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里山の子供たちの学校 3

里山の子供たちの学校 3


木枯らしが吹いて枯葉が演舞する校庭の霜柱をサクサクと音をたてながら踏みつけて、冷気がよどんだ校舎に入って教室に落ち着く間もなく、カンカンカコーンとチャイムが鳴って運動場に集合するように当番の放送係りが全校一斉放送をするのです。そんな寒い日の朝に限って、冷え切った運動場に全校生徒と先生が白い息をはきながら集まってきて朝礼が始まるのです。先生のサン、ハイッの掛け声で校歌を歌った後に、スーツにキチンとネクタイを締めて威厳のある立派なひげをたくわえた校長が、ダン上から子供たちを威圧するかのように時間をかけながら顔を左右に振って全員を眺めまわした後に一つセキ払いをして話が始まるのです。広い運動場にひびきわたるマイクのない腹から出す生の大声で、いつも決まりきった話をするのですが長引くと床下から冷え込む冷たい板の間が霜焼けの足の指が痛むのです。季節は変わって夏は夏で、ジリジリと白く見える太陽に焼き付けられる日陰のない炎天下のカゲロウが揺らめく校庭で、学年とクラスごと男女別に縦一列の等間隔に並んで、額から吹き出る汗を腕で拭いながら長時間の朝礼はつらいものがあるのです。そんな寒さ暑さの過酷な学校での環境で長時間立っていても、突然ばったりと倒れる子供はほとんどいないのです。里山の子供たちは、普段から天気が良ければ家の中で遊ぶことがなく、野山を飛びまわり季節ごとに移り変わる四季の風に順応する体温の調節がうまくできるように育つのです。


学校で何よりの楽しみは、学校給食の制度が始まったばかりの給食の時間なのです。四時間目の終わり時間に用務員さんが廊下の隅で振って鳴らすベルの音を聞くと、給食当番の子供は給食の準備をするのです。ガラス張りの給食室のカウンターに何年の何組と書かれたバケツにはいった脱脂粉乳とコッペパンと粗末な副食だけの質素な給食を取りにいくのです。脱脂粉乳は溶かした時間が長く過ぎると表面に膜が張り、生ぬるい上にまずくてとても飲める代物ではないので鼻をつまみ一気に飲みほす子供もいるのです。多くの子供たちは、家庭で風邪をひいた時にしか飲めないヤギの乳と比べながら、飲み慣れない異国の地から来た味気のない脱脂粉乳に四苦八苦するのです。薄っぺらな丸いアルマイトの食器に半紙を敷いた上の硬くてパサパサとした塩味のコッペパンと、四角く銀紙に包まれたマーガリンにわずかな副食だけの、制度が始まったばかりの給食支給なのです。その後、何年間が過ぎた時代の給食に、何品かボリュウムのある副食と本物のビン牛乳が付くようになるのです。牛や豚と鶏の肉料理は学校給食に出てこないのですが、鯨の肉だけは給食をはじめ日本人の家庭にとっても重要なたんぱく質源なのです。鯨肉の竜田揚げはとても軟らかくほとんどが赤身肉なのでとてもおいしく、子供たちに大人気で一週間の献立表を見て鯨肉料理のメニューがあると大喜びするのです。みんなで食べることができる楽しい給食が終わると、給食当番は食器と残り物などを給食室まで運ぶのですが、余った脱脂粉乳がバケツのなかから跳ねて着ている服にかかって汚れると変な匂いがするのです。


学校には家の事情や病気で、学校を休む子供が必ず日に何人かいるのです。学校を休んだ子供の家に給食のコッペパンを半紙に包んで届ける役目と様子をうかがいに訪ねて行くと、本人は意外と元気に飛びまわって遊んで居るのです。親が貧しくて給食費の徴収日にお金の都合が出来ないことや、授業で使う教材が買えなかったりの経済事情が子供の心に負担となり、登校の直前におなかが痛くなったり熱が出たりするのです。給食制度は、政府が不況によって増える欠食児童を救済することが主な目的なのですが、景気が良くなりつつある高度成長期には子供の栄養の不足を保護すると言う目的だけではなく、食事を楽しむことや子供たちが全員で食卓を囲むコミュニケーションの場所として給食は、給食制度が始まったばかりの時とは違う側面の意義を持つことになるのです。


先生の大きな仕事は、テストの問題とか文集はすべて手書きで謄写盤に原稿を挟んで刷るのです。コピー機や電卓という便利なものがないので、原紙の一面に塗られたロウを鉄筆で文字を書きながら除いて、そこからインクが紙ににじむ原理のガリ版なのです。手書きした原稿を謄写版の跳ね上がる上側のメッシュの下に原紙を上と下に間違えないように専用の金属棒で抑えつけて、インク缶からヘラでインク台にインクを適量取ってロ―ラーを縦と横と斜めに何度もまわして、青いインクをローラーになじませ浸み込ませるのです。次に、印刷する紙の位置の微妙な調整をしながら一枚いちまいローラーを転がして印刷するのです。ワラ半紙のプリントが大量に必要なときは、手先の器用な子供も手伝わされるのです。子供は原紙に書く文字を間違えるとオレンジ色の修整液で補修するのですが、早く乾燥させるためにフーフーと息を吹きかけたりするのです。鉄筆に力を入れ過ぎて書くと薄いガリ版用紙は裂けてしまい、途中まで苦労して書いた文章の原紙が全部をだめにするのです。子供たちが全員の帰った放課後に手を真っ黒に汚しながら、先生とする作業は特別な感じがして楽しくもあるのです。先生は、給食費や修学旅行の積立金などの諸費を集めるのも担任の決められた仕事なのです。集金した金額が合っているかはソロバンで確かめることになるのですが、給食費を払えない家庭もあるので上手に督促もする大変な仕事だと想像できるのです。一クラスに大勢の生徒をあずかり学期毎に渡す通信簿は五段階評価で、一人の生徒について七教科十七項目についての評価を下さなければならなかった先生は大変なことなのです。また、先生には日直と宿直という仕事があり、夜や休日の学校を守るのは警備会社ではなく先生の仕事なのです。夜の学校にはだれかしかの先生が寝泊まりしている訳なので、担任の先生が宿直のときに翌日の朝早く登校して玄関の戸をたたいて呼び起こし、寝ぼけまなこの先生をあわてさせるのが楽しみの一つなのです。


里山の名士でもあって立派で素晴らしい教育者の先生は、生徒の一人ひとりと真しに向き合い保護者の信頼も厚い先生たちなのですが団塊世代が通う学校は荒れに荒れていて、勤務評定導入に反発する動きを全国の広がりに感化された先生や、授業が思ったように行かないと泣き出す心の弱い女の先生や、生徒を置き去りに職場を放棄して駆け落ちをする先生など、問題の有る先生も少なくないのです。そんな問題のある先生が居る学校だけでなく、事故や不祥事がない普通の学校でも団塊世代でマンモスと化した子供たちをすし詰め教室にしていることが世の中の大きな問題になっているのです。一クラスに生徒が五十人以上で先生が一人あたりの生徒数が多ければ、必然的に教育の中身は薄くなって当然なのです。


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