんかばっちゃんのそばから離れなくなった。
じっちゃんやばっちゃんはいろいろ手を尽くしてくれた。
そばにいてくれた。
でも自分の中にうまく取り入れることができなかったんだ。
人を殺した事実を。
しばらくしてからだな、ある人が俺の前に現れたのは。
・・・俺が助けた女の店員さん。
でも、俺は最初気づかなかったんだ、じっちゃんの後ろに隠れてたから。
お姉さんは俺に気づくと俺のそばに寄って抱きしめてお礼を言ったんだ。
ありがとう、あなたのおかげで2つの命が助けていただきましたと。
私とお腹の赤ちゃんを助けてくれてありがとうってね。
その言葉が俺を助けてくれたんだ。
命を殺しただけじゃないんだと、救えた命もあるんだと。
俺はその時事件以降初めて大泣きしたんだ。
お姉さんは俺が泣き止むまで優しく頭を撫でてくれた。
その時初めて俺は救ってもらった気がした。』
『刃くん』
『刃さん』
『その後は、じょじょに普通の暮らしに戻っていった。
そして、じっちゃんに大切な話をされたんだ。
人を1人殺すということはそいつの人生を奪うことだと、
いくら苦しかろうとわすれちゃならねぇ、そいつの命を奪ったって事実を。
忘れてしまった時点でただの人斬り、犬畜生だ。
ただな、辛かったら俺やユウが半分持ってやるその罪を。
どから、わすれんじゃねぇぞ、おめぇは1人じゃねぇ。
あぁ、俺はこの人たちの孫でよかったと思えた。
だから、俺はグリーンを殺したことを忘れねぇ。
ただの人殺しにならないために』
レティとリジュはお互いを見やると頷き俺に視線を戻す。
『刃くん、刃さん私たちも背おうよ、その罪を』
『リジュ、レティ』
『私たちは夫婦だよ刃くん』
『そうですよ、辛い時は家族がみんなで背おえば少しは軽くなります』
『だから』『大丈夫ですよ、刃さん』
2人が優しく抱きしめてくれた。
暖かい気持ちが俺の中に入ってくる。
あの時のお姉さんがしてくれたように優しく優しく抱きしめてくれた。
ありがとう、2人とも。




