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里山の子供たちの遊び「春~秋」10

里山の子供たちの遊び「春~秋」10


 秋の気配を運ぶ冷たい風に吹かれてくるインクの匂いの古新聞は、捨てられずにしっかりと縁側の隅にため込まれて、里山ではいろいろなものに使うのです。風呂釜や囲炉裏でマキに直接マッチで火をつけても燃えにくいので、新聞紙をグシャグシャに丸めてその上にたきつけの細かな木を置いてマキに燃え移るように積み重ねて火をつけるのです。これがまた一気に炎を燃え上がらすことが難しく、一発でマキに火がつかないときは新聞紙の燃えカスをきれいにかき出して初めからやり直さないといけないのです。家族が毎日使うくみ置き便所の落とし紙として、新聞紙を一定の大きさに切りそろえて使うのです。硬くてお尻が痛くなることは確かなのですが、子供たちは新聞紙を使う前に読めない活字を見ながら用をたして学校で未だ教えてもらえない難しい漢字の勉強をするのです。新聞紙はかなりの割合でくみ置き便所の中に落されてフン尿とまみれて折り重なり、やがてくみ置き便所がいっぱいになるのです。くみ置き便所の外のひさしの下にせり出して開けられて木のフタをされた小さな取り出し口からダラ用「肥え」ヒシャクでダラオケ「肥えオケ」にくみ取って、テンビン棒の真ん中にひっかけて人が前後で肩に担ぎ、バランスを取りながら遠くの畑に運んで畑にまいて有機肥料にするのです。きれいな包装紙のない里山の商店に買い物に行くと、肉屋さんでは経木「木の板を薄く削ったもの」の上に肉をのせて包み、それをさらに古新聞で包みヒモで縛って渡されるのです。野菜や魚はそのまま古新聞で包むのです。子供たちが毎日学校へ持って行くアルマイトの弁当箱は母親が古新聞で包んでくれたたけで、乱暴に扱うとタクアンの汁が黄色くにじみ出て古新聞にしみて教室中タクアンの匂いが立ちこめるのです。学校では習字の用紙と同じ幅に切った古新聞で筆の動かし方の練習に使い、子供たちの楽しみの行事のある前日は雨が降らないように古新聞を丸めててるてる坊主を作り、固く丸めてヒモで何重にも縛って野球のボールの代わりに使うのです。カヤブキ屋根の建物は床や壁の造りが驚くほど簡単なのです。床に敷かれた畳やゴザの下は隙間だらけになるように板が貼られていて、その板の上に畳やコザを敷いただけなのです。秋の大掃除には、畳を上げると隙間だらけの板の上にはビッシリと新聞紙が敷きつめてあって、床下から冷たい風が入らないようにするのです。春にはそれを取り払い、風を通して床下を乾燥させて涼しくなるようにする春と秋の二回行う季節の変わり目の恒例行事なのです。畳の下から取り除いた新聞紙はかび臭いのですが、捨てることなく風呂釜や囲炉裏のたきつけになるのです。買い物をした商品に包まれたきれいな包装紙やまれに入る折り込広告があると、着せかえ人形の着物や折り紙にして女の子が楽しみ、男の子はもっぱら折りたたんで作る「紙鉄砲」や「紙飛行機」を作るのです。包装紙のピカピカの金色の紙で折った飛行機は、翼を輝かせながら風に乗って舞い上がり、友だちに自慢しながら大空へのあこがれをかき立てるのです。子供たちが集まって、いろんな紙を使い創意工夫をした形の紙飛行機を作って持ち寄り空中に高く飛ばして滞空時間の長さを競争する「紙飛行機遊び」なのです。


極貧の時代から時が少したって、里山の広大な土地にけわしい山から湧き出るきれいな大量の水と、降る雪で浄化される清い空気と、安価な労働力を求めて大きな工場が都会から進出してくるのです。高原地帯にある家族で商う湯治場の温泉には、観光レジャー開発会社が大きな資本でホテルやスキー場とゴルフ場が開発されるのです。里人はその利益を生み出す企業の恩恵である労働にさずかり、家庭に月給と言う現金収入が入るようになるのです。今までの子供たちは自分が何らかの方法でしか現金を手にできなかったのが、働きにでた権威のある父親から初めて小遣いと言う名のお金がもらえるようになるのです。


遊びにも少しずつ変化が表れて、小遣いで買えるようになった少年雑誌で知識を得る子供たちは、文房具店や雑貨屋で売っている模型飛行機のキット、横八cm~十cm、縦三十cm~五十cmの袋に入っているのを買い求めるのです。袋の中身は、竹ヒゴと日の丸が印刷された紙に長いゴムや棒材とプロペラなどで、これらに接着剤を使って組み立て自力で飛ぶ飛行機を造るのです。組みたてるのは割りと簡単なのですが、組み立て時の翼の左右前後のバランスを上手にしないと、飛ばす時にプロペラから失速して地面に衝突して破損したりする影響が大きいのです。早く組み立て飛ばしたい子供たちは、飛行機を持ちよって広場やちょっとした小高い丘がある場所を選んで集まり、飛ばし合いをするのです。どれだけ長時間飛ばすか、どれだけ遠くへ飛ばすかを競うのです。自らが操縦が不能なので手から離れると、どこに飛んで行くか予想できないのです。家が立ち並ぶところでは、着地点が普段から怖いおじいさんの居る庭に落ちてしまったり、家の壁に衝突してバラバラに壊れてしまい、池や川の近くでは水の中に落ちたりして、さまざまな状況で回収の不可能な状態に成ってしまい、叱られる親にも言えずわずかな小遣いで買った飛行機を無くしてガッカリするのです。


里山のどこの小さな雑貨屋でも売っている花火の二B弾を爆発させる「二B弾遊び」がはやるのです。花火の類なのですが、爆竹を強化した小さなダイナマイトと変わりがないのです。大きさは全長十センチくらいの円筒形で、牛乳ビンを破壊するほどの威力があり、全国で大怪我が絶えなかったのです。花火との最大の違いは火やマッチを必要とはせず、その辺の石や木材にマッチを擦る要領で着火するというますます危険な機能を備えているのです。点火するとシューと煙が出てきて、最後にパァンと大きな音がするのです。悪ガキたちは二B弾に点火したものを直ぐビンに放り込み、慌ててフタを閉めて遠くへ逃げる直後にボンと鈍い音がして、フタが上空に三m位は吹っ飛ぶのです。このイタズラが楽しくて、点火して爆発するかしないかの直前にフタを閉める、その瞬間の緊張感がたまらないのです。二B弾は水の中でも爆発するのです。着火すると最初は円筒形の先から白い煙がモクモクと出てきて、十秒くらいすると煙が黄色に変化するのです。煙が黄色になった段階で川や池の深みに投げると、水中でボコッと破裂して黄色の煙とともに気泡が浮いてくるのです。着火してから爆発するまで二十秒くらいの時間があって手の中で爆発させてやけどをしてしまうガッツマンも現れたので、二B弾は全国的に危険な花火の代名詞になってしまったのです。


危険な花火のなかに、かんしゃく玉もあるのです。メカニズムはいたって簡単で、メーカーによって多少の違いはあるのですが、基本的には黒色火薬とマグネシウム アルミニウム粉末 そして砂が玉の中に仕込まれた成分で、たたきつけられて圧力が加わって砂と火薬が擦れ合った結果として発火、爆発する仕組みなのです。なかには、遊びの延長のまま大量のかんしゃく玉をズボンのポケット「かくし」に隠し入れたまま学校に行き、休み時間に運動場で遊びまわっている最中に転んでしまい、そのショックで大きな音で大爆発を起こし大やけどを負った子供もいるのです。


夏でもないのに麦わら帽子を深々とかぶり、両手にはブリキ製のピストルを腰の位置で前に突き出して構え、ゆっくりと右手のピストルを顔の前まで持ち上げ、銃口に口をすぼめて息を吹きかけるテレビの西部劇ドラマのワンシーンのまねをするのです。子供たちは昔ながらのチャンバラゴッコをするのと同じように、テレビ放映の始まったばかりのローハイドやローンレンジャーとララミー牧場の主人公であるガンマンになりきって遊ぶのです。小遣いで買ったブリキ製のピストルと、ロール状の赤い巻き玉の八ミリほどの紙テープには一センチおきぐらいに粒状の火薬が規則正しく仕込みいれているのです。この巻き玉をピストルに入れて引き金を引くと、バネの力で一粒ずつ火薬をたたいて大きな音を立てて破裂するのです。弾は飛び出さないのですが、声でバーンというのとは比べ物にならない本物に近い大きな音と火薬の匂いがするのです。


里山で集落の違う子供たちのグループと小さなイザコザが勃発すると「戦争ごっこ」をするのです。集落と集落の間にある森の小さなホコラを守備隊となる子供たちグループが守り、それを攻める攻撃隊になる子供たちグループと別れて戦争ごっこをするのです。兵器は木のマタの自作パチンコ 細い竹筒に新聞紙をかんで弾にする紙鉄砲 二B弾を細い水道管に入れて、その上からビー玉の弾を詰めたものを使って攻防戦を繰り広げるのです。鎮守の森の木の陰に隠れながら、それぞれの銃でホコラの守備隊をめがけて撃って攻撃し、土や草の匂いを嗅ぎはいつくばって徐々に前進しながらホコラに向うのです。応戦する守備隊も、偵察隊がホコラの近くの木に登り右の何々の木の付近に何人が居て左の大石の裏に何人と守備隊本部に報告をするのです。報告を受けた守備隊は、ホコラの屋根や裏に隠れながら投石をしたり、かんしゃく玉を投げて破裂させ敵をけん制するのです。戦いに耐えられなくなった攻める側も責められる側も勝敗のケジメは白旗を上げるか、大きな声で「負けた」と宣言するのです。勝った方がイザコザの調整主導権を持って談判に応じて解決するのです。今、考えると恐ろしい遊びなのですが、管から二B弾で発射されたビー玉が目に当たったりしたら大変な大怪我になるのですが、みんなの頭はコブだらけや体にはアザだらけ程度で不思議と大ケガはないのです。


子供たちの使う筆記用具は鉛筆なのです、肥後守のコガタナで木部を回しながら円すい状に削って芯を出し先が細くなるようにするのです。その削った芯が折れないよう保護するのにキャップを被せるのです。縦に切れ目の入ったピカピカ光るクロームキャップと、明るい灰色に濁ったアルミキャップの二種類があるのです。 このアルミ製のキャップが危ない遊びに使われるロケットのボデーになるのです。燃料は制服のカラーやシタジキのセルロイドをつかうのです。このカラーやシタジキを細かく切って、キャップに詰めて固形燃料の充テンの作業の終了なのです。キャップの下をペンチで隙間無くつぶしてノズルにするのです。燃料が充テンをした部分をろうそくの火が当るように調整して、近くに退避するのです。キャップの下部を火でアブルと燃料タンクの中ではセルロイドが溶けて液状化になってガス化するのです。どんどんキャップの中の圧力が高まって行き、ロケット内の燃料タンクの圧力が限界に達するとロケットは、ビシューーーーーールルルッ と白煙を噴出しながら発射するのです。このロケットは発射までどのくらいの時間がかかるのかと、どっちの方向に飛び出すか全く予測が出来ず大変に危険な遊びの代表なのです。


田んぼの稲がみのりの秋になると、子供たちはイナゴ獲りをするのです。母親に手ぬぐいを袋に縫ってもらい口の部分をすぼめて十cm位の細竹をくくり付けてできたものを持って、道の草むらに朝露の残る早朝の田んぼに出かけるのです。稲の葉の先端で動きの鈍いイナゴを簡単に手でつまんで捕まえて、輪にした入り口の袋の中に次から次と落とし込むとバタバタと集団で暴れ回るのですが入口までは上がってきて脱出ができないのです。秋になると、どこの家でもイナゴを甘辛く煮たツクダ煮を作って、冬に備えてのカルシュウムがたっぷりの保存食にするのです。稲刈り後の田んぼは抜かるみで少々走りにくいのですが、転んでもそんなに痛くないので絶好の遊びの場所なのです。水はけが良くて土の乾いた大きな田んぼでは、子供たちが集まり「田んぼ野球遊び」を泥だらけになって始めるのです。ボールは軟球でも硬球でも無くゴム玉を使い、畔が四画に囲まれているのでちょうど四隅で四つのベースが出来るのです。完全整備されたグランドでする野球と違い、打たれたボールが刈り取った稲の株「カブツ」に当たったり、足跡の穴に当たったりして、とんでもない方向に跳ねてホームランになったりするのです。



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