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里山の子供たちの学校4

里山の子供たちの学校4


南極に昭和基地ができて、東京都が都市人口世界一になる時代に里山の野山を跳びまわる子供たちのおもな娯楽は、家でマンガや雑誌などを読むことやラジオ番組を聴くことと里山にやって来る巡回映画を見ることなのです。家庭の中心として真空管を多く使ったラジオの人気番組が始まる時間になると子供たちは遊びをやめて家に帰り、ラジオのまわりに集まってラジオ放送を聴くのです。最近は娯楽の主流であった読むことや聴くことから、ブラウン管に映る画像が動いて音声の出るテレビを見ることに変わりつつあって、大勢で見る映画や読むことの本と聴くラジオから高価なテレビに移行を始めたばかりの途中段階でテレビは娯楽の主流メディアになっていないのです。


多くの貧しい里山の家庭では、テレビの普及は一気に進まず一年に何軒かがエヌエチケーとの受信契約の証明をするシールが誇らしげに玄関の前に貼られて、一軒ずつユックリとした時間で普及が進むのです。なかでも里山の数少ない裕福な家庭にテレビが一般の人より早く購入されて、広い座敷の正面に観音開きのケースに収まって、分厚いドンチョウのような幕が被されて鎮座しているのです。見たいテレビ番組のある日は夕食を食べ終えると、子供たちや近所の年寄りがゾロゾロと裕福な家に押しかけて、「今晩は、テレビを見させてください」とお願いをするのです。家主の家族が団らんをする時間を無視して、厚かましく座敷に上がり込み画面に集中して大勢で息をのみながら見させてもらうのです。人気のテレビドラマはヒーローがたくさんいるのです。「真っ赤な太陽燃えている果てない南の大空に」の怪傑ハリマオ、「白いマフラーは正義のしるしその名はジェット」の少年ジェット、これから日本が元気になろうとした頃にさっそうと登場したヒーローの月光仮面、それぞれみんなが子供たちの憧れのヒーローなのです。しかし、テレビの小さな画面は白黒で絶えず砂粒みたいな白いものが無数にチラチラと飛んでいて、音声はザァーザァーと雑音を発して役者のセリフが聞きづらいし見づらいのです。そんな他人の家に押しかけて迷惑をかけてしまうのと、裕福な家への卑屈な気持ちと、家主の家族への遠慮をしなければならない嫌な感情がチョットしたことでトラブルになるのです。大手を振って気兼ねなく大勢の人たちが集まって、まだまだ広い学校の運動場で上映される映画を見ることと家庭でラジオを聴くことが大衆の娯楽なのです。


学校で行われる映画鑑賞の授業で見る映画は、もちろん教育が目的で作品がえらばれて上映されるのです。そんな映画は、真っ黒なスクリーンに大きな文字で文部省選定作品と無声で一番先に映し出されるのです。「ノンちゃん雲に乗る」は子供たちの心を感動させて情緒を育み、創造的で個性的な心の働きを豊かにする映画なのです。この物語はどこにでもある家族の話なのですが、とても大切なことを子供たちに教えてくれるのです。それは家族とのだいじな絆なのですが、子供にとって母親がどんなに大きな存在であるかを物語に描かれているのです。お母さんにおいてきぼりをくわされた活発でお転婆な女の子のノンちゃんは、一人で泣きながら昼なお暗い神社の境内にあるモミジの木に登り、木の上から池にユラユラと写った白い雲をもっと良く見ようと細い枝の先まで行ったところで折れてしまい、ノンちゃんは木から落ちて池に写る雲のなかに水しぶきを上げて吸い込まれてしまうのです。それからが、池に落ちたノンちゃんが臨死体験で雲の上の旅で得たことを描いたファンタジーな話なのです。田舎の犬や鶏と暮らし麦畑の中に建つノンちゃんの家は、まさに子供たちの住む里山の風景に似た、自然に囲まれた田園風景が映し出される映画なのです。


学校で見る人気の映画の一つに「空飛ぶダンボ」があるのです。それは、初めて見るアニメの総天然色映画なのです。スクリーン脇の大きなスピーカーから流れる音楽のすばらしさと、その鮮明な画面とマンガ雑誌で見た魅力的なキャラクターたちが、普通の人のように動く滑らかな動きに度肝を抜かれてしまうのです。ストーリーのなかでオリに入れられた母親象が、たずねてきたダンボを鉄格子越しに鼻で抱き上げて、子守唄を歌う場面では涙が出るのです。こんなに長いアニメの映画を見たことも初めてで、子供たちは何もかもびっくり仰天の体験をするのです。不思議でならないのは、なぜ映写機が二台並べてあるのかがわからないのです。上映中に後ろの映写機を振り返ってみればその謎がわかるのですが、心はすでにディズニーマジックのトリコとなっていて、両目はスクリーンにクギ付けなのです。耳を使って気持ち良く空を飛ぶダンボは、独りでいても何もできないけどティモシーやカラスたちに助けられて、初めて自分の弱点を克服することができるのです。一人では何もできないみんなの助けがあってこそ自分は強くなれることを、友達の大切さを子供たちは映画を通して学ぶのです。さまざまな映画を多く見ることによって、子供たちに感情と情緒ばかりでなく遠くの国や未知な芸術への知識を導いてくれるのです。


里山にある小さな映画館は思いついたように夜だけ古い映画ばかり上映するので、最新の封切り映画を見たいときは汽車に乗って大きな町まで行かなければならないのです。年に一、二回各戸に新聞折り込みのチラシで上映する時代劇の宣伝した業者が、地方を次から次とまわって興業をする有料の巡回映画が学校の屋内運動場を借りて上映するのです。昼間の上映は窓を閉め切り暗幕を引いて暗くするのですが、空気の流れが遮断されて硬い板の床に座る人たちの熱気が充満して蒸し暑いなかガマンをして、ニュース映像や映し出される憧れの銀幕のヒーロが演じる画像を夢中になって見るのです。夜の上映は、体育館の大きなガラス窓から月明かりが射し込み画像が薄くなったり、風が吹き込むとスクリーンが風にあおられて画面がゆがむのです。都会で封切りされてしばらくたって里山にやってくる円盤状に巻かれたフィルムなので、何度も使い回して傷ついたフィルムはスクリーンの画像が雨降りのように映り、弱くなったフィルムは上映中に突然切れて燃えあがったりするのです。映写用の強い光を放つ電球が切れてスクリーンに明かりが無くなった運動場は真っ暗になって、電球交換の修理が終わるまで明るくなった運動場で子供たちは大はしゃぎするのです。巡回映画は時代劇が多いのですが、なかでも子供たちに大人気の連続ラジオドラマを映画化した、「チョコザイな小僧、名を名乗れ!赤胴鈴之助だ!」「剣をとっては日本一に夢は大きな少年剣士」の赤胴鈴乃助は子供にとってワクワクする映画なのです。主役の赤胴鈴之助が後ろから刀で切られそうになると、観客のみんなが一斉に「危ない!」の声がかかり、映写中のいい場面で正義の見方が登場すると全員で割れんばかりに拍手がおきるのです。



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