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里山の子供たちの遊び「夏」8

里山の子供たちの遊び「夏」8


真夏の暑い季節になっても、学校にはプールなど造られていないのです。都会の子供たちがプールで泳いでいるのを知っている大人たちは里山の子供たちが、かわいそうに思い集落からさほど遠くない川に自然のプールを造ってくれるのです。流れが比較的に緩やかで危険のない場所を選び、俵やカマスの中に砂や砂利を詰めて積み上げ流れをせきとめただけなのです。自然界のプールは普段は清い流れの川なのですが雨が降れば濁ってしまうし、上流からは生活の痕跡物が流れ着いて水面にとどまり浮かんでいるのです。しかも、冷涼な高原地帯の地下から湧き出る水が集まって流れてくる清水は、真夏でも冷たく長く水中に入っていられないのです。六尺フンドシ「赤フン」を締めただけのクリクリぼうず頭の子供たちは、体が冷えて震え唇が真っ青になると真夏の太陽に照らされて温まっている平らな大石の上に腹ばいになって「甲羅干し」と称して冷えた体を温めながら休憩するのです。天気のいい日が続くと毎日のように川へ通う道の両脇には膝丈くらいの夏草が生い茂っているのです。その草と砂利道に強い日ざしが照りつけられて立ちのぼる熱気と湿気の中を汗をかいて、遠くにカゲロウがユラユラと揺らめく道をペッタンコのゴム草履を引きずりながら行くのです。川へ行く途中の畑には、スイカ マクワウリ キュウリ トマト トウモロコシ などの夏野菜が育てられていて、食べてくれと言わないばかりに完熟をしているのです。子供たちの家でも同じ野菜がいくらでも有るのですが、他人の物を盗るスリルと悪いことをする罪の意識を感じながらいたずら半分で失敬するのです。農作業をしている大人に見つかっても、隠れながら盗る子供のしぐさをおもしろそうに眺めているだけなのです。里山の人たちは、お金には不自由をしているのですが、額に汗をして作ったものは豊富にあるので、少々のことには寛大で怒られとがめられることは先ずないのです。失敬した野菜は冷たい川の水に冷やして、乾いた喉と空腹を満たし残すこと無く食べるのです。真夏の入道雲が見える青い空にジージーセミが鳴いているうちはよく遊び、お日様が傾いて空が赤くなり始めてカナカナセミが鳴き出すと、泳ぎ疲れてだるくなった体を動かして家路に急ぐのです。                    


近所の庭に植わっている手ごろな女竹を根元から切ってきて、雑貨屋で買った釣りセット、釣り針や糸と浮きなど全部入っているものを女竹の先端にくくり付けて自家製の釣サオの完成なのです。積み上げられた堆肥の中をほじくり、ミミズをつかまえて餌にするのです。釣りに行く裏山の小川には大川からそじょうしてくるイワナを狙って行くのですが、小川の周辺は密生して雑木が生い茂っていて昼間でも薄暗く気持ちよくないのです。イワナは小石の瀬が段差で落ち込むドブの底で、上流から水面に落ちて流れてくる昆虫などを待ち構えているのです。大きな石のある流れのよどんでいるドブは、イワナにとって人間や鳥などの外敵から身を守るために石の下に逃げる格好の隠れミノとなって、エサ場と隠れ家が手にはいる絶好のすみかなのです。小川なので大きなイワナはいないのですが、まれに二十四~二十五cmくらい手ごろなものが釣れることもあるのです。何匹か釣れると、川の渕の山竹を折ってササの葉を先端部にだけ残し他は取り除き棒状にしたら、山竹の先をイワナのエラから口に通して腰にぶら下げて歩くのです。


イワナが釣れなくて飽きてくると、今度は木のマタで造った「パチンコ」で雑木林の中を飛びまわる小鳥が枝にとまる瞬間を狙って撃ち落とそうするのです。Yの字の枝の両端に結びつけた生ゴム管の真ん中にくくり付いている厚手の皮に小石をはさんで力の限り目の前まで引っ張って放すと、小石が勢いよく飛んで小鳥に命中することもあるのです。パチンコには他にも使いようがあるのです。里山の家で飼われている犬は放し飼いでウロウロと街道を歩いているのです。そんななかに気性の荒い犬に不意に出くわすと、子供だと軽くみて必ず近くまで寄ってきてやかましいくらいにほえて威嚇するのです。そんな時に助けてくれて活躍するのがパチンコの威力なのです。弾は小石ではなくて「カンシャクダマ」を使って犬の足元の砂利道を狙って撃つと、火薬が破裂する音にビックリした犬は尻尾をまいて飼い主の家に逃げ帰るのです。


夏の夜は悪ガキたちが集まって、石を並べて造っただけの野天の火葬場の傍にあるお地蔵様の前まで行って証拠になる品物を置いて次の組が持ち帰ってくる「キモ試し」をするのです。あかりを持たない闇の中は、生暖かい風が穂の出始めたススキをそよいで人影がユラユラと揺らいでいるように見えて、墓石の列は何人もの人が無言でにらみつけているようで、夜の火葬場が近い風景はそれだけでも気持ちが悪いのです。その中をクジで一番に決められた三人一組が離れないようにかたまって、細い砂利道を踏みしめる膝はガクガクとさせて恐る恐る暗闇のお地蔵様へと向かうのです。墓場のあいだを抜けていよいよ火葬場が近くなると、一人の子供が強い恐怖に駆られて首筋から背筋がスーツと寒くなり始めたら体の震えがとまらないのです。怖さいっぱいで見つめる真っ暗な中に何かが見えた気がしたとたんに恐ろしさに耐えるガマンの限界を超えてしまい、「出た~」と大声を上げながら来た道を一目散に逃げ帰るのです。強気を装っていた他の二人も怖さを隠していたのですが、「出た~」の大声に誘発されて「ギャ~」と叫びながらわれ先に逃げ帰るのです。仲間が待っている軒先の明るい所に逃げ帰った負けず嫌いの子供たちは、自分たちのキモの弱さを隠すための言い訳を血だらけの生首が火葬場の石の上に有ったとか、白い着物を着た長い髪の毛のお婆さんがお地蔵様の前に立っていたとか、自分たちが見てもいない空想の話をこれからキモ試しに行く順番の子供たちの心に恐怖心をあおるのです。話を聞いた子供たちは最初に行ったグループより何倍ものの怖い気持ちを持ってしまい、何グループか挑戦するのですが結局はお地蔵様の前までへは誰も行けないのです。


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