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里山の子供たちの学校5

里山の子供たちの学校5


里山の厳しい生活で子供が風邪をひいてしまい、熱で体がだるく食欲のない時に母親は滋養にいいからとデンプン粉を水で練って火にかけトロトロにして喉の通りが楽なものや、もらいものを何年もだいじにとっておいた白桃やミカンの缶詰を開けて食べさせてくれるのです。中身の果実よりも甘いシロップは果汁と相まって何とも言い難いおいしさなのです。扁桃腺が腫れて喉が痛い時は越冬野菜の生の長ネギを一本丸ごと囲炉裏の火で焼き、アツアツを包帯でつつんで首に巻いてくれるのです。富山の苦い配置薬を飲んでも回復しないと、貧困で苦しいからと言ってはいられずにやむを得ず、里山では地位と尊敬の高い医者に診てもらいに医院に連れていかれるのです。


里山には珍しい白くて西洋風な造りのオシャレな小さな建物の医院に行くと、必ずスリッパが置いてあって日本の文化的なもので屋内に入る時は必ず靴を脱ぐというのが礼儀と清潔という習慣で履き替えるのです。しかし菌だらけの医院で一日に不特定多数の人々が何回も履きかえるスリッパを共同で使うことは、目に見えないさまざまな菌が医院から里山の人々に拡散されていくことなのです。名前を呼ばれて待合室から診察室に通されるとまず目に入るのが、医者の腰かけている脇に消毒液の入った白いホーローの洗面器が置いてあって、その横に何度も使われたか知れないタオルがかかっているのです。この消毒液自体もずっと入れっぱなしなので、殺菌効果があるのかもわからずに医者はおもむろに両手を洗面器に浸して架けたままのタオルで手を拭いて、診察がスタートするのです。


子供は、体温計を脇の下に長い時間をかけて挟んで熱を測ってから、お下がりで伸びきった下着を胸までまくり上げて、両耳にイヤホンのようなものを入れた医者は冷たい聴診器を胸に当てて肺の異常な音を聞き取ろうとするのです。その次は、消毒の匂いがするスプーンをヘラにしたようなもので喉の奥を押し下げられてのぞきこみ、ゲーが出そうになるのですがガマンをするのです。そのヘラも何日も交換されていない、消毒液の入ったビーカーのような入れ物に無造作に何本も入れられているのです。ひととおり診察が終わると、看護師さんがアルコールを含ませた脱脂綿で腕を消毒して、医者は何も言わずにいきなり注射をするのです。里山の人たちは、すぐ注射をしてくれる医者ほど名医なのだと言うのですが、痛い注射の好きな大人や子供はいなくて注射は嫌いなのです。                


その嫌いな注射のなかでも、里山の学校で行う予防注射の集団注射が特に嫌いなのです。小学校や中学校では、広い屋内運動場に集められて毎年いろいろな予防注射が行われるのです。一昔の前に流行り病であった結核の菌に感染をしているかを調べるツベルクリン反応検査を受けるのですが、この注射は全然痛くないのです。そしてその一週間くらい後に子供たちは下着のシャツを肩まで巻き上げて、長い白衣を着て座っている医者の前に一列に並んで、一人ずつ注射の後の赤くなった大きさを見せて陽性か陰性か判定してもらうのです。体に結核の菌に対する抗体がない陰性と判定されると、BCGのハンコ注射と言われる注射を受けることになるのです。ツベルクリン反応検査の注射は痛くなかったので、同じような痛さだろうと油断をしたのが大きな間違いなのです。医者が手にした注射は、今までに見たことのない針が何本もある注射なのです。医者は無造作に左肩の筋肉をつかんで注射の針を突き刺さした瞬間は、飛び上がる痛さを感じるのです。看護師さんが注射の後を押さえてくれる脱脂綿がこすれると、さらに激しい痛みがおそうのです。BCG注射した後はいつまでもジクジクトと化のうしてなかなか治らずに、ウミが服汚すのを防ぐために包帯をして治った注射の痕はハンコを押したように残るのです。意外といじめっ子が、顔をしかめて泣きそうになっていたりしたり弱そうな子が平気な顔で注射を受ける場面は、さまざまな子供たちの普段とは違う光景が新鮮に見えるのです。


子供たちにはその他にも予防注射がいっぱいあって、ジフテリア、百日ゼキ、破傷風、日本脳炎、インフルエンザ、などが体調の悪い子供を除き全員が受けさせられるのです。全校生徒がクラスごとに出席番号の順に受けていくのですが、予防注射を受ける体育館に行くと強烈なアルコール消毒液の匂いのなかで、前に並んでいる子供が緊張感と恐怖感でひきつった顔で順番を待っているのです。看護師さんは忙しそうに注射器に薬液を入れては、注射針にキャップが被されていないむき出しのまま小机の上のトレイに並べて何本も置かれているのです。手際よく看護師さんは、その青いコバルトブルー色のピストンが鮮やかに見える注射器の一本をトレイから取って先生に渡すのです。医者は並んでいる子供たちに、次から次と一目盛り分だけ慣れた手つきで正確に薬液を腕の筋肉に注入して「はい、次」と一人に数秒もかからず注射を打っていくのです。使い終わった注射器は、ステンレス製の煮沸消毒器で蒸気を上げながらカタカタと音をさせて消毒されるのです。


大勢で行われる学校の予防注射は、次から次へと段取り良くそして手早く行われていくのです。看護師さんが注射器に三人分の注射液を入れて、医者が一本の同じ注射器で続けて三人の子供たちに注射をするのです。並んでいて注射を打たれる順番が、新しい注射器を使う一人目でなくて二人目や三人目になるのは絶対に嫌なのです。当然なのですが、出席簿順に並ぶ順番は変えられないのはわかっているのですが、並んでいる前の一人目の子供に注射針を刺す時に注射器の薬液のなかに、血液が一本の赤い糸のように針の根もとから立ち昇るのを見たのです。さらに二人目の子供の血液も同じように薬液のなかに混じって入るのです。予防注射で並んだ時は、一人目になるかだめなら前の子供の血液が入らないように期待するのです。しかし期待は見事に外れて、一人か二人分の血液の混じった薬液を注射されてしまうのです。予防注射は痛くて嫌なのはもち論、他の子供の血液が自分の体内に入って自分が自分で無くなる気がして嫌なのです。



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