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冬の訪れと暮らし

冬の訪れと暮らし


山から吹下ろす北風に全ての木の葉が振るい落された裸の樹木の枝先は、大小の幾化学模様の線となって大きな竹ボウキを逆さに立てて広げたような姿になるのです。


そんな枝先にまとわり付くかのように、鉛色の重い空から「ユラユラ」と桜の花弁が舞い落ちて来たかと連想させる雪の結晶が、凍てついた黒い大地に次から次と積み重なり真っ白な大地なって根雪に成ろうとしていくのを見ると、春迄の閉ざされた長い雪の中の生活を覚悟するのです。


降り積もる雪がますます深まると、里山の生活は都会の早い時間の流れに取り残されて行くのです。その頃は除雪車もなく街道や里山の一帯は積もるだけの雪の中に埋もれてしまい、生活や遊びの行動半径を狭められてしまうのです。家族は家を守るだけの閉じ込められた厳しい冬の半自給自足の生活がゆっくりとした時間で流れて行こうとしているのです。


里山の農家の人たちは、雪で仕事を取り上げられてしまう約半年間は稲わらを使い家内作業のムシロ「ワラの敷物」やカマス「収穫物入れる袋」ミノ「ワラの雨合羽」コンゴ「ワラの長靴」などを作りながら、家の中で飼っている牛、馬、鶏の世話をするのです。里山の人たち大半が専業農家で、まれに何らかの商売をしているか、近くにはわずかしかない工場のある街まで働きに行っているか役場職員くらいで少数の人たちしか現金収入を得ていないのです。


雪降りの晴れ間を見ながら、かやぶき屋根に積もった雪の雪下ろしは一冬に三回から六回絶対行わなければ成らない重労働なのです。雪下ろしや他の作業ができる長男が居る家庭では、余力のある次男三男が雪のない高度成長期の始まった街へ季節労働者として行き、現金収入を得て農作業の始まる春までに里山に帰ってくるのです。


やがて三月も上旬になって降る雪が落ち着くと、雪の原の雪が締まってカンジキを着けて歩けるように成ると山に入り、秋に切り集めたマキを雪のなかから掘り出し炭焼きをして炭を売り現金を得るのです。


そのころ専業で農業をなりわいで家を守る多くの人々は、田畑の収穫物を売ってわずかな現金に換え生計を立てるのです。しかし家族全員を賄うだけの生活費には足らず、家族が食べるために残した米や野菜で自給自足の生活をしなければならないのです。


里山の田畑で取れる米や野菜の収穫でばかりで無く、山林や原野にも生活を支えるためになくてはならない大自然の恵みがあるのです。家を建てる用材、屋根をふくカヤ、燃料となるマキ、炭、家畜の飼料になる草、副食になる山菜、動物性タンパク質の欠乏を補給できる獣肉、川魚、など多種多様にわたり、自然の恵みに感謝して恩恵に授かりながら生きて行かなければならないのです。しかし、自然が与えてくれる恵みには、良い時もあれば悪い時もあるのです。天候不順が続き、収穫の少なかった冬をいかに家族全員が飢えずに食いつなぐのかが現実の問題として残るのです。


家庭を預かる主婦は、天候不順で収穫の少なかった米を最大限の現金に換えてから、食いつなぐために残す米をどのように節約して家族に満腹感を与えるかを考えるのです。


米の節約をするためによく食べた物の中には、冷えたご飯「マンマ」を多量の水で煮て増やす重湯「オヨズケ」、みそ汁「オッチョ」と多くの野菜を煮込んで増やす雑炊「オジャ」、そんな水物の多いご飯に飽きると、麦や野菜に山菜を多く入れた炊込みご飯「カテメシ」、など工夫をして、米が減らないようにするのです。


米の節約はそれだけではなく、三度の食事にご飯が多く食べられないように、売り物にならなかった米を使ったおやつ「コビリ」を作るのです。そのひとつに、未成熟の米を粉にした「イリゴ」を水で練り、団子状にした中にみそ、漬物、小豆あんなどを入れて、囲炉裏「ヨロリ」の熱灰の中で焼く焼餅を食べるのです。ご飯とご飯のあいだの空腹をいやして米の消費を防ぐのです。焼餅の中身に、塩イワシ、イカの塩辛が入っている物は上等品なのです。


その他に大豆や黒豆を餅に混ぜ込み、乾燥させて焼いて食べる豆餅などがあるのです。こうして作られたおやつを隣近所の人たちを呼び集めて、お茶を飲みながら食べるのも里山のひとつの娯楽でありコミュニュケーションなのです。


主婦はいろいろと考えた米の節約で余裕の米があると、月に何回か来る行商人と物々交換して塩蔵魚類になり衣服になったのです。


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