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降り積もる雪の怖さ

降り積もる雪の怖さ


子供たちが通う小学校では、朝から降る雪の量が余りにも多くなると、先生方は生徒が下校時の事故を心配となるのです。そんなひどい降りかたをする雪の日は、授業を途中で止めて子供たちは帰宅方向が同じ集落ごとに講堂に集められ高学年が先導する集団下校となるのです。


それぞれに帰る馬の背の雪道では、高学年が代わる代わる先頭になって降り積もった雪を踏み固めてくれる狭い道を一列縦隊になって家に帰るのです。下級生達は早く家に帰れるうれしさからふざけあい同じ年代の子供の足をすくい、踏み固めてない降り積った柔らかな雪の中へ倒すのです。深い雪に全身すっぽりと埋もれると、雪の中でもがいても体の自由が利かなく自力で立ち上がる事ができないのです。しかも新しい雪は容赦無く鼻や口に吸い込まれ、呼吸ができなくなる瀬戸際を仲間が見計らって助け起こしてくれるのです。ふざけながらも雪の怖さを実体験するのです。


毎日三十センチ四十センチと雪が降り続いて小正月も終わった頃、集落の重要な代表役員の主が夜に村役場で行われる会議に出席しなければならないのです。日暮れの早い夕方からますます激しい降り方になった雪に、外出するのをちゅうちょする思いを抑えて生真面目な主は会議に出席のため家を出たのです。


村役場の会議室には石炭を燃やすダルマストーブが赤々と燃えているのですが、下見板を張り合わせただけの粗末な外壁や床の隙間から冷気が入り込み、長い時間を冷たい椅子に座ったままの会議は寒さに耐え難いのです。主は会議が終わって出る恒例の反省会の酒もほどほどにして、「降り続く雪が心配なので早めに帰る」と言い残し村役場を出たのです。


ところが、主の家では夜更けになっても帰らない主に主婦が心配になって、隣近所の人に起きてもらい主の帰らない事を相談するのです。大雪の夜にただならぬ出来事と感知した人たちは、至急に集落全家にタイマツやチョウチンを持って集まるように伝達「フレ」を回し捜索の準備をするのです。


集落の人たちは主の出かけた村役場の方向を目指し、降り頻る雪の中をわずかな明かりを頼りに往復六キロ程度の街道を膝まで雪に埋まりながら懸命に捜索するのです。暗闇の空間に密度が濃く降るボタン雪と、見渡す限り真っ白な空間に積もった雪が同調して視界が遮られ、わずか数メートル先だけタイマツやチョウチンのわずかな明かりでは目標物が目視できない状況なのです。しかも視覚だけでは無く、聴覚も主を呼ぶ声や周りで発する音のすべてが密度の濃いボタン雪と、既に何もかも覆いつくす雪にのみ込まれてしまい声が遠くまでは届かないのです。


風もなく静かに降る雪の中に居ると自分の立っている位置や、目標物が見えないと三百六十度方向が分からなくなる間隔マヒがおこり、自律神経がおかしくなってしまうのです。二重遭難の恐れと、明け方が近くになった事で結局その夜の内に主を見つける事ができなかったのです。


一睡もできなかった主婦のところに、村の駐在所の警官「ジョンサ」が昼の近くに訪れて悲しい知らせとなったのです。主は帰る道の方向と全く違う反対方向の道から外れた雪の中で頭だけを出した遺体となって、雪踏みで道を付けていた隣の集落の人に発見されたのです。


話題の少ない集落のうわさ話によると、主は近郷近在にも居ない良い男振りだったから、静かに雪の降る晩に山奥から出て来る雪女の誘惑に負けて、命を吸い取られたのだろうと話されるのです。 

現実は、夜中の激しく降る雪に視界を遮られて、目標となる明かりも見えずどこを見ても雪だらけの白魔の世界に迷い込んだのです。迷っている時間がたつにつれて降る雪がかさみ身動き取れなくなって寒さと疲れで、雪の中で眠ってしまい凍死したのだろうと推察されるのです。



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